錬金術の少女 (雪国遭難・Ⅰ)

主要都市を道なりに進んだ先に、漁場となる船着場がある。漁獲はそこそこ有数で特産品が"ラーモン"と言うマグロに近い魚。


だが、今は閑散としている。漁の時期は秋なので今は誰もおらず。仕方がなく木製ベンチに腰を降ろした。どうしたらこの先に行けるのか分からない物だ。



ギーコ



んー、海を歩くとか海面を切り裂くとか。試してみたいけど神じゃないし、魔力ない俺からしたらそれは無理ゲーだ。



ギーコギーコギーコ



一回帰るか? 転移魔法で飛ばしてもらえれば―――あぁダメだ。座標分からないや。



ギーコギーコギーコギーコギーコ



「なんだ? うるさいな。ギーコギーコって言い過ぎだろ!!」


俺は後ろを振り返ると、白鳥のボートでめちゃくちゃ漕いでいる人が見えた。



「何やら騒いでるし、白鳥ボートの爆速スワンブースターバーストしてるんだけど!?

漕いでる人さんよ、足にモーターでも付けてんのかよ!? 凄い水飛沫みずしぶき上げて水中爆発レベルだぞこれ!? って――――こっちに来てる!?」



――――バッシャン!!!



陸に激突して、白鳥のボートから乗ってる人が投げ飛ばされ。 海水が俺にザパァッ! っと直撃した。ずぶ濡れなんだが、勘弁してくれよ。



「あわわ、大丈夫ですか!?」


飛ばされた少女は、見た目より身軽で運動神経がいいのだろうか。捻り回転着地して平然としていた。


「だ、大丈夫だけど。君の足は――――魔導動力には見えないな」

「あの、私の足まじまじ見ないでくれませんか?」

「あ、わりぃ。凄かったからさ」



クスッと笑う少女、赤髪と瞳で横鞄よこかばんが印象的である。可愛いは可愛いけど、あんな風にボートを漕ぐようには見えない。


「でしょ! でしょ!? 私、見習いだけど錬金術してるんだ! だから、あの白鳥ボートに全自動機械を作って付けてみたらね。 けど失敗したらあんな暴走するとはね。とはほ」


グイグイ来て目を光らせてから、指を合わせてシュンってする少女。なんて言えばいいかよく分からない。



「あ、あぁ? それは災難だな」

「うんうん、それでたまたま君が居た。服を濡らしたからまた試作品だけど。ほいっと」



少女は明るい表情で見るからに怪しい形した宝石を横鞄から取りだした。―――いや待て試作段階って!?



ヒュオア―――!!



ものすごい強い風が俺を包み込み、洗濯機の様にぐるぐると空を回転する。



「うわぁぁぁぁ!!? 目が回るぅぅぅ!!」


少女はあっ。と言う何かやらかした表情を浮かべていた。

再び横鞄をゴソゴソとして可愛らしいスライム型のアイテムを取りだした。


「あ、こっちじゃなかった。えーと、多分大丈夫だから―――えいっ!」



急に風が止まり、服は乾いたがそのまま地面に滑落して地面に尻もち付いた。痛いこれ! ケツ割れただろこれ!!



「大丈夫?」

「大丈夫、なんか色々凄いな」


ゆっくりと立ち上がる俺は、ズボンを叩いて少女を死んだ眼差しで眺めた。


「あはは、これで師匠に怒られるんだよね毎回。私の名前はマキナ、君は?」

「俺はルーク、今日から学園に行くんだ」

「学園?」

「あぁ、ヨツンヘイムにな」

「やめといた方いいかも、この海域サメとか飛龍が住んでるから」

「え?」

「ヨツンヘイムまでのルートはないんだ。空からか転移魔法からの二つしかないよ」



え? 嘘だろって固まる俺である。

船で渡れないなら空飛べと? いやいや、空中徒歩なんて魔法ある人しか無理だろ。

それに何十キロ先にある大陸、転移魔法以外無理だろうな。震え声でマキナに訊いた。



「えーと、どうやって行けば?」



マキナは横鞄を探り、魔法陣描かれた石を取り出した。また試作品の匂いがする。



「これがあれば、転移は出来るけど。どこに着くかは分からないよ」

「何そのランダム仕様は?」

「目的地の何処かだから安心です」

「何処がだよ!? 野菜販売の写真があると安全みたいな顔やめろよ」

「えへへ」

「褒めてないからな」



てか、これいくら払えばいいんだ?



「二百コルです、今なら私の写真付きです」

「安全販売なのに何この狂気!?」

「あ、傷ついた。五百コルになります」

「値上げすんなよ!? あー、今持ち手がないから後払いになるが良いか?」

「魔法のカードでキャッシュバックに私が付いてきます」

「いりません、さようなら」

「ひどっ!?」




まぁ弄るのはこの辺にして、あどけない顔の子だからなぁ。まぁ試す価値はあるとしてだけど、ランダムかぁ――――。



ゴーン、ゴーン。



遠くで教会の鐘の音が鳴り響く。

そろそろお昼を知らせるチャイムだ。



「あ、帰らなきゃ。またね!」

「あ、おい! 使い方がって行っちゃたな」


脚はめちゃくちゃ早い、鍛え方が違うなぁ。

さて、もらった転移石を握りしめた。

まぁ、大体はある言葉を言えばできるんじゃないかと予想してるから――――。



「転移!」



ポワッと眩い光が放たれ、景色が一瞬で切り替わった。






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