第5話 元オタサーの姫、取り巻き1号の相談を思い出す

「ラストオーダーのお時間です。ご注文ありましたら今お伺いします」

 若い女の子の店員さんがラストオーダーの注文を取りに来る。私と土田はビール、広野はハイボールを注文して、広野だけデザートにアイスクリームも頼んだ。広野はそういうところだけ子供っぽいけれど、それも女性を惹きつける理由の一つのかもしれない。

「そういや広野、ストーカー女子はどうすんの。土田が連絡してきたから忘れてた」

「ストーカー女子!?」

 土田がびっくりしたように言う。

「いや今日私と広野が会うことになった理由がさ、広野が女にストーカーされてるって言ってきたからなんだよね」

「そうなんだよ〜、困った困った」

 広野はハイボールを飲みながら、困っているんだか困っていないんだかわからない口調で言った。

「相席居酒屋で会った女の子とちょっとデートして一回寝たら粘着されるようになったんだって」

 土田は「はぁ……」とため息を付いた。

「そういう話だったのか。しかし相席居酒屋に行くような子でも広野に粘着するような子いるんだな」

「そうなんだよ、後腐れのない子だと思ってた」

「気に入られちゃったんなら仕方ないよね。ここ最近の広野は女たらしのくせになんだかんだ優しいから」

「ヤマダ〜」

 私に抱きついて来ようとする広野を避けたら、広野は「ゴン」と個室の壁に頭をぶつけた。

「痛え」

「悪いけど私はそういう手には乗らないから」

「今の広野見たらよくわかったわ……。世話焼くの好きな女の子って広野のこと気に入りそう」

 呆れたように土田は言った。広野と土田は久々に会ったらしいから、土田はこういう酔っ払いの広野を見ることはなかったのかもしれない。

「広野、酔っ払うと私に対してもこんな感じだからね」

「諦めの悪い男だ。お前が三好先輩にかなうわけがない」

「うるせえ。俺だってそんなのわかってるわい」

 広野はアイスクリームを食べながらむくれている。

 広野からは度々連絡が来る。どうでもいいことだったり、しょうもない相談だったり。ここ最近の広野には特定の彼女はいないせいもあると思う。いや、こいつは彼女がいようがいまいが連絡してくる。どうしようもない。

 なんといえばいいのか、腐れ縁の男友達という感じかもしれない。同期の中で一番、一緒に飲みに行くことが多いのは広野だし、三好先輩……つまり透に懐いているのも広野だと思う。広野は三好家うちに飲みに来たことも何度かある。

「ところでストーカー女子はどういう事してくるわけ」

 土田が聞くと、

「まず連絡が多い。それに俺のSNSを見て『今日は新宿で映画観たんですね、私も行きたかった』とか言ってくる。俺は詳しく書いてないのに映画館と上映時間を特定してる」

 などと、無限に広野をストーカーする女の子の素行が出てくる。

「怖。それでどうしてんの? その子と付き合う気は無いのか」

 続けて土田が尋ねると、広野は

「ないな。最近はめんどくさくて無視してる」

 なんて言う。本当にこいつは女を簡単に引っ掛けて遊んでいる悪い男だ。

「よっぽどこじらせてる子じゃなければブロックしちゃえばいいと思うけどね、逆上するような子じゃなければ諦めると思うけど」

 私が言うと「そうだな」と土田が同意した。

「お前もアラサーなんだから遊んでないでさっさと身を固めろ」

「新卒ガールに懐かれて困ってる土田に言われたくねー」

「あーもう、そろそろお会計するよ! 付き合ってらんない」

 私が割り勘した金額を言うと、広野も土田もその金額より多めに出してくれた。私が申し訳なく思うと、

「ヤマダちゃんカウンセリングの料金だからいいんだよ」

「そうそう。でも広野お前は先に飲んでたから多く出せ」

「へいへい」

 なんて言ってくれる。

 ありがたく二人の好意を受け取るけれど、こんなところはまだ私も「姫」なんだなと思ってしまう。


「ありがとう。また飲もう。そうね……土田から良い報告があることを期待しています」

「そうだな……。話、進めるかぁ……」

 土田がうなずくと広野が言う。

「俺は?」

「あんたはどうせまたしょうもない連絡してくるでしょ!」

 そんな事を言いながら私達は解散する。アラサーになっても、大学生の頃と変わらなかった。


 二人と別れて、私は夫の透に連絡する。

『広野と土田との飲み会終わりました。これから帰るね』

 透からはすぐに返信が来た。

『はいはい。おつかれ〜。気をつけて』

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元オタサーの姫、取り巻きのカウンセラーになる 三瀬弥子 @sanzeyako

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