第504話
「指揮をお預かり致します。申し訳御座いませんがAFP通信局員の保護をお願いできないでしょうか。彼女らは今後の政権の側面を支えてくれます」
現政権に友好的な報道を行う者たち。カガメ大統領もきっとそれを望むだろうと、ブニャニャジ少将は快諾する。
「情けないことに南部地方軍は勢力をほぼ失った。フツ族の歩兵三千、それがフリーで市内に乱入すれば大変な騒ぎに発展する」
一方で機甲大隊は充足五割、三十両と戦車が稼働していない。
それも中戦車は半数以下、殆どが軽戦車ということだ。歩兵二個大隊も防衛線に張り付ければすぐになくなってしまう。
「必ず阻止致します」
――その位出来ずに俺の価値など無いぞ!
島は総司令部へ入ることなくすぐに飛行場から南部へと向かう。
駐屯地でモディ中佐の部隊と合流する、ニャンザ警視正もだ。引き継ぎが到着次第バスター大尉らクァトロもやって来る。
要衝になるであろう交差点にはブッフバルト少佐の機械化部隊が待っていた。
「最終防衛ラインを公道十五号と三十号の交差点とする。それを越えての侵入を絶対に許すな!」
市街地南二キロ地点、その先は人口密集地だ。重砲は今のところ確認されていない。
「モディ中佐、公道十五号を進み州境まで前進しろ。決して道を譲るな」
「承知しました」
集団をひとまとめにして進めるには幅の広い道が絶対に必要になる。
ここを押さえておけば分裂を余儀なくされるのだ。
「ボス、バスター大尉が到着しました」
武装ジープのタイヤを鳴らして十数名の黒服が合流してくる。
「閣下、バスター大尉ただ今着陣致しました!」
「ご苦労だ。AFP通信局員の護衛に感謝する」
真実心のそこから感謝していた。自身がその場に居てやれたら、その思いが強い。
「いえ、任務に納得しておりますので」
「うむ。以後ブッフバルト少佐の指揮下に入れ」
「ウィ モン・ジェネラル!」
三名の将校が機械化部隊に組み込まれる。多勢に無勢、部隊が守っている場所は足止めも可能だろうが、何せ守備範囲が広すぎた。
――敵の足を鈍らせる必要がある。無茶な突撃をさせるのは気が引けるが、一度衝撃を与えねば勝負にならん。
ブッフバルト少佐の兵力は百少し、これでは全く力不足。出せる戦力は機甲大隊、それを使えば余力は零になる。
「閣下、親衛隊をお使いください」
エーン中佐が申し出た。オルダ大尉のアヌンバ=プレトリアス親衛隊、五十前後を差し出してくる。シュトラウス少佐が最初に運んできた軽車両を与えられていた。
「済まんが頼めるだろうか、オルダ大尉」
「君命ありがたく!」
親衛隊を率いてオルダ大尉は居場所を移す。エーン中佐の私兵なのだ、お願いすることしかできない。
それなのに彼らは何の見返りも求めず、命を差し出すことを厭わない。
「報告します、フツの民兵がモディ中佐の特務部隊と交戦を開始しました!」
公道十五号が激戦区になる。左右にあふれる形で敵が侵食してくる、どこかに中心的な役割を果たしている者がいるはずだ。
「クァトロ戦闘団、出るぞ!」
「ウィ コマンダン!」
親衛隊を糾合し戦闘団を結成、司令としてブッフバルト少佐が命令を下す。
部隊を動かすのはフィル先任上級曹長の役目だ。あてはない、大集団のどこかにいるだろう敵を無秩序に攻めるのみ。
――情報面で不利を被っている、だがもうどうにも出来ん。
装甲兵員輸送車両で推移を見守る。時計の針の進みが遅く感じられた。
「C地区で二百から三百の敵が流入します!」
「ニャンザ警察補佐官、一個警察部隊で対抗しろ」
「ダクァ!」
予備兵力を逐次投入し、危険を報せる全てに当ててゆく。あっというまに手持ちが無くなってしまうのを覚悟して。
◇
二時間、戦場をさまよいながら司令部を捜索し続けていた。
「三時の方向、突撃来るぞ!」
「後方より敵車両接近!」
「衛生兵、重傷者の看護を頼む」
「弾頭を回してくれ、本体は余剰があるぞ」
部隊の士気は高い。死傷者が三割を超えてきた、それでもひるまずに敵中を移動し続ける。足を止めたが最後、包囲殲滅されてしうだろう。
「戦闘団長より各位、進行方向を十時にとれ!」
大きな敵集団を見つけるとそこに突撃をかける。これを何度繰り返しただろう、ブッフバルト少佐が乗る装甲車にも分け隔てなく弾丸が飛んでくる。
「左翼サイード少尉、一際大きな軍旗を掲げている部隊あり。兵力凡そ二百」
双眼鏡を手にして左前方を見る。土煙でよく見えないが、時たま赤と緑の旗が見えた。近くを通る銃弾の数が増えた、双眼鏡は将校の携行品、それを狙っているのは明らかだ。
「戦闘団長、サイード少尉。左翼部隊で詳細を確認せよ」
「サイード少尉、了解です」
八台の武装ジープが機銃を乱射して集団に接近する。激しい反撃があるが、蛇行運転で旗の傍まで近づいていく。
サイード少尉は双眼鏡で旗のあたりを観察する。
「……緑の軍服か? ……いや、戦闘服に階級は無し。青の半袖……」
事前の準備知識があればその瞬間に多くが理解できただろう、だがサイード少尉は気づけない。
「戻るぞ」
本隊から離れすぎた為に一旦退去して合流を目指す。左翼に位置すると報告を上げる。
「準軍事関係の部隊と推察。これといった指揮所はありませんでした」
「了解した」
戦闘団は次に一時方向にある集団を目指して攻撃を仕掛ける。連続する戦闘に疲労も重なって来る。補給の為に一度離脱する必要性も感じられた。
「正面の部隊を抜いて一旦離れるぞ。戦闘団前進!」
中央よりやや前に指揮車両を進めて指揮を執る。ブルンジ民兵は味方が多すぎて満足な射撃を集めることが出来ない、そのおかげでクァトロは壊滅を免れているように思えた。
「司令、本部が攻撃を受けています」
オルダ大尉がエーン中佐からの連絡を明かす。
「進路を四時に変更、本部の救援に急行する!」
報告を受けてすぐさま方針を変更した。敵司令部の捜索は失敗、だが今はそれどころではない。
◇
陸軍前線司令部。本部護衛という兵力を抱えていた、手持ちの予備が無く敵が浸透しようとしている。報告を受けた島は迷わずに迎撃を命じた。
「司令部も戦力だ、敵を食い止めろ!」
一般の中隊と同じように倍以上のブルンジ民兵相手に正面からぶつかる。
まさか本部要員が戦闘をすることになるとは思っていなかった者も、司令官が直卒しているのに逃げるわけには行かなかった。
サルミエ大尉までもがサブマシンガンを手にして周囲を警戒する。
島も防弾ベストを装備させられヘルメットを被せられた。
「プレトリアス族の者よ、一兵たりとも敵を通すな! 閣下の御前だ、心して掛かれ!」
「ヤ! オーペルフエフ!」
それぞれが隊長を務められる程の手練を集めた、エーン中佐のレバノンプレトリアス親衛隊が薄く広く陣取る。
アサド先任上級曹長が四人の護衛班を指揮し、島への攻撃を許さない。
――無理を掛ける、だがここを守らねば首都が陥落するぞ!
全体の戦況は膠着、どこかで地方軍が圧倒して安全区域が産まれれば増援が見込める。
それまでは何としてでも市街地への侵入を防がなければならない。
親衛隊の負傷者が増加する、だが一人として戦線を離脱しない。
手榴弾の破片が突き刺さろうと被弾しようと、歯を食いしばり一歩も退かないのだ。
最高の戦力が数相手で消耗させられていく、彼らはルワンダの首都がどうなろうと関係がないというのに。
「ボス、クァトロ戦闘団が帰還します」
攻め寄せる民兵に側背から突撃し、次々となぎ倒していく。機を見てエーン中佐が撤退を命令した。
ブルンジ民兵は強敵が現れたため、この地点からの突破を諦めて後退していった。
装甲指揮車両からブッフバルト少佐が降りて司令部にやって来る。
「閣下、敵司令部の捜索に失敗しました。補給を行い再度出撃します」
「ご苦労だ。エーン、負傷者の手当てを」
「ヤ」
重傷者を集めて市内の病院へ搬送させる。軽傷者は応急処置のみを施して待機に入らせた。
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