第3話 家康が図書館で犯罪を起こしただと?
翌日、泰示は朝早くに浩二とともに、神社へと向かった。
「よお」
家康は二人を見て手を挙げた。
「では、行きますか」
泰示が尋ねると、家康はうなずいた。
「そういえば、昨日は何食べたんですか」
浩二が思い出したように尋ねた。
「少し、お稲荷さんとおむすびを食べさせてもらったよ。それでも少し足りなかったから、賽銭箱を小刀で開けた」
「それで、どうしたんですか」
泰示は家康がやったことに心底驚きながら尋ねた。
「もちろん、金を取りだして、商店に行ったよ。それより、なかなか今の貨幣は美しいのう」
家康はズボンのポケットから五〇〇円玉を取り出すと、まじまじと眺めた。
「そ、それは犯罪ですよ」
泰示がそう言うと、家康は首をかしげた。
「賽銭を盗むだけで、今の世は捕まるのか。堅苦しいのう」
家康は周囲を確認して、素早く、五〇〇円玉をしまった。
「まあ、気づかれなければすむ話だ」
家康は楽観的にそう言った。
図書館にたどり着いた。今日はそのまま館内に入る。
「まずは館内を一回りしましょう」
浩二が先頭に立って案内する。家康は本をいちいち取っては感嘆していた。
「私に関しての何か本はあるかね」
泰示と浩二は顔を見合わせた。この家康はまだ、三河の小大名だったころの家康だ。これから天下を取るということを家康に知られたら、とんでもないことになる。
「この図書館、伝記の蔵書は少ないんですよね」
泰示はびくびくしながらそう言ったが、家康は既に、伝記コーナーという案内板を密kて、そちらに向かっていた。
「ちょっと待ってくださいよ」
泰示たちは家康を追いかけたが、家康は面白がって、走り出してしまった。
やがて、泰示たちが追い付くと、家康は既に、徳川家康と書かれた本を読み始めていた。
「それは読んではいけませんよ。未来のことが書いてあるので」
泰示は本を家康から奪おうとしたが、家康も負けじと、力を加えてきた。
「浩二も手伝えよ」
泰示に促されて、浩二も本を奪おうとするが、惜しくも家康にとられてしまった。
家康は泰示たちから少し離れると、本を読み始めた。しばらくすると、家康の口から
「えっ!」
という驚きに満ちた声が聞こえてきた。近くで勉強していた者たちが驚いて、家康の方を見た。まさか、自分が天下統一したことを知ってしまったのか…
泰示たちは急いで、家康のそばに向かった。
案の定、『家康、征夷大将軍になる』と題されたページを開いていた。
「すごいなあ、私は。やはり、さいごにこの戦国の世の勝者になるのは私か」
「家康さん、ここは図書館ですよ。静かにしてください」
泰示にそう言われて家康はようやく静まった。
これ以上、家康に家康の未来を知られては困ると思い、カフェに誘って、伝記コーナー
から出た。
カフェについてからも家康は興奮していた。
「いやあ、私は戦の天才だ」
とか、
「信長も大したことないんだな」
といった具合だ。
カフェでは飲み物とお菓子をそれぞれ買うことにした。泰示と浩二は二人ともいつものを注文していたが、家康はしばらくカウンター上のメニューとにらめっこしていた。
「早くしてください」
店員の女性に注意されてようやく家康はコーヒーとシュガードーナツを一つ注文した。
「金は私が払うかのう」
家康は賽銭を店員に手渡した。
「優しいんですね」
泰示に家康はニヤリと笑った。
「未来の私の人物像はどうなっておる?」
「気が短くて、いつも爪を噛んでいる感じです」
泰示は淡々と言ってのけた。
「うるさいわ!」
家康は大声を張り上げた。店員含め、そばにいた者が一斉に家康を見る。
「ほら、すぐ怒る」
泰示にそう言われて、家康は顔を赤らめた。
「あの、注文されたお品です」
店員から泰示は飲み物とお菓子を受け取った。
四人席に三人で座って、飲食を始めた。家康は一気にコーヒーを飲み干そうと、コップを傾けた。
「熱いですよ」
浩二が警告したが、家康は既にコーヒーを飲み始めていた。
「熱いだろ、なぜ先に言わぬ」
家康は怒って、顔を真っ赤にしながら、コップを握った。そして、立ち上がると、カウンターへと一直線に歩いて行った。
泰示と浩二は急いで追いかけたが、遅かった。
「よくこんなものをこの私に飲ませたなあ!」
家康は唾を飛ばしながら店員に詰め寄ると、いきなり手にしたコーヒーを店員の顔にぶちまけた。
「キャア!」
店員の女性が甲高い悲鳴を上げた。
「ハハハ、私に逆らって拝観ということがようやくわかったか」
家康は高笑いして、店員を見下した。
家康屋! @Doubutumura
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