第436話
「承知した、指揮権を預かる」
二人を見てパストラが「最高司令官代行としてロマノフスキー大佐を南部司令官に任命する」宣言した。並列していた部隊が一本の軸を通すことにより強化される。簡単なように見えてこれが一番難しい。
話が作戦内容に切り替わり、時期を見計らってマリー少佐が申告した。
「クァトロですが、外国人居留者を募りマナグアに潜伏させております」
至るところで募集していて、島にも許可を貰っていたが、何をさせているかは今初めて明かす。
「目的は」
「戦闘時の避難誘導が役目です。ニカラグアは諸外国の責めを負うわけには行きません」
在地の外国人が死傷すれば非難されてしまうのは道理であり、またそれを口実に介入の恐れすらあった。それを保護する役目はハラウィ少佐の義勇軍になる。この時点で全く連絡を取っていないが、心配していなかった。
「避難先を決めよう。ロドリゲス少佐、マナグア市街地で二ヶ所候補地をあげるとしたらどうだ」
分割するわけではなく、一方が使えない場合の予備として考えるために尋ねる。軍事拠点に近すぎたり避難するに遠すぎると別の問題が生じてしまう。
「デニスマルティネス国立競技場、またはニカラグア自治大学でしょう」
近隣にあり規模が大きく知名度が高い施設で、国家としての利用に名分が立つとの見込みだ。
「ニカラグア自治大学ならば、双方が手を出しづらかろう。避難先はそこにしよう。閣下、宜しいでしょうか?」
まとめた意見を上げて承認を求める。政治的な配慮で否と言うならば競技場に代えるが。
「学長に一報しておこう。彼も嫌とは言うまいよ、聖域に指定されることをな」
問題は義勇軍とやらを受け入れるかどうかじゃ、パストラが呟いた。
「ハラウィ少佐はルッテ教授を通してマナグア学長に接触をしております。国際義勇軍を国防軍よりは信用するでしょう」
お恥ずかしい限りであります。その国防軍の南部司令官になったばかりの男が謝罪する。自国民に信用がない国防軍など、中国やロシアと同列なのだ。
「儂が負う責めじゃよ。レバノン政府に礼を述べねばならんな」
国内最大の外国人居留民がシリア、レバノンあたりの中東の民なのだ。
「制水権はどうだろうか? マナグア市街地北側は水上部隊の戦場になり、移動も道路を使うより遥かに有利」
「そいつは手が無い。残念だがそこまで手配が及ばなかった、陸で何とかするしかないな」
「フィガルパへ水上部隊の攻撃があったが、あれはリバス政府のものでは?」
正体不明の水上戦力について大佐が指摘してみる。ロマノフスキーもそれについては概要しか知らされていなかった。
マリー少佐はハマダ中尉がそれを率いていたことを明かして良いか悩んだ。明らかな内戦介入で、外国人が戦いに加わった証拠になってしまう。
「リバスに水上戦力は無い。どこの部隊じゃ?」
ロマノフスキーがマリーの様子を見て悟った。
――ボスの手勢か。すると三日月島の奴等だな、バスター大尉あたりが指揮官とするとうまくない。事実として船は有るわけだ、そこだけを利用するか。
「何者かはわかりませんが、船があるなら接収しましょう。国の一大事です有無を言わせません」
「所有者に後の補償を約束する書面を発行してやるんじゃ」
承知しました。パストラも深くは追及せずに終わらせてしまう。
「ティピタパ河を遡上させれば、ニカラグア湖からマナグア湖へ出られます」
水深が浅いので軽い船しか渡れないとロドリゲス少佐が注意を与えた。
「小さな船ならば技術者も少なくすむでしょう。民間から雇っても構わないのでは?」
船頭をどうするかの問題に踏み込む。攻撃をされるのがわかっていて、協力を約束してくれる者は極めて少なかろう。かといって数時間の指導で満足に扱えると考えるのは甘い。
――フランスの民間人か、あからさまだな。船か……別に修理したりまでの能力は求めん。操縦だけ出来れば良いなら俺でも可能だ、一時的にならば何とかならんか?
「例えばだが、教官に逐一指示されながらならば素人が操縦出来ないだろうか?」
その場の皆に問い掛けてみる。一般的な感覚がどうなのかを。
「儂は無理じゃ。車の運転が出来れば速度的には全く問題なかろうが」
「指示があれば出来るだろう」
「自分は可能だと考えます。専門用語については不理解ですが」
「走らせるだけならやれるでしょう。戦闘まではわかりません」
比較的難しいと考えられるのは操縦以外の部分だと反応があった。
――隣に教官が居るようなら最初から困らん。だが隣に居るかのようにして扱える何かを俺は知っているぞ!
C4システムがあった。戦車すら動かせるのだから、時間があれば船などお手の物である。だがその時間が無い。
――船内外をカメラで撮影しながら、操縦者に逐一指示を出す。専門名称を省く手順と、誘導札でも貼ってやれば移動位は計算できるな! 個人通信機が鍵になるぞ。
「水上部隊は移動用にならば運用可能と判断した。監視カメラと通信機がかなり必要になる」
「監視カメラ位ならばリバスにも幾らでもある。通信機か……」
パストラも困っていたようで、通信機は数が少なかった。ハンディトーキーあたりでも行き渡っていない。
――ダメで元々、無ければ携帯電話を山ほど用意するなどするしかあるまい!
煩雑にはなるが代替が効くだけましだと割り切る。
「通信手段は何とかしましょう。ロドリゲス少佐、貴官が水上部隊の指揮を。最前線への武器弾薬の補給だ」
これが無ければ手持ちばかりを気にして戦わなければならなく、かなり勢いが削がれてしまう。
「了解です。あるもの勝負が戦場のルール、やってみせます」
「マリー少佐、第四コマンドを率いてマナグア宮殿を占拠するんだ」
「革命動議の守護者よ再びですか、胸が踊ります」
確りと頷いて命令を了解した。
「フェルナンド大佐、マサヤ州からマナグアを目指し攻撃を。必ずしもマサヤを占拠の必要はない」
「少しでも突破させます。チョンタレスの維持はこの際不要でしょう」
もしそちらに兵を割いてくれるならば逆にありがたい、そう余裕を見せる。
「俺はリバス連隊と共に公道1号を北上しよう」
「リバスとて維持の必要はない。儂も後衛につこう」
「かなりの危険を伴います」
もし攻撃を受ければ守りきれる保証はないと注意する。
「マナグア宮殿に入り政権奪還を宣言するまでは簡単に死なんよ。一刻を争う段階でリバスに居るなど、笑い者だろう」
「承知いたしました。総予備として自分の後衛におつき頂きたい」
「うむ。足手まといにはならんよ」
粗方の方針を定め、ついに内戦は天王山を迎えることになる。後悔はない、全員が全てを注ぎ込んで前へ進む、ただそれだけであった。
終章 決戦マナグア攻防戦
「偽装部隊が山道に進入しました」
「五分隔てて我等も進むぞ」
第一コマンド司令――フーガ少佐が抑揚をつけずに命じた。ニカラグアの歴史に刻まれるであろう戦いが始まる。
「砲兵陣地より、通達から三十秒で砲撃が可能です」
既に発射準備を整え命令を待っている。発砲せずに終わったとしても、砲弾の無駄など全く問題ない。
レオンの北西、チチガルパではラサロ准将の部隊が戦闘を開始していた。これまた費用が桁違いにかかる連装ミサイル兵器を、雨のように降らせてから始めたそうだ。
「少佐、五分です」
「よし、進軍だ」
タイムキーパーを務める副官がいささか早口で告げる。装甲戦闘車両が一斉に移動を開始した。
先頭は戦車で三両ずつ二組が間を置いて走る。二個小隊、つまりは一個戦車中隊である。
「偽装部隊が停車しました」
あからさまに怪しい集団だと、検問所で停止を命じられたようだ。調べられる前に攻撃を始めた、すぐに双方で撃ち合いが繰り広げられる。
「砲撃だ」
フーガ少佐の命令がエーン少佐に下された。すぐにヌル中尉が座標を指定し砲撃を加える。
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