第27話:美紀ちゃんの訪問
週末に美紀ちゃんがうちに来ることになった。なんだろう、仕切り直しみたいな?
ひとつ注文がついたのは、綾も通常通りいてほしいとのこと。普通に考えて彼女が来たときに、他の女の子がいたら嫌だろうと思ってたんだけど……
「綾もいて欲しい」っていうのが俺の中では既に違和感があった。あいつは放っておいたらうちにいる生き物だ。
引っ込ませるからいないだけで、デフォルトはうちにいるものだと思った……が、それは付き合い始めたばかりの美紀ちゃんには理解してもらえなさそうなのも分かる。
とにかく、綾を「割と自然な感じで、かつ粗相のないように」部屋に配置して美紀ちゃんを迎えに行く。
まあ、1~2時間したら帰るだろう。帰らなかったら、綾を自分の部屋に戻らせれば合法的に(?)ラブラブ空間ができる!
「いいか、綾。お前は部屋でゲームしてろ。1~2時間したら、さりげなく自分の部屋に戻り、目を閉じて耳を塞ぎ、何も見ず、何も聞かず、何もにおうな!部屋のベッドの上でただ大人しく時間を過ごせ!」
とりあえず、美紀ちゃんを迎えに行く前にはちゃっかり綾が部屋にいたので、先に念を押しておいた。
「拷問!? あと、においって何!? なんするつもりなん!?」
「
「え⁉ もういきなりそんな感じ!?」
「いや、狙ってはないけど、もしかしたら……ってこともあるじゃない?」
笑みがこぼれる。
「えー、悠斗が美紀ちゃんとなんか始めたら私は絶対覗く!」
「いや、自信もって言うなよ!」
「だってぇ、二人して、大人の階段を上って行かんでもいいやん!私を置いてさぁ」
「三人で上ったら変なことになるだろう!」
「ぶー」
綾がベッドにふて寝した。いや、それ、俺のベッドだから! これから彼女が来るのにベッドにお前のニオイを付けるんじゃない!
色々言いたいことはあったけれど、とりあえず、美紀ちゃんを待たせるのは悪いので急いで家まで行くことにした。
***
とにかく、美紀ちゃんの家まで行き、うちまで連れて来た。別に来てもらうだけでもよかったのだけど、俺ができるだけ一緒にいたかったというのもある。
美紀ちゃんの服装は、華美ではなく地味でもなく……ただ今までとちょっと違ったのは前開きのシャツを着ていた。あと、スカート。脱がせやすいように……ではないよなぁ。
ついつい、よからぬことを考えてしまうが、ただの俺の妄想だ。
「綾ちゃんは、家にいるんですか?」
「あぁ、うん、色々指示しない方が自然な感じだと思って、ゲームでもしていろと言ってきた」
「ううう……楽しみのような、緊張するような……」
彼女は何を期待して、何を恐れているのか……
*
地下鉄を降りて、あの緑道を通ってうちまで来た。途中に巻かれた砂はもう分らなくなっていた。例の「猿谷ナイフ事件」の時に出た俺の血はさすがにえぐい印象だったから、誰かが砂をまいてくれたあの砂だ。
砂のように綾のトラウマも霧散してくれたらいいのだけど……
「いらっしゃい」
「いらっしゃいました」
ようやくうちにつき、鉄の玄関ドアのカギをあけ開く。
「あれ? 綾ちゃんのクツがありませんね」
「ああ、あいつはよくベランダ経由でくるから……防火壁みたいなやつは下半分が外されていてそこから玄関用スリッパで来る感じ」
「もはや、玄関すら通らないのですね……」
両親は例によって外出中らしい。休みの日くらい家でゆっくりしたらいいのに。
そのまま美紀ちゃんを奥に通し、ガチャという音と共に俺の部屋のドアを開けた。
「……」
「……」
「寝てるな」
「寝てますね」
そこには、俺のベッドで丸まって寝ている綾の姿があった。
しかも、口が半開きなので、ご丁寧に俺の枕によだれを垂らしまくって寝ている。今日の夜はあの枕が使え無さそう……
「ぷっ、ふふふふふ。これだけで十分、どんな関係か分かりました」
「これを見てどんな関係と思ったか逆に気になるけど、誤解がないように頼む」
綾はいつでも俺の想像に収まらない。常に俺の想像の斜め上。理解したと思ったらいい意味で裏切られる。飽きないヤツなのだ。
はぁ……起こすか。
「おい、クラスのマドンナ、起きろ!」
「ふぇ? あれ? 寝てた? らいじょうぶ、らいじょうぶ。美紀ちゃん来たらちゃんとするけん」
ゆすぶったら目は覚ましたが、完全に寝ぼけている綾。学校でのキラキラ営業スマイルは見る影もない。なんなら よだれが垂れてるし。
「……」
「……」
「……え?」
美紀ちゃんの優しい笑顔。天使だな、この子。
綾のあほヅラ。あほの子だな、この子。
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