第466話

 ルワンダ政府の役人がチラチラと視察にやって来る。大統領の一声で許されては居るが、気に食わない奴等も多い。何かしらケチをつけようと訪れている。

 それでなくとも訳有りで複雑な状態だ、しつこそうな奴をマークしては賄賂を握らせてお帰り頂いていた。拠点が出来上がれば後は知らんふりで構わないが。



 駐屯地が設けられている。作業員とは別にして寝泊まりをし、昼間は警備として街に行くのだ。そのあたりの実務に関してはビダ先任上級曹長が取り仕切っている。


「ブカヴやンダガク隊のラインはどうなんだ?」


「一人の大尉、二人の中尉に隊を分けて指揮させています」


「仕方無いが、数の割りに階級が低くなる。他との釣り合いを考える必要があるな」


 マリー少佐が、今後様々な軍が参集してきた時に不都合がありそうだと悩む。久しくトゥツァが少尉だったせいもあり、バランスが悪い。一応序列に従い引き上げてはみたものの、中尉が三百人からの兵を指揮していた。


「ご迷惑をお掛けします」


「そいつは構わん。それに何度も言うがトゥツァ少佐は俺と同格だ、敬語は要らんぞ」


「努力はします」


 信じる神の手足、その長であるマリー少佐と同格だと言われても、トゥツァ少佐は恐れ多くてたまらない。意見が割れたら島がどちらの考えを優先するか、そんなことは解りきっていた。

 マリー少佐にしても自負はある、だからとそれを振りかざすような真似をするつもりは毛頭無い。


 クァトロは現在二十人前後の島直下の部員と、百程の構成員が存在している。エスコーラ風に言えば部員の将校がボスで、部員の下士官と、構成員の将校がカーポだろうか。

 なるほど確かに一般部隊将校は階級が上だ、しかし部員は島の意を受けて動く。虎の威を借るわけではないが、そこには気持ちが介在する余地が確実に在った。


「ルワンダ人民兵団が必要になる。そうなればンダガク隊はクァトロの譜代として、より中枢に位置することになる」


「我ンダガク隊は、キシワ将軍の為にいつでも命を差し出せます」


「解っている。だからトゥツァ少佐は俺と同格なんだ」


 トゥツァ少佐の教育から始めよう。マリー少佐が多数を指揮するにあたり、補佐を育成することにしたのは妥当だ。司令としてロマノフスキー大佐や島の代理をしている事実はある、様々な不都合を整合させる、それがこれからの彼の役割なのだ。


 ――ラインとなる将校が不足している。下士官から引き揚げたいな。


 いびつな形が目についてしまう、少し欠けただけで麻痺するような構成では上手くない。


 現在マリー少佐に何かしらあれば、代理を出来る候補はドゥリー中尉だ。ハマダ中尉では全体に目が届かず、ゴンザレス少尉では経験が足らない。ブッフバルト大尉と言いたいが、彼はロマノフスキー大佐の副官で戦闘部隊に所属していない。もちろん代理が居なければ派遣されるだろうが、それではマリー少佐の失策でしかない。


 ――バスター大尉でも厳しいな。ビダ先任上級曹長は将校には適さない。やはりサイード上級曹長とフィル上級曹長か。だが二人とも下士官から抜くのはいかんな。


「マリー少佐、巡回の時間なので自分はこれで」


「うむ、トゥツァ少佐、頼む」


 雑用係として三日月島にいた下士官を側に置いている、サイード上級曹長を呼び出させる。訓練を中途で抜け出し、十分とかからずに眼前に現れた。


「サイード上級曹長、出頭致しました!」


「ご苦労。少し気になっていた部分がある。上級曹長は後発の部員のはずだが、ボスと以前から知り合い?」


 昔マリーに、島の当時の指揮ぶりと差がない等と言われて違和感があった。そこを確認する。


「はっ。当時の島大尉とロマノフスキー中尉、ハマダ少尉、アフマド氏、自分にその他でスーダン、現在の南スーダン地域が丁度独立をしている瞬間に作戦しておりました」


 なるほどの面子、しかも島が大尉の時代となればかなり昔からの知り合いということになる。そこにきてハマダにアフマドとくれば、島が信頼する者だと確定した。


「そうか。サイード上級曹長、貴官は将校になる気はあるかね」


 ひいきでも何でもない、能力や経歴に適切さを感じたからだ。サイードは真面目な顔で「あります」と応えた。


「司令命令だ、これより中長期の任務を禁ずる。フォートスター付近で訓練、待機を行え」


「ダコール」


 下がってよろしい。エジプト人は信用ならない、それが一般の感覚だった。その中から丁寧にこういった人物を見付けてくるのだ、島の感性に感服した。


 ――ルワンダ軍の士官学校は英語だろう、あともう一人欲しいが、レオポルドについてはボスを通さねばならんな。


 勝手に任地を離れるわけにはいかないので、まずは電話で報告をあげつつ、相談を口にするのだった。




 フォートスターが着々と建設されていた。要塞を北東にし、南西に空港、北に人工湖、東は公道に沿って防壁、北西にも防壁を沿わせて補助要塞を建設。空港南にも要塞を一つ置いた。行く行くはその周辺に住民が集まるだろうことから、ライフラインの一部を見込みで通してしまう。


「フォートスター民兵団、マリー少佐に敬礼!」


 本要塞前の広場、まちまちの服装で人が集められていた。数は二百人前後、主に軍の退役者や警察関係者、そして将来ある若者を選抜している。下士官として育成するつもりであった。

 ルワンダの公用語は英語だ、だが理解する者は少ない。まだフランス語が圧倒的に多く、ほぼ全員がルワンダ語を理解する。部隊ではフランス語か英語を理解する者を採用した。


「諸君、フォートスターはルワンダに所属していて、当然大統領もいる。だが」皆を見回す。多くはキシワ将軍が何者かを知っていた「ここはキャトルエトワールのキシワ将軍の街だ。ボスが誰かを忘れるな、敵味方を脳に刻み込め!」


 島は姿を現しはしない、顔を知られない方が様々都合がよい。


 何よりまだフォートスターに転居してない。広すぎる要塞を守りきれるだけの兵力が不足しているのだ。籠城すれば陥落はしない、だが島が閉じ込められては意味がない。

 マリー少佐はその場を去る。大尉以下の者が後の面倒をみることになった。司令官室に戻る、そこにはロマノフスキー大佐が座っていた。島が来るまではここが彼の部屋で、その先は南の要塞が居城になる。マリー少佐の司令室はこちら側だ。


「まあ見事な演説だ、ハンサムだな」


「そういじめないで下さい、若僧が何を言うかってヤジが飛ぶかと思いましたよ」


 ロマノフスキー大佐が演説してやれば良かったのだが、その栄誉を譲るよ、とマリー少佐に丸投げした。ベルギー人の彼がこの地に打ってつけだったのもある。


「お前はもっと自信を持っていいぞ。ルワンダに来るまでの大活躍を聞いた、証明は済んでいる」


 ザンビアからの一連の道程、ロマノフスキー大佐が居ないことで島に相談をしながら決めていた。その島が能動的に口出ししたの一度だけ、ゴマ北の国連キャンプを巻き込みに行った時のみ。それは高度な判断が必要なので、マリー少佐には出来ない部分なのだ。


 そんな事情を含みで鑑みれば、マリー少佐の判断力は充分通用する。部下に少佐を持てるほどに。


「いつまでも保護者が必要とは言いませんが、後ろに控えているからこそ成立することの多いこと」

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