第26話:話し合いの場としてファミレスはどうだろう

 色々あった放課後、俺と綾と美紀ちゃんはファミレスに来ていた。16時ごろのファミレスは、主婦たちのママ会も終わっていて、サボりのサラリーマンも引き上げていて、それでいて夕飯時よりも早い時間でそれほど混んでいなかった。


 ファミレスのテーブルは4人がけのところが多い。俺と、綾と美紀ちゃんでファミレスに行った時、どのように座るのが正解だったのだろうか。俺の左側に美紀ちゃんが座り、テーブルをはさんで向かいに綾が座っている。


 俺でいいような気もするが、綾と二人でファミレスに来た時も俺の向かいに綾が座る。そう考えると、美紀ちゃんがおまけ的に感じてしまうので、俺としてはちょっと恐縮している。


 綾と美紀ちゃんの優先順位が分からないのだ。判断がバグり始めている。通常、家族、親戚など身内は一段下げて他所の人を一段上げて考えるべきだ。そう考えると、綾は家族でもなければ、姉弟でもない。単なる隣に住んでいる人。


 一方、美紀ちゃんは俺の彼女。つまり、身内!? いま優先すべきは綾なのか!?



「どういうことかな!? 刺されたって!? 聞いてないよ!」



 美紀ちゃんがむずかりだ。俺の判断がバグり始めて話し始めなかったこともあって、状況はいよいよ良くない。



「いや~、綾を守ろうと一緒に歩いてたら、何やかんやあって刺された」


「ふわっとしてる!」


「ごめんなさい。悠斗は私のせいで刺されたみたなもんだから……」


「中々ないよ?日常生活で刺されること!」



 うーん、美紀ちゃんが既にツッコミ役になってしまっている。まあ、リア充だしちょっとくらい刺されることもあるだろう(?)



「それに、悠斗くんが刺されたって知らずに、私のうのうとデートしてしまったし……」



 美紀ちゃんの目から涙がこぼれてきた。



「あまつさえ、チーズハットグまで食べちゃったし……」


「チーズハットグには罪はないからね。あと、傷の治りとチーズハットグは無関係だから……」



 ファミレスで女の子が泣いている……周囲の目が痛い。とりあえず、ハンカチを渡す。



「どんな酷いきずなの!?」



 ああ、何か変なスイッチが入っている。昼休みに包帯は見せたはずだけど、もう一度袖を捲って見せてみた。



「ほら、これだけだから」


「骨が見えるほどの傷って……」



 昼休みのあれ、ちゃんと聞こえてたんじゃないか!



「そう言った意味では、私を庇って……」



 綾も再び暗い顔をして涙をこぼし始めた。

 ああ、もうだめだ。ファミレスでイケメンが美少女二人を泣かせている。誰が見たって修羅場じゃないか! それも三角関係の修羅場だよ! メチャクチャ俺印象悪そう!


 ファミレスでは人こそ集まってこないけれど、異様な雰囲気を察した周囲のテーブルの客がチラチラこちらを見ている。いかん!俺は今日ここに何を話そうと思ってきたんだ!? 既に脱線していて元の道が分からない程迷子になってパニック状態が現在だ。



「美紀ちゃん!ケガのことは黙っててごめん! 心配をかけたくなかったんだ! 新しい彼女とのデートに水を注すのも嫌だったし!」



 嘘じゃない。本心だ。ちょっとだけ寄せたけど、嘘偽りはない。



「……ホント?」



 ハンカチで隠れていた顔が目だけ見えた。

 チョロい! 美紀ちゃんチョロいぞ! いまどき珍しくらいにチョロインだろ!



「そう! 無事だったし。無茶はしない様に心がけるから」


「……うん」



 グジグジと涙や鼻から出る「乙女汁」をぬぐう美紀ちゃん。なんか、申し訳なくなってきた。



「ちょっと、お手洗い行ってくるね」



 美紀ちゃんが態勢を整えにトイレに行った。テーブルには俺と綾が残された。



「なんで、お前まで泣いてるんだよ。このテーブル修羅場かよ!」


「だってー、悠斗を傷ものにして美紀ちゃんに申し訳なくて……」


「言い方!」


「あと、美紀ちゃんと仲良しでよかったなぁって……なんか、感動して~」


「お前、いいヤツか!」



 また綾の涙が出始めた。あいにくハンカチは1枚しか持ってないし、美紀ちゃんに渡してしまった。綾はテーブルのナフキンで十分だろう。



「あと、私も悠斗好き~」


「ついでみたいに言うな!」



 一瞬空気が固まった。トイレから美紀ちゃんが戻ってきていた。綾の言葉を聞いて、テーブルの3歩前でフリーズしている。



「美紀ちゃん、もう一つ言ってなかったけど、綾のことを話しておきたいと思う。誤解がないように全部話すから、座って」



 俺は観念して美紀ちゃんに、優しく伝えた。こういう時に慌てると余計に事態は悪くなるのはこれまでに何度も経験していたから知っていた。


 そして、美紀ちゃんに綾は小さい時から隣の家に住んでいる相棒みたいなものだということを一生懸命伝えてみた。



「……聞けば聞くほど、やきもち案件ですけど……念のため、確認しますけど、私 振られないですよね?」


「振られない、振られない。むしろ、せっかくできた彼女なんだから、逃げても追いかけて、捕まえて、キスする」


「……試しに逃げてみたくなってきたんですけど」


「……試さないでください」


「しつこいようだけど、綾ちゃんとは付き合ってないのね?」



 美紀ちゃんが念押しで質問してくる。



「綾とは付き合ってない。今後も付き合うことはない」


「えー、ないの~!?」



 ここで綾が反応した。

 また話をややこしくしやがって!



「でも、美紀ちゃんも好き。悠斗と幸せになって欲しい」


「綾ちゃん……」



 なんか、目の前で女の友情(?)的なやつが芽生え始めてきた。手に手を取り合って涙ぐむ二人。俺の気持ちや意見は置いてけぼりかい! 俺はこの二人とどんな生活を始めるのだろうか。全く想像がつかないでいた。



「私、浅越くんにもお礼言わないと」



 思い出したかのように美紀ちゃんが言った。

 確かに、あの誘導はうまかった。そして、質問のふりしてさりげなくフォローを入れてくれていた。なんだあのイケメン。スペック高すぎだろ。



「あいつの狙いがなんなのか分からないから少し怖いな」


「あ、それなら私知ってるよ?」



 美紀ちゃんが意外なことを言った。



「あのボウリングの日にちょっと話したから」



 俺と綾が「なんで!?」って顔をしていたんだろう。聞く前に答えてくれた。



「浅越くん、悠斗くんと友達になりたいんだって」


「「え⁉」」



 俺としては、綾を狙っているのだと思っていたけれど。俺と友達になりたいというのは、建前的な理由だろうか?



「悠斗くんはすごいですね! 女子だけじゃなくて、男子にも人気で」


「やめてよ、美紀ちゃん。俺は女の子にだけちやほやされていたいだけだから」


「あ、やっぱり、浮気的な?」


「美紀ちゃんにだけちやほやされていたら満足です」


「そういう意味では、悠斗くんのおうちにもう一度行きたいです」


「え?別に面白いところとかないよ?」


「でも、普段の悠斗くんのお部屋は、綾ちゃんが入り浸ってるんでしょ?私も参加してみたいんですけど?」


「……もちろんです」



 なんか変な流れになって、再度美紀ちゃんをうちに招くことになってしまったのだった。

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