第463話


 防御を解いて居場所をずらす、隙が出来たがそれは数分で埋まる。ンクンダ軍が行き先を制限するような布陣に切り替わる。


「ボス、何かありましたか?」


「マリー、変な感じがする。あいつらどうして積極的に攻めてこない」


「戦力に差があるのにおかしいですね。何かを待っている?」


 指摘されてマリー少佐も何かが変だと感じた。押せば引き、引けば押してくる。時間稼ぎをしているのが明白だ。


「警戒班より報告、東四キロ地点に伏兵!」

「西部警戒班より、市街地からコンゴ軍が現れました!」

「上空注意、戦闘ヘリです!」


「面白くなってきたじゃないか」


「包囲殲滅か。いつからあいつ等は手を組んだんだか」

 ――大人しくやられるつもりは無いぞ!


 全方位に均等に戦力を振る向けるのは凡人の考えだ、すぐに全体を東へ振り向ける。攻勢部隊を集めて一点突破を計った。


 ――そもそもがロマノフスキーは何故北からルワンダ入りをさせようとしている、そこに鍵がある。ルワンダ国内でンクンダやコンゴへの感情はどうだ、これを叩いてから入国するとしないでは結果に開きが?


 戦闘をマリーらに任せてその狙いを読み解こうとする。


 ――正式ではないがンタカンダ大将はルワンダで勢力を誇っている。ンクンダ将軍と敵対もしていたな。M23の後釜に将軍を派遣したはずがいつのまにかンクンダに敗北か。もしここでンクンダを退けて入国すればンタカンダ大将は俺に一目おくだろうか。


 後方にルワンダ兵を並べてエスコーラがその隣に陣取る。ほぼ捨て駒扱いだが誰も文句は言わない。


 ――マケンガ大佐についても俺が立場を強くしなければならん。この場でハッキリしていることは二つだ、このまま入国では話にならんこと、そして現状では対抗が難しいことだ。ではどうする。


 無線機を手にしてマリー少佐に命令を下す、それは皆が予測しない一言だった。


「司令官命令だ、全軍北へ向けて進軍」


「ダコール! 攻勢部隊、進路を変更だ!」


 一切の反論も疑問も発さずに命令を丸呑みする。陣形が乱れた、だが強引に北へ向けて進む。ンクンダ軍が厚い防御線を敷いている。


「やる気だね、いいさ。ラズロウ、火力を北に偏重させな!」


「シ!」


 ドンの護衛以外の全ての攻撃力を先頭に集中する、クァトロも同じように戦力を集中させた。外縁の防御部隊が削られていく、抵抗する火力を失い力押しに負けた。


「ハマダ中尉、ドゥリー中尉、ゴンザレス少尉、各部隊突入!」

「ボス・ジョピン、カーポ・ルセフ、進め!」


 ルワンダ兵が一杯になり多数脱落していく、エスコーラの構成員の多くも犠牲になった。それでも守りに力を使わずにンクンダ軍のど真ん中を貫く。


「開けた穴に突入だ! 左右に押し広げろ!」


 マリー少佐の本隊が強引に通路を切り開く、そこへ司令部の一団が進んでいく。止めきれずにンクンダ軍がついに突破を許してしまう、後方へ抜けた三部隊が反転し背中を狙って攻撃を繰り返す。


「まだだ北上しろ!」


 クァトロ軍を殿にして徐々に北へシフトしていく。そのうち青い建物が多数視界に収まってくる。


 ――来たぞ!


 陣形を立て直して今度は防衛に力を入れる、青の建物を右手にして少しずつ後退していく。そこでは時ならぬ騒ぎになっていた。


「こちらは国連コンゴ安定化派遣団だ、武装集団は攻撃を停止せよ!」


 大音量のスピーカーから戦闘停止の呼びかけが為される、だがそんなものを受け入れるわけが無い。島は怪しい笑みを浮かべた。


「国連のキャンプを盾にして速やかに北へ移動だ!」


 応戦を停止して移動に専念する。コンゴ軍がようやくやってはならないことに気付く、だがンクンダ軍は一切攻撃を止めようとはしない。

 正体不明の武装集団へ青い兵が反撃を始めた。たまに国際ニュースに出る戦闘がこれだとは誰も想像すまい。大火力の反撃がキャンプから行われる、コンゴゴマ連隊が大慌てで撤収を始めた。


「全軍へ通達、発砲を禁止する。国連軍の戦いぶりを観戦だ」

 ――停止命令を受け入れたこちらを攻撃はしまいよ。


 怒り心頭したンクンダ軍がキャンプへ肉迫しだす。乱戦模様に切り替わった。ところが何と国連軍は押されているではないか。


「だらしが無い奴等だ」


 レティシアが呆れてしまう。


------------------------- 第22部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

第九章 ルワンダの星-2


【本文】

「そろそろお暇しようか」


 東へ移動を命じようとすると通信が入る。それは早口のポルトガル語だった。


「キャンプ北の不明集団、手を貸して欲しい」


 レティシアが無線を手にした、ポルトガル語がここで聞けるとは思ってもいなかったが。


「あんたは誰だ」


「当キャンプの団長、ドス・モラエス中将。突然で混乱している、援護を」


 一旦無線をオフにして隣に座って居る島に問いかける。


「で、どうするよ?」


「俺が犯人だからな、頼まれたなら戦うさ」


「そうか」再度無線をオンにする「こちらはキャトルエトワールだ、要請を受諾する。高いツケだよ覚えときな!」


 ほらよ、レティシアが無線を軽く放ってくる。それを笑顔で受け取った。


「司令官イーリヤだ、これより全軍で国連軍を援護する、戦闘再開!」


 座って控えていた部隊が銃を構えて整列する。北側から時計回りでンクンダ軍の側面を衝く。正面に熱中していたせいでもろに腹をえぐられる。


「火力を集中、距離をとれ!」


 支援に徹することで味方の被害を極力抑えようとする、巻き込まれた国連軍が貧乏くじを引かされた。


 二級民兵なのだろうか、いくら劣勢になっても撤退が許されない。次第に攻撃している方が気分が悪くなってきた。


「人命の軽さはアフリカ隋一だな」


 渋い表情の島だが戦闘を停止させはしない、相手が止めるまで攻撃するのは常識だ。ラズロウは平気だがマリー少佐は胸が苦しかった。


「ボス、まだ継続でしょうか?」


「お前はどうしたいんだ」


「……」

 

 明確な返答は無かった、だがそろそろ潮時だろう。国連のキャンプも混乱を抜け出したように見えた。


「レティア、すまないが殿をそちらで頼む」


「ふん、坊やはまだ日陰を歩くのが怖いようだね。いいさ。ラズロウ、お前が殿だよ!」


「シ ドン・レイナ」


 年季が違う、歩んできた道が。何もそれは悪いことではない、適性の問題でしかないのだ。


「マリー少佐、離脱だ。お前が先頭を行け」


「……申し訳ありません」


「謝ることではない、お前はよくやったさ。それは俺が認める」


「はい……隊列を整え離脱するぞ!」


 黒い軍服の集団が東へ向かってゆく、全体が徐々にキャンプを離れる。国連軍もそれを引きとめはしなかった。


 道無き道を進む、現地でコリンバグと呼んでいる丘陵地帯、そこで警戒班が警告を発した。


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