雨宿り

高岩 沙由

雨宿り

 僕は突然、箱の中に1人ぼっちになった。

 鳴いても、鳴いても、誰も返事してくれなくて。

 お腹がすいて鳴いても、誰も返事してくれなくて。


 僕は疲れて、箱の中で眠っていたら、上から水が落ちてきて、寒くて寒くて震えていたら、急に水がとまった。


 僕は力を振り絞って顔を上げると、僕を見ているものがいるのに気づく。


「かわいそうに。捨てられちゃったの?」


 悲しそうに僕に声をかけてくる。


「やっぱり姉貴だ」


 別の声が聞こえて、びくっとする。


「ひ”~ろ”~き”」


「土砂降りの雨で傘差さずに何泣いてんだよ?」


「猫が! 子猫がここにいるんだよぉ!」


 誰かが近づいてくる気配を感じて、身を竦める。


「どれどれ……。うわっ、マジでちんまいのがいるな?」


「でしょでしょ」


「そんなに顔をぐしゃぐしゃにして泣くなよ、姉貴」


「だって!!!! かわいそうじゃん」


「はぁ? なら家に連れて帰ればいいじゃん」


「えっいいの?」


「いいんじゃねぇの? こういう毛物けものって側にいるだけで情緒が安定するらしいぜ。知らんけど」


「姉に向かって情緒不安定だと言いたいの!?」


「って! いきなりぐーぱんで腹殴るなよ。姉貴だけじゃなく、家の中の会話もはずむだろうってことだよ」


 急に声が聞こえなくなって、僕を見ているものを見つめる。


「……うん。連れて帰ろう」


「じゃあ、俺のかばんにいれるか」


「なんで!?」


「いや、姉貴のかばん、地面に置いて、底が濡れてるじゃん」


「ふ、不覚……」


「意味わからんし。ほれ、シロ、かばんにいれるぞ」


「し、しろ?」


「えっ? 白猫だから、シロだろ?」


 僕は突然首の後ろを掴まれると、かばん、というものの中にいれられた。


「よし、入ったな」


 そう言うと少しずつ暗くなっていく。僕は何が起きているのかわからず、かばんの中で鳴き声をあげる。


「姉貴は傘忘れずに持てよ」


「わかってる!」


 突然かばんが動いて、僕はころころとかばんの中を移動していく。


「姉貴は来年、大学受験だろ? 毛物けものを触るだけでストレスの発散になるらしいぜ」


「そうなの? 広樹は物知りだね!」


「ああ、それと。猫用のミルク買わないといけないな」


「普通の牛乳じゃダメなの?」


「腹こわすらしいぜ」


「そうなのか」


 かばんの外から聞こえる声に僕はこれからどうなるのかわからず、一鳴きしたあと、体をなめ始める。


「猫ちゃん、大丈夫だよ。これから家に帰ってごはん食べようね」


「シロだろ?」


 なんだか、優しい声が聞こえて、僕は安心して眠ってしまった。

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