第4話(完)
ここから先は、風の噂で聞いた話である。
幼馴染みの3人はあの食堂で言っていた通りに、冒険者を引退したらしい。
アルスは領主になって町を治めるようになった。
冒険者あがりだけあって不慣れなことも多いようだが、勇者として活動してきたことで広い人脈を築いており、有能な人材を幅広く集めることで町を発展に導いているそうだ。
イリーナはアルスと結婚して3人の子供を授かったらしい。
気の強い彼女は夫の尻を叩きながら、厳しくも優しい母として子供を育てているとのこと。
魔法使いとしても卓越しているイリーナは領内に魔法学校を作り、魔法の発展にも大きく寄与をしているそうだ。
エリッサは他の2人と別の道を歩むことになった。
王都にある教会に聖職者として勤めるようになり、生涯を神のシモベとして尽くしているとのことだ。
司祭として人々のケガや病気を治しながら、下層階級の人々を救済するべく孤児院や職業訓練所を設立したらしい。
3人は英雄として歴史に名を残し、その名声は長く語り継がれることになった。
そして……残る俺はというと、せっかく『賢者』に成れたにもかかわらず冒険者を引退して故郷の村に帰ってきていた。
「ふう……終わった」
耕したばかりの畑を見下ろし、満足げに息をついた。
周囲には見渡すばかりの畑が広がっている。かつては森の一部だったそこを開拓したのは自分。かつての『遊び人』であり、現・『賢者』の僕である。
3人の幼馴染みと再会を果たしてから、僕はすぐに冒険者を辞めることになった。
元々、冒険者を続けてきたのは幼馴染みを見返して「頼むから戻ってきてくれ」と言われたかったからである。
3人が勇者パーティーとして成功しており、完全に自分が必要ない人間だったことを知り、もはや冒険者を続けていくモチベーションが保てなくなってしまったのだ。
やる気の炎が完全に燃え尽きた僕は故郷に帰ってきて、親の農家を継ぐことになった。
村の住人からは「冒険者として失敗して逃げ帰ってきたのだ」と後ろ指を指されることになったが、ちょうど父が腰を悪くしていたこともあり、家族は大喜びで歓迎してくれた。
『賢者』に転職したことで筋力も上昇しているため、クワを振って畑を耕すのは容易いことである。
魔法を使うことができるのも大きい。日照りの時には水魔法で雨を降らし、開拓の邪魔になる固い地盤は土魔法で打ち砕き、害獣が畑を荒らしたら結界を張って追い払った。
困っている他の村人に出来るだけ手を差し伸べるようにしたら、それまで「都落ち」だと僕のことを嘲笑っていた連中も大人しくなった。
帰ってきてから3年で村の畑は倍以上の広さになり、手の平を返したように村人は僕をもてはやすようになった。
「あなた。晩ご飯ができましたよ。そろそろ帰ってきてくださいな」
開拓したばかりの畑を満足げに見下ろしていた僕は、後ろからかけられた声に振り返る。
そこには赤ん坊を抱いている女性が立っていて、優しげな笑みをこちらに向けてきていた。
彼女はオルフェ。この村の村長の娘であり、僕の妻になった女性だ。
「ああ。そうだね。今日の仕事はこれくらいにして帰ろうかな。今日のおかずはなんだい?」
「猪鍋ですよ。この間、あなたが狩ってきてくれたものです」
僕は満たされた幸福に胸の奥が温かくなるのを感じながら、土に汚れた服を魔法で清めてオルフェと並んで家路につく。
5歳年下のお嫁さんを、村長さんに請われて
彼女はすでに僕の子供を出産しており、お腹にいる2人目もすくすくと成長している。
冒険者になる前、かつて村で暮らしていた頃には子供だったオルフェも再会した時にはすっかり大人の女性に成長していた。
実は昔から僕のことが好きだったと告白されて、年甲斐もなくドキマギとさせられたのも良い思い出である。
僕はオルフェと並んで、夕日の中を歩いていく。
冒険者として、望んだ場所に立つことはできなかった。
『賢者』に転職はできたけれど、幼馴染みに「戻ってこい」と言わせることはできず、あれ以来彼らとは会っていない。
それでも……僕は幸せになった。
『賢者』としての力も、農家として暮らす上で助けになっている。
あの辛かった日々が無駄ではなかったと、今ではハッキリと確信することができていた。
自分の帰りを待ってくれている女性がここにいる。
僕の帰る場所はちゃんとここにあるのだから。
おわり
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追放された『遊び人』は『賢者』に転職する。戻ってこいなんて言ってももう遅い……え、言わないの? レオナールD @dontokoifuta0605
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