第278話
「沖から支援させる、チョッパーも飛ばす」
だが上陸に関しては一切しないと、変わらない態度を示してくる。
「もしブラックホークが墜ちても?」
比喩ではあるが引き合いに出してみる。答えは得られなかったが、ジョンソンが黙っているとは思えないので、その時は一報をと残して話を進める。
「モガディッシュから南の海岸線が目標だ。だがアルシャバブの支持が強い地域はどうにもならん」
「制圧地域の拡大を目的と考えましょう。境界線が一番危険度が高いですが」
単純な敵との遭遇規模だけでなく、住民の妨害が考えられる。移動や作戦への直接的な妨害から、食糧に古いものを渡してきたり、野営地近くで夜通し祭りをして睡眠を削るような真似まで含めて、様々な問題に直面するだろう。
「ソマリア連邦軍は手を挙げなかろう」
「アメリカもエチオピアもですね」
「その通り。ケニアとの国境付近はケニア軍が限定的に担当する見込みだが、極めて小さな区域だけで緩衝地帯を設けられれば良しといったところだろう」
越境して悪さをするやつらが多いので、海沿いも威嚇する意味からの示威行動の一環だと説明した。
「百人そこそこでどこまで行けるかわかりませんが、ニカラグアが最遠地を受け持ちましょう」
「すまん。少数派遣してきている国の軍を推す。そちらの指示に従うように、事前に交渉をしておく」
手練手管で他国を操るのはお手の物だと、国威を利用すると伝えておく。
「最悪自分達だけと考えておきます、あまり無理をなさらないように」
かなりあちこちに負担を強いているだろうと、ジョンソンの立場を鑑みる。
「それはイーリヤ准将もだ。気を回すな、失敗したらお仕舞いなのはそちらも一緒だろう、成功させれば有象無象は口を閉じる」
――やはり俺と同じ臭いがする人だな、何とか力になってやりたいものだ。増員しようとして出来ないこともないが。
「頭数が足りなければ召集しますが」
「一国の兵数が増えればそれだけ目を付けられるぞ」
そうすると妨害が始まりだすと注意する。出る杭が打たれるのは、国が違えど変わらぬ事実のようだ。
「パラグアイミリシアとレバノン軍ならば、足さえあれば兵を出してくれるはずです」
「義勇軍扱いではソマリア連邦が渋い顔をするな。名目はどうするつもりだ」
義勇軍がソマリア連邦で活動をするならば、当事国が様々な面倒をみる義務が生まれてしまう。費用やその他の事情から、それは勧められないと指摘される。さりとて政府の承認を得るには、日程的にかなり厳しいものがある。
「アフリカ連合という組織に資金を回して」クッションを使えば多少はリスクが散るが「ミリシアを雇用して派遣といった形式では?」
傭兵でもなく軍でもない存在があるはずだと提案をしてみる。
「それだと直接戦闘には使えなくなる、不安定な立場で不利益を被るだろう」
交戦権を持たない集団として扱われる可能性が高いというのだ。つまりは他人を害すれば罪に問われたり、捕虜になれなかったりと。後者については心配しても仕方ないが、勝って訴追されるでは上手くない。
「駄目を承知で方々に頼み込んだとしても、すぐに派兵とはいかないでしょう」
「今回はあるもの勝負でいくしかあるまい」
名案が出ないまま少し無言が続く。リベラ中佐が話題を変えるために、例の海難救助について声をあげた。
「ジャパンのフリゲートがオーストラリアの船員を救った件ですが、どうやら幕僚士官の独断だったようで」
米日の情報交換――アメリカに情報が集まるわけだが、そこで話題にあがったらしく拾ってきたようだ。
「ことなかれ主義の中、よくぞ踏み切ったものだな。俺はそいつを支持するよ、賢いとは言えないが好きだよそういう奴は」
「イーリヤ准将もやはりか。俺もそういった信念を持った男は称賛してやりたい。他国軍の内情にとやかく割って入るわけにもいくまいがな」
熱くなって自身を省みない。まるで自分達を見ているような気分なのだろう。敢えて船員らを死地に追い込んだ島としては、贖罪の意識が根底に見え隠れしていたのかも知れない。
積み荷や荷主については、一切口にしないように因果を含めていた為か、船長からそれ以上の話は漏れていないようだ。自衛隊が無理矢理に尋問することもなく、きっと暫くは真相に触れることもないだろう。
「噂ではその士官、無期限自室謹慎のようです」
次の帰国部隊に混ざってソマリアを去るまで隔離され、反省をするようにとのお達しらしい。
「海のルールはわからんが、もし俺の部下にそんなやつが居たなら、自室は今ごろ贈答ビールで一杯だね。視察に行ってはビールを部屋に置き忘れてくるさ」
持ち主が現れない落とし物だと笑う。ジョンソンもそいつは良いなと評した。だから二人とも主流になれないのだが、今後も気にすることはなさそうだ。
「行為の正しさを知らしめるために、何かしらの声明を決議に盛り込むなどはいかがでしょうか?」
当たり障りがない問題の一致でも、団結感が少しは産まれるだろうと、先を見越した内容に触れる。
「自分は構いませんが、アメリカ軍はいかがでしょう准将」
リベラの意思を汲んでやり、ジョンソンに下駄を預ける。難しければそれとなく却下してくるだろう。
「会議が迷走して、空気を変える必要がありそうならば、持ち出してみよう」
中佐もその返答であっさり納得する。
――俺やジョンソン准将が言って、実行出来なければしこりが残るだろうと口にしたか? もしそうならば、遠回しに票読みをしているかも知れんな。
チラリと窓から外をみる、甲板で航空機の整備をしているのが見えた。
「オスプレイですか」
「ん、ああ、あいつは使えん。わざわざ積んではきたが、海向きには発展をせんだろう」
一応の将来性を検討だと、興味無さそうに言い捨てる。
「そろそろお暇致します、次はナイロビで会いましょう」
立ち上がり敬礼を互いに交わして部屋を去った。
◆
同じ頃、やはり窓から街を眺めていた男がいた。髭を軽くしごいて部下の報告を反芻する。
――海賊駆逐か、反政府勢力への資金源を許さない意味では、じわじわと効いてくるぞ。こちらはまだ正規の交易を抱えているから痛手は少ない、様子を見ておこう。
「トゥルキー将軍閣下、ラスカンボニ旅団宛にも、ケニアでの会議に参加するよう案内が来ております」
袂を別った各所の代表にも、それぞれ分け隔てなく声がかかっていたのをトゥルキーも知っていた。それと解ったまま返答をしていないのだ。
「正確な日時を確認するんだ」
それをはっきりさせられないのは、テロの可能性があるためだと承知の上で嫌がらせをする。
――素直に明かしてきたところで出席などせんがな。
側近としては、わかりましたと答えるより他ない。将軍に従っているのだから判断は委ねるのみで、はっきりとした過ちや妙案がある時は指摘することもあった。
元より案内した側も上手く進むなどとは考えておらず、相手の態度の一端でも見られたら良しとしている。
「活発な動きをしているのは」
これまた答えを解っていながら問う。部下も再確認をさせるのが目的なのか、それとも別の視点からの言葉を求めているのか迷う。少し困惑してから勇気を出して、今までとは違う言葉を盛り込む。
「キスマヨ東に居座っているニカラグア軍です。輸送船から奪取したテクニカルを揚陸直後、その拠点を攻撃しております」
つぎはぎだらけの断片的な情報を、推測を交えて一本にしてみる。トゥルキーはぴくりと眉を動かし言葉の意味を考える。
――攻撃は確かにニカラグア軍だったと目撃が寄せられていた。揚陸直後かどうかはわかるまいが、少なくとも船に積まれたままではなかった。それに積み荷がテクニカルだったとは、積込時の話からの推測であって、そちらは実際に見たものはこの世に居ない。襲撃部隊が引き上げるときにはそれらしき車両があったにせよ、最初から攻撃に加わっていた可能性も否定は出来ん。
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