第28話:グラスとペットボトル


「美紀ちゃんには、俺の日常を見てもらって理解してもらおうと思った訳だけど……」



 ちらりと綾に視線を送る。



「ごめんってー。あちらの世界からお誘いがあって……」



 なにそれ、怖い!



「安心して寝ちゃってた、と」



 美紀ちゃんが目をキラキラさせて身を乗り出して聞いている。


 俺たちは、引き続き、俺の部屋に三人いる訳だけど、普段あまり使わないローテーブルを出してきた。


 テーブルの上には、グラスに氷を入れたコーラが置かれている。



「普通、同級生の男の子の部屋で寝られないよ!? いつも悠斗くんと!?」


「ちょっと待て!それだと、俺が綾と一緒に寝てることになる。そこは全然違うとはっきりさせておきたい!」



 美紀ちゃんの興味100%の質問に答えたのは、俺だった。



「悠斗くんは、こんなに近くにクラスのマドンナ的な子が寝てるのに手を出さないの⁉」


「いや~、別に俺だって聖人君主ではないけど、綾は違うかな~って」


「ひどっ! クラスでは人気があるのしっとろーもん!?」


「まあーねぇー、でも、ニコニコして営業スマイルって大変そうっているかぁ、見てるだけでしんどいっていうかぁ」


「綾ちゃんって、家では博多弁なんだね!」


「はびっ!そ、そんなことないよぉ」



 ああ…いまさらだ。寝こけてた時点で全ては終わっていたと思っていい。そんな誤魔化し方で、どうにかなる訳じゃない程、既に会話していた。綾も俺んちだからと気を許していたのだろう。


 俺と綾の間には恋愛感情など発生しないし、こいつをどうにかしてやろうとかは思わないのだ。



「うーん、あれかな。兄妹……こんな仲のいい兄妹はマンガの中だけだから……双子! 私の周りにリアルの双子がいないから、イメージだけど、イメージ込みで双子!」


「「ふたごー!?」」


「わぁ! すごい! ハモった!」


「「はぁ⁉」」


「わぁ! また!」



 美紀ちゃんが喜んでいるからいいけど、綾と双子とか不本意だ。



「一卵性の双子。性別違うけど」



 もはや、それは想像上の生き物では!?

 

 一卵性の双子と言ったら、元の細胞は1つだから、二人とも男性か、二人とも女性だろう。男女の双子は二卵性なのだ。



「こんなに日常が見せてもらえると思ってなかった。このグラスのジュースみたいに、私はお客様として迎えられて、それらしい日常を見せられると思ってたの」



 美紀ちゃんが水滴がたくさんついたグラスを持ち上げて、日に透かすようにして見ながら言った。



「例えば、普段はペットボトルで直接飲んでるのに、今日はちゃんとグラスに注いで……みたいな」



 そう言うことか、確かに普段 綾しかいなかったらペットボトルのことが多い。お茶なら沸かすからグラスになるだろうけど。



「綾ちゃん、悠斗くんのことが好きって言ってたけど、例えば、付き合ったらどんなことしたいの?」


「……別に、特に…今まで通りで……」


「ん? それって、私が悠斗くんを取ってしまうって思って……? 次男ができた時に、急に母親に甘えだす長男みたいな?」


「なっ……! そんな訳ないやん!」


「取られそうになったから、急に気になりだした的な?」


「ちっ、ちがっ……」


「かっ、可愛い……」



 綾に抱き着き頬ずりしようとする美紀ちゃん。嫌がる綾。


 俺はこの光景を見ていていいのだろうか……



「大丈夫、悠斗くんは取りませんからなぇ」


「ううぅ……」



 どうも綾と美紀ちゃんでは役者が違うようだった。

 そして、美紀ちゃんのこの包容力よ。「天使」改め「聖母」だな。

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イケメンの俺は美少女のあいつとは付き合わない 猫カレーฅ^•ω•^ฅ @nekocurry

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