第25話:リア充の能力(ちから)
気づかぬ間に状況は悪くなっていた経験はないだろうか。俺は今 足元から地面が崩れていっているのを経験している状況だ。
つい昨日付き合い始めた可愛い彼女は急にいじめられっ子転落だし、幼馴染と言ってもいい相方の綾は精神的に参ってる。しかも、目を離すとストーカーに刺されるかもしれないオプション付きだ。
クラスメイトには誤解されていて、俺と綾の関係を美紀ちゃんが邪魔している様に思われている。自分が責められるよりも もっと辛い状況。
この状況を何とかするには、常に3人一緒でいることくらいしか思いつかない。綾をストーカーから守りつつ、美紀ちゃんのいじめ行為を実行させない。
二股の噂でも流れたら、矛先は俺に向くから逆に少し安心だ。
「悠斗くん、変なこと考えてるでしょ? 私は大丈夫だよ? 私みたいな平凡な女の子がリア充カーストトップの悠斗くんと付き合うんだもん。有名税みたいなもんで……」
「そんな税金は架空請求だ。美紀ちゃんが楽しくいられないなら、俺が付き合った意味がない。俺はマンガとかアニメみたいにウキウキする付き合いがしたいんだ!」
大丈夫。いつもだから大丈夫。いつでもなんでもうまくできた。それによる過度な期待。あいつなら何とかしてくれるという手放しな適任転嫁。これまでだって経験はある。
あいつならそこまでやってくれて当たり前。そんな理不尽な要求。
理解してくれる人がいない。孤独。
大丈夫。今回も俺が何とかしてやるから。俺が準備する船に乗っておけば安全に対岸の岸までたどり着けるから……俺は背負えば、何とかなるから。
「任せとけって」
昼休み、俺達は普段通り三人でご飯を食べていた。任せろと言ったものの、対処法を思いつかない。
美紀ちゃんは、いじめられていることよりも その事実を俺に知られたことに凹んでいるみたいだし、綾は猿谷ショックなのか全体的に暗い。
こんな事くらいで暗くなるのもなんだけど、自分だけで解決できないことは必ずある。
リア充とは、問題はそつなく解決して悩まないヤツらのことだろう。天気だって晴れてほしいときは晴れて、雨が降ってほしいときには降るもんだ。
今回の場合、そんなリア充の血なのか、解決方法の方から歩いてきやがった。
「やあ、ボチボチ俺の出番はないかな?」
クラスのイケメン、浅越が話しかけてきた。そう言えば、ボウリングの一件以来あまり関わってこなかったかもしれない。
教室の中ではあまり絡んで来なかった。なぜ、このタイミングで!?
「あ、なぜ、今のタイミングで話しかけてきた来たかって疑ってる目だね。まあ、話を聞いてよ」
浅越はさわやかにそういうと、近くの席に座ったので、なんとなく四人で机を寄せて座っているみたいになった。
さらに、自分で持ってきた紙パックのコーヒー牛乳を一つ口飲んでから話をつづけた。
「芸能人なんかでも、よく不祥事を起こし話とそれが炎上している話は聞くじゃないか」
「ああ」
俺たちは不祥事を起こしたわけではないけれど、それをいちいち指摘していたら話が進まない。ここは聞くことにした。
「そういった芸能人がどうやって炎上を回避しているか知ってるかい?」
そんな方法があるならば、全ての芸能人がそうしているはず。いや、やっているのか。なんだろう?
「それは、記者会見さ」
「「「記者会見!?」」」
俺たち三人の声がハモった。
「そそ。多少芝居じみていても、俺が質問して、羽島たちが答えることで公平性が保たれる」
要するに、俺たちが嘘を仕込んだわけじゃないという事を言いたいのだろう。
「そんなのいつ、どこでやるんだよ」
「いま、ここでさ」
浅越がニヤリと笑ったと思ったら、すぐに続けてデカいしゃべり始めた。
「マジで!? ホントに猿谷に刺されちゃったんだ!」
ひと際大きい声に、昼休みのザワザワした教室も一瞬しんとなった。こちらへの注目度は相当高い。
ちなみに、綾はあまり興味が無さそうに平然としていた。ただ、美紀ちゃんは「え? なに?」という具合にキョロキョロしている。
「羽島、その傷 立って見せてくれよ」
「しょうがないな」
そう言いながら、俺は立ち上がりわざわざ長そでで隠していた傷を袖を肘までめくってみせてやる。
傷はまだガーゼが貼ってあり、包帯が巻かれているので、包帯の状態だけ見せた。
「え? え?」と美紀ちゃんが口に手を当てて動揺している。
「それくらいの傷だったんだい?」
「とりあえず、18針縫った。深さはよくわからないけど、うっすら白いのが見えたから、骨だったかも」
周囲から「うげー」という声と共に顔をしかめるヤツが多かった。
「嘘! 嘘!」
美紀ちゃんが俺の腕をすごく心配してくれている。そういえば、刺されたことを彼女に言ってなかったわぁ。
わざわざ心配させるのもアレだし、しばらくすれば治るわけだから、いいかと思っていたのだ。
「結局、羽島はなんで猿谷に刺されたのさ」
「どうも、猿谷は あや……小林さんのストーカーだったらしい。嫌な予感がするって相談を受けていたから、朝晩一緒に登校してたんだよ。家が近いしね」
「それで、たまたま猿谷と遭遇した、と」
「まあ、そんな感じ」
「猿谷が退学になったのってその事件かな?」
「さぁ? その辺りは俺も小林さんも聞かされてないから分からない」
「そうなんだ。じゃあ。小林さん、その時 羽島がいなかったらどうなっていたと思う?」
「ちょっと想像がつかないけど……私 ケガしてたかも……」
クラスのアイドルの危機がそこにあったという事実で教室内が騒がしくなった。
「羽島は、いわばヒーローってとこかな?」
「そうだと思う。その時、私 怖くて動けなくて……」
綾が思い出したかのように、恐怖の表情で答える。
「いやいや。そりゃ普通だろ。ナイフを向けられたら」
俺もすかさずフォローを入れた。
「そのヒーローは、小林さんと付き合ってるの?」
浅越は、綾の方に視線を送りつつ俺に質問した。
「いや、俺は昨日から美紀ちゃ……水守さんと付き合い始めたばかりだ」
「それは、おめでとう。じゃあ、小林さんは家が近いから守ってあげたのかな?」
「……まあ、そうなるな」
実際は綾から頼まれたのもあるけど、話しがややこしくなるばかりだから、あえて補足はしないでおこう。
「もしかして、この間のカラオケの時 連れ出したのも?」
「まぁな。明らかに様子がおかしかったからな」
「小林さん、実際はどうだったの?」
「あの時は……なんか楽しくなって、家に帰ったらすぐ寝ちゃった」
「羽島は送りオオカミだった?」
「ふふっ、ちゃんと家まで送ってくれたけど、それだけだよ?」
「あの時は、他の女子たちも男子がそれぞれ送ったよね。送りオオカミになったヤツはいないかな?」
浅越が周囲を見渡す。
「……二組ほどカップルを見つけてしまったけど、幸せそうだからそれはそれでいいとしようか」
どうやら浅谷の見立てでは、例のカラオケの後、それがきっかけで2組ほど付き合い始めたらしい。
どうも、この質問は俺だけが女子を送って行ったわけじゃないと言いたかったらしい。
「羽島は、水守さんと付き合い始めたわけだけど、水守さんに危機があったら、小林さんみたいに守るのかな?」
「そりゃ、もちろんだろ。彼女だし!」
「水守さんに危害を加える存在がいたとしたらどうする?」
「もちろん、ぶっ潰す!」
「そりゃ、怖いね。じゃあ、小林さん、最後の質問なんだけど」
「は、はい」
「小林さんは今フリーなんだよね?」
「はい」
「俺が立候補したら、きみの彼氏になれるかな?」
「え⁉ あの、その……」
浅越のヤツ、これが狙いだったのか? 最後の質問とか言って、2つ質問してるし!
「ごめんなさい。今は誰とも付き合う気がないっていうか……」
「そうだよね。あんなことがあった直後だもんね。見込みが無さそうだから、俺は退散しようかな」
浅越が質問をやめると、他のヤツから次々質問が出始めた。俺たち3人で答えたのだけど、本当にどうでもいい質問の含めると20~30個くらい答えたんじゃないだろうか。ホントに疲れた。
ただ、この後ピタリと美紀ちゃんへの嫌がらせが止まった。浅越、只者じゃないな。
ヤツの狙いがなんなのか結局聞きそびれたけど、ワイワイと昼休みは時間が過ぎていった。
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