3.ドジ属性・・・?

七瀬が店に来て槙斗の父の話や過去のことについて話した翌日。七瀬が店でバイトすることになったので、顔合わせということで放課後に店で集まることになった。


「そういえば、お店に名前ってあるのですか?」


 学校が終わり槙斗が店に向かおうとしたところ、前を歩いている七瀬を見つけたので一緒に行くことになり歩いている。


 少し世間話をしていると七瀬が疑問に思っていたのか、ふと思い出したかのように質問してきた。


「う~ん、それがないんだよなぁ」

「ないのですか?」

「うん、外にある看板にも『Café』って書いてあるだけなんだよ」


 槙斗と萌央が今抱えている問題の一つとして、店に名前がないという問題がある。


 実は開店前からの問題で、当時はせっかくの店のオープンならいい名前にしたい!という思いが強い朝一と萌央がああでもないこうでもないと考えているうちに、開店を迎えてしまったのである。


 開店後や涼太が入ってきた後も決まらずにいるのが現状だ。こだわりが強いというのも面倒なものである。


 しかし、さすがに無いといろいろ不便なのでいい加減決めてしまいたいのも山々なのだが…。


「よし、そうだな、七瀬さんも加入することになったし。開催するか、第何十回か分からない店の名前を決めよう会議」

「私、いい名前出せるでしょうか?」

「俺が言うのもなんだけど、期待してるよ」

「が、頑張ります」


 店の名前を決める会議をすることになったため、七瀬はぶつぶつ呟きだした。色々考えてくれるのはありがたいが、根詰めすぎないで欲しいものだ。


 ただでさえ、前回前々回の会議では諦めてみんなで遊び始めってしまったのだから。こんな真剣に考えてくれる七瀬に背徳感を抱きながら、槙斗は情けないと思った。


 過去の自分達の情けなさに顔をうずめていると、七瀬がふと思い出したように再び話しかけて来た。

 

「あ、そういえば気になってたことがあるんですけどいいですか?」

「ん?なに?」

「看板にも書いてある『Café』の『é』の上の点ってなんですか?」

「ああ、あれはフランス語表記のアクセント記号なんだよ。あれが無いと発音しないっていう意味になるから『カフ』という読み方になるんだ」


 英語でも『Café』にはアクセント記号がついて『Cafeteria』にはアクセント記号が付かないのがまぎわらしい。


 ちなみに『カフェテラス』は日本語だったりする。


「英語だと思ってたんですけど違うんですね」

「実際、涼太が店の貼り紙を書いた時に忘れてたからな。まぁ、日本だったら無くても伝わるし問題はないんだがな」

「初めて知りました。気をつけますね」


 七瀬とちょっとした話をしながら歩いていると、あっという間に店に着いた。いつも一人か涼太と一緒に向かうので、女の子と二人で話をしながらというのは新鮮だった。そのためかいつもの道のりが短く感じることになった。


 店の入り口のドアを開けようとすると、中からガタンガシャンと大きな物音が鳴った。


「な、なんかすごい物音がしましたけど?」


 七瀬は何事?とびっくりしているが、槙斗は音なので何があったかはよく分かる。


 分かるからこそため息を吐かずにはいられない物音なのだ。なので槙斗はため息を吐きながら店のドアを開けた。


「はぁ〜、大丈夫か凛?」

「凛?」


 ドアを開けた先にはいくつかの割れた皿やコーヒーカップと一つ段ボール箱が散乱していた。


 それともう一つ、この店の制服を着た女の子がスカートが捲れ、パンツ丸見えの状態で床に突っ伏していた。


「み、見たらダメです!」

「ぶっ?!」


 七瀬が提げていたカバンを槙斗の顔に押し付ける。そこそこの勢いで押しつけられたので鼻をものすごく痛めた。


「だ、大丈夫ですか?」

 

 七瀬が倒れている彼女に声を掛けた。声を掛けると「いたたたた」と唸りながら起き上がった。


「大丈夫よ。ありがとう」

「本当に大丈夫ですか?おでこと鼻真っ赤ですけど」


 床に思いっきり打っていたらしい。槙斗と同様に鼻を赤らめていた。


「ったく、凛、いつまでドジなんだよ」

「ん・・・、槙斗じゃない?居たの?」

「そりゃあ俺ん家の店だからな」

「あら、そうだったわね」

「はぁ〜、紹介するぞ七瀬。こいつはこの店で働いて

いるもう1人の従業員だ。今見たように、よく転ぶドジっ娘だ。仲良くしてやってくれ」

「は、はい」

「なんか、私の説明適当すぎないかしら?」

「じゃあ、自分でも説明してくだせぇ」


 明らかに適当すぎた説明だったため、凛は呆れつつ自己紹介を始めた。


「私の名前は那須原凛なすはらりんよ。学校はあなたとは違う女子校に通っている二年生。そして、この店のバイト第一号ね。よろしく後輩ちゃん」

「えっ、歳上の方なんですか?」

「あぁ、涼太もこの春から店を手伝って貰っているがこいつは去年の春からだな」

「そうなんですね、よろしくお願いします、凛さん」

「よろしくお願いするわ」

「凛、後で七瀬を含めた顔合わせ会するから準備しておけ」

「了解したわ。じゃあ私、倉庫に荷物運び途中だからまた後でね」


 そう言うと、転んでぶちまけた段ボールを積み重ね店の奥にむかぢた。


「清楚で綺麗な方ですね」

「そうか?」

「はい。そういえばなぜ凛さんに当たりが強いんですか?」

「それはだな。あいつ仕事は良くできるんだが、さっき見ただろ、ドジなんだよ。それで何度も迷惑というか、呆れたりというか」

「転ぶくらいなら誰でもしそうな気がしますが」

「七瀬は知らないんだよ、正真正銘のドジってやつを」


 なにやら明後日の方向を向きながら、小さい涙をこぼす槙斗に一体何がと不思議になる七瀬は、凛が向かった奥の倉庫への通路に目を向けた。


「きゃぁぁぁぁぁぁーーーー」


 そうすると、突然その通路の先から大きな悲鳴が上がった。突然の悲鳴に身体をビクッと震わせながら驚いた。


 ガシャンドゴン、ガラガラガシャーン


「・・・な、ドジだろ」

「・・・よく分かりました」


 槙斗はこの後な惨状の片付けに遠い目をして、七瀬はバイトうまくやっていけるか心配になるのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

日常はいつも甘いココアの中に 琥珀 @amber822

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ