第7話 倉田大樹、と田中成海

「田中、ちょっと待って!」


声をかけたはいいものの、ここからどうしていいかわからない。


「とにかく、ストップ!ちょっと待ってて。」


俺は大急ぎで、かかとをふんだままのスニーカーに足を突っ込んだ。


「…ちゃんと履いたら?」

田中が言った。まともに口を聞いたのは、4年生のあの日以来だった。


「おう。」

田中が、走り出したりしないのを確認してから、ふみつけたかかとを人差し指で直した。田中の目はまだうるんでいたが、俺の声にびっくりしたのか、少し落ち着いた顔をしている。


田中はうつむいたまま、

「なに?」

と聞いてきた。


「なにって、えっと、」


田中は、両腕で抱えたリュックサックをぎゅっと抱きしめて立ち尽くしている。


「あのさ」


田中は俺の方をちらとも見ない。


「一緒にかえろうか?」


やっと絞り出せたのは、そんな言葉だった。

それを聞いて、田中はやっと俺の顔を見た。

田中が断りそうな気がしたので、あわてて付け足した。


「どうせ、同じ方向だろ?早く行こうぜ。」


俺は、田中の返事を待たずに、先に玄関を出た。断られるのが怖かったんだ。

雨は、まだ降り続いている。

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