五章目覚めし力編
校舎屋上の談話
「まんまと引っかかりおって、あれほど用心せよっと言ったじゃろ」
「あの、ラグナロクさんよ。俺達初対面に近いと思うんだけど、なんで知った口調なんだ?」
ラグナロクは腕を組み、真剣な眼差しでこう口にした。
「知らないのも無理がないかのう。異世界で死んだ妾の夫がお主じゃよ」
「は? いやいや、んなわけあるか!? 異世界で死んで、現世で死んだんだぞ? どうゆう理屈でそうなるんだよ!?」
「冗談がすぎたの、じゃが。もう少し簡単に言えば―――お主一度だけ迷子したのじゃよ」
「迷子?」
「記憶にないかの? 確か小さい頃、生死をさまよったこと一度あったはずじゃ」
俺は記憶を辿る、確かにあったあれは三歳ぐらいだろうか。階段を踏み外して半年ほど入院してた時期。
あの時は、脳にダメージが凄くて植物人間だって医師から両親に伝えられていたらしい。
その半年、俺は確かに違う世界にいた。
夢だと思っていたが――――。
「その頃、妾はまだ若い頃じゃ。彷徨う少年に声をかけたのが―――お主ルークじゃよ」
「そうだったのか」
「その頃から、お主はフィリスに狙われていた。何故ならば、異世界に飛ばされるなんてありえないからのぅ」
「けど、身体は現世にあったぞ?」
「意識のルークが異世界に飛ばされて、身体が現世なんて当たり前じゃろ。分かりやすく言うと、分離したのじゃよ」
「分かりやすく言うと?」
「意識とは、精神じゃ。身体は器、それを繋ぐのが鎖。それがたまたまちぎれて半分が異世界に飛ばされたって言うわけじゃ。戻された時に記憶が消えても無理がないのう」
妙だと思ったんだあの頃、悪魔が徘徊する視界で泣きじゃくる俺にロリっ子が手を伸ばして繋ぎ歩いた微かな記憶。
その頃からか、天使ちゃんとか称したのは。
記憶になくてもすぐその名前が出たって事は、奥底で覚えていたのか。
「覚えてなくても、精神が覚えている。でも、ラグナロク身長も体型もそのまんまだな」
「成長しておるわ!!」
「髪?」
「胸じゃ」
「ぺったんこ」
「こやつ!! 妾の魅力を瞬殺しおった!!」
けど、ラグナロクは何故"光"をさらったのだろう。その疑問を俺が口にする前にラグナロクが語り出す。
「さて、光を何故さらったのか。簡単じゃ、フィリスを倒す為に必要な力。スフィアキーじゃよ」
「謎の単語だな、けど光がキーってどうゆう事だ?」
「そこを語るにはいくつかやらねばならぬ事がある。妾の力はそれがなくては全力は出せぬ、聞いていたかアビス」
壁影からアビスが現れて、俺の所まで歩きとまる。
「聞いてたぜ。主さんよ、今更動くとはカードは揃いつつあんのか?」
「うむ、妾を誰だと思っておる」
「立ち聞きとは、悪趣味だな。ロリと密会だぞ?」
「み、み、み、み、みっ、密会ではない!!」
「激しく同様してるねぇ、主さんよどんだけルーク気にってるんだ?」
「うるさい!! 妾は、一人だったのをこやつが救った恩人じゃ!!」
「ほぅ? ラグナロクと言う主さんは、人界がお好みでしたか」
「違うのじゃ!! なんなのじゃお主ら!! 妾を遊ぶのではない!!」
ぷんぷん怒るラグナロクは可愛さがある。
今日は珍しく月明かりが雲の隙間から射し照らす。変わらず寒いは寒い。寮に帰りたいな。
「まず、スフィアキーとはだが。フィリスはルークから力奪った時、手にしていた淡い光を放つ球体。あれが"スフィア"だ」
「それを解除するのに、富岡光の力が必要となるわけじゃ」
「結構簡単に言ってるけど、そもそもその"スフィア"はなんで鍵かかってんだよ」
アビスは俺の疑問に答えるように渋い声で話した。
「簡単さ、スフィアを解き放つ。そうするとその力は失われるからだ。 スフィア状態であれば力の引き出しなんて無限に出来るから、まぁ力の集大成の"球体"さ」
理由も何となく理解できた、ただ光は今どこにいるのか。俺の本来の目的でもある、助け出す話であるが。
「光が気になるかの?」
「え? あぁ、何処にいるんだよ?」
「答えられぬ、じゃが妾の保護範囲にいるのは確かじゃよ。愛しい恋人と会いたいかの?」
「いや、いいや。リア充になれたわけじゃないしな。それに異世界転移だろあいつ」
「ふむ、まぁそうなるじゃろうな。しかしまぁ、お主あんなタイプ好きになるとはな。妾からしたら驚くのう」
「へ?」
「ルークって気が強い感じで、内面あんま強くない優しい子が好きなんだよな」
「この、ニワトリやろう!!」
「図星かよ!! 鎖で拘束すんな!!」
こうして談話は夜通し続いた。
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