第461話

 ――エスコーラやるじゃないか! クァトロが気合で負けたとなれば先輩に合わせる顔がないぞ。


 命は二の次、至上指令はドンの保護。エスコーラはギャングスターだ、軍同様に命令に否は無い。


「志願を募る。敵の司令船に突撃する者は無いか!」


 距離が阻害するならば接触してしまえば良い。たどり着くまでに沈没したら負け、近付ければ勝ちだ。


「自分が!」


 いつものようにビダ先任上級曹長が真っ先に志願した。そしてゴンザレス少尉、サイード上級曹長、キール軍曹、キラク伍長らがそれに続く。


「よし。小型船四隻を敵にぶつける! 高速艇は突撃の援護、他は射撃で支援だ。ゴンザレス少尉、指揮を預ける」


「ヴァヤ! クァトロの名を汚すような結果には致しません!」


 北上を一時的に許す、相手の心臓部を破壊して全体を止めようというのだ。


「クァトロよりエスコーラ。司令部の撃滅に出る、後ろは頼んだ」


「エスコーラはその期待に応えるだろう」


 そう目指すところは同じだ、背中を彼らに預けてマリー少佐は命令を下す。


「攻撃開始!」


 両翼が延びて行く、防御は一切考えていない。小船が一隻沈没した、乗員は湖に飛び込む。高速艇が二手に分かれて司令船目掛けて機関銃を撃ち込む。


「突入!」


 ゴンザレス少尉の船団が真っ直ぐに司令船に向けて進んだ。正面投影面積が少ない、左右からの圧迫で射手も落ち着かなかった。先頭のキール軍曹の船が直撃を受けて沈む、委細構わずに残りが突き進んだ。


「全力で射撃を行え!」


 マリー少佐が射程内に入った瞬間に撃ちまくれと命じる。次第に弾幕が厚くなっていく。護衛の小船が接近してくるが船体を擦りながらも進む。そしてついに司令船に舳先をぶつけた。


「乗り移れ!」


 甲板の高さがかなり違う。だが投網を舷側に引っ掛けて梯子のようにした。その昔島がコラムを見たとの話がグロックに伝わり、兵営でも教練に出てきていたのをビダ先任上級曹長が思い出したのだ。


「操舵室を占拠しろ!」


 果敢に撃ち返しながらキラク伍長が乗り込んでいく。ビダ先任上級曹長も小銃を手にして交戦する。下手に司令船に向けて撃てない敵が動揺した。やがて操舵室にも銃声が響く。


「司令船を占拠した!」


 船の上にクァトロの軍旗が翻る、群れていた小船が散っていった。一部が一発逆転を狙い北上する。


「取り逃がした!」


 戦闘可能な漁船に後を追わせる。漂流している者を回収しながら統率を回復していった。

 後ろに控えていたオリヴィエラの船団から小船が数艘突出する。乗っているのは一人のようだ、前面にガチャガチャと鎧のようにプレートを付けている。激しい銃撃が向けられるが無視して直進、ボチャンと何かが湖に落ちる。そのまま船同士が衝突すると爆発した。


「自爆か!」

 ――やることがエグいな! だがソマリアでもそうだった、これは戦いだからな。


 第二陣が突出すると小船が進路を西へ変えてコンゴ方面へ離脱していく。どうやら自分の命は惜しいらしい、狂信者が相手では分が悪いと考えたのだろう。


「漂流者を全員回収したら整列だ。合流するぞ」


「エスコーラよりクァトロ。マラヴィリョーソ! 先に北上しろ」


「クァトロよりエスコーラ。向こうで浴びるほど飲もうじゃないか戦友」


 悪党同士通じるものがあったのだろうか、声だけでやけに表情が見えてしまったマリーであった。



 タンガニーカ湖とキヴ湖を結ぶルジジ河に到達する、そこからは二列縦隊で進んだ。幅は五十メートルしかない、それぞれの舷側に兵を集中させて陸からの攻撃を警戒させる。少しすると左側面に集落が見えてきたブルンジの最後の領域だ。警戒を最大にして河を右に曲がる、するとそこには多数の小型船が待っているではないか。

 左手の陸地にも多数の兵士が上陸しており河べりに並んでいる。彼らが翻す旗はンダガク族のものと四ツ星だった。中型船が見えてくると一斉に敬礼して迎える。コンゴに入ったところで誘導されて一旦上陸する。


「将軍閣下、トゥトゥツァ・キヴ少尉であります。お迎えに上がりました!」


「ご苦労だ」


 水上陸上の兵、合わせて千人は下らない。よくぞ集めてきたものだ。エーン少佐の手配だが、彼にやりすぎの概念は無い。


「船はそのまま河を。閣下は五号公道をブカヴまで行かれるのが宜しいかと」


「エーン少佐に任せる」


「承知致しました。後続を待って移動する、トゥツァ少尉、一キロ圏内を警戒範囲に、三キロ圏内を監視だ」


「ダコール!」


------------------------- 第20部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

第八章 コンゴの部族民-4


【本文】

 少尉の命令で千からの部隊が動く、異様な光景だがそれでも彼は何も言わない。


 ――少尉か。俺が任じたものを後生大事に抱えているわけだ、その気持ちにも報いてやらねばな。


「トゥツァ少尉、こちらへ」


「はっ!」


 指揮を中断して島の前で胸を張る。前に見たときより随分と立派になったような感じを受ける。


「俺のような根無し草の承認ですまん。トゥ・トゥ・ツァ少尉のこれまでの功績を以って、貴官を少佐に任命する」


「謹んで拝命致します!」


 エーン少佐が自身の分の予備で持っていた記章を彼に付けてやった。


「指揮を中断させて悪かった、戻れ」


「ウィ モン・ジェネラル!」


 

 その場で二時間程待機しているとマリー少佐の部隊が到着した。遅れてエスコーラも合流する。船団をオリヴィエラとメルドゥスに預けると、一団は五号公道を粛々と北上した。一日の距離を進んだところで待っていたのは軍隊、だがそれはブカブマイマイだった。武装民兵団だ。少佐が進み出てくる。


「シサンボ少佐であります、閣下!」


 後ろには三個大隊、ブカヴに他に三個大隊を有しているらしい。トゥツァ少佐がそう説明した。従わなかったマイマイも徐々にシサンボの元に参集してきたらしい。


 ――こいつもか。だがそれで治安が保たれているのは事実だな。


 エーン少佐に目で問う、予備はあるのかと。彼はアタッシェケースから一つ階級章を取り出す、島が小さく頷いた。


「シサンボ少佐、ブカヴの治安はどうだね」


「良好であります。ンクンダ将軍も地区連隊も手を出してはきません」


「そうか。コヤジア将軍の様子はどうか」

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