3日目ー1

ドンドンッ バキッ


「き、キャー!!」


朝、ぼんやりとした意識の中で叫び声が聞こえた。

ドタドタとあわただしい音が部屋を支配し、さすがに寝すぎたかと思い、身支度をして部屋を出る。


「お、おい!道意琉!こっちやこっち!」

燐にそう呼ばれ、若干ねぼけた頭でそこへ向かう、

しかし、呼ばれた場所へ着いた瞬間、ねぼけていたのが、数時間前だったのではというほど目がさえ、あまりの驚きに、口が半開きになった。


「どういうことだ、これは」

そこには、昨日までは生きていたはずの谷川さんの死体があった。


「殺人事件さ」

優斗が、顔をしかめてそう言った。


「なぜそんなことが分かるんだい?」


「ああ、それは彼の死体の上に、こんな紙が置いてあったからね」

と言って優斗は僕に一枚のメモ用紙のようなものを渡した。


そこには、

【小さな猟師さんが10人

力自慢はっけよいがクマに負け 心臓えぐられ 9人になった

 9人の小さな猟師さん

ねぼすけ小僧がねぼうして ねむったままで8人になった

 8人の小さな猟師さん

舟出ししようと浜に来て ひっくり返って 7人になった

 7人の小さな猟師さん

働き者がまき割をして 自分が割って 6人になった

 6人の小さな猟師さん

食いしん坊がハチミツなめて ハチに刺されて 5人になった

 5人の小さな猟師さん

しっかり者がお白洲に出て お裁き下して 4人になった

 4人の小さな猟師さん

魚釣り好きが海へ出て 波にどんぶら 3人になった

 3人の小さな猟師さん

怯えたものが ひとりを殺して 2人になった

2人の小さな猟師さん

いたずら坊主が焚火して 火種がはぜて 1人になった

1人の小さな猟師さん

さいごの1人が 首つって

とうとうお山は だあれもいない

さあて、あなたはなんばんめ?】


と書かれていた。


「これは、確かに殺人だといえるね」


「ああ、しかも、犯人は『そして誰もいなくなった』が好きらしい

これはぜひ捕まえてぜひアガサクリスティーについて語り合いたいね!」


優斗の目がここにきて一番輝いている気がするのは僕の気のせいだろうか…。


「おまえは、ほんまかわらんなぁ」

燐はあきれているのかため息をついている。


「まぁ、冗談は置いといて」


「ほんまに冗談かいな」

と僕が思っていたことを燐が言った。


「ところで、優斗」

僕は手紙について気になっていることを優斗に聞いた。


「どうした?」


「谷川さんは殺され方からして二番目だと思うんだ。なら、一番目はだれだ?」

そう、谷川さんの死体に目立った外傷はなく、眠ったように死んでいることから

二番目の猟師は彼だということになる。


「クックック、面白いことを言うじゃないか道意琉君。丘だよ丘真一さ」

優斗はわかりきったことを聞くなという顔で僕の問いに答えた。


「ああ、彼か、っておい!じゃあこの殺人事件は連続殺人事件と言うことか?!」


「多分な、だから、こんな手紙を送ってくるんだろ」


「だが、犯人の動機が分からないな」


正直今ある情報だけでは、犯人がなぜこのようなことをしたのか

皆目見当もつかない。


「まぁ、それは後回しでええんちゃうか」


「そうだね。まずは谷川さんの死因を調べないとね」


「なあ、坊主ら何者なんだい?」


ずっと、宿泊者たちは僕たちの話を聞いてずっと黙っていたが、

望月さんが俺たちに向かってそういった。


「俺たち?ああ、俺たちは…」

優斗は、待ってましたと答えを言うのをじらした。


「俺たちは…?」


「たまたま止まった宿で殺人事件が発生してしまった不運な大学生さ!」

うん、そうだね。

別に探偵でも何でもないただ少し謎が好きなだけの大学生なのだから。


「知っとるわ!」

と、望月さんがつっこむ。周りの人たちもこけそうになっていた。


「とまぁ、寄り道はこのくらいにして…そろそろ検死といこうか」


「了解」


「よしそれじゃあ、道意琉、この部屋の写真を撮ってくれるかい?」


「撮ったよ」


「よし、始めますか」


と言って優斗は部屋中を調べ始めた.


***


「なるほど、結果的に被害者の体を見て分かったのは、死因は硫化物中毒ということと、犯人は、睡眠薬で、被害者を眠らしてから犯行に及んだようだと言うことぐらいだね」

優斗は淡々と事実のみを述べた。


「どうしてそう思うんだい?」

僕は気になってそう聞いたが、周りの人たちも同じことを思っていたようで、

静かににこちらへ耳を傾けている。


「簡単さ、被害者の死斑の色は緑色だった、二つ目は推測だがほとんどあっていると思う、硫化物系は匂いがすごいからね、深く寝ていないと気付いてしまって、

確実に殺すことができないだろう」


「なるほど」


「確かに、そしてこの死体は、死後11~12時間はすでに経過しているようだ

死後硬直がかなり進んでいるからね」

神明さんが死体を観察しながらそう言った。


「ん?ということは、おかしいですね。少なくとも23時には生存が確認されているはずの人物が今8時ですけどまだ9時間しかたっていないのにもかかわらず…。

檜さん?あなたが聞いたと言っていた声は、いったいだれが発した声なのでしょう?」

優斗がそう言うと、


「わからないわ、でも、ほんとに少しだけだけど、くぐもった声だったような気がしないでもないわ」

彼女は、はっきりとそういった。


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死してなお生きる 皇 桔梗 @sakusaku999

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