第10話 真実

「オオタカぁっ!?」


 トビは咄嗟に右腕を伸ばし、ビーム砲から光弾を乱射させた。たいしたダメージはないが何発かがオジロワシの背中に当たり、オジロワシはトビに向かって首を曲げる。それでも、オオタカに突き刺した手を抜かない。


「オオタカから離れてっ!」


 トビは飛んできた勢いのまま、オジロワシの背中に向かって体当たりを仕掛けた。オジロワシはそれをサッとかわす。突き刺さっていた手が抜け、トビはすぐさまオオタカのもとへ駆け寄った。

 その直後、体に衝撃が走る。


「きゃぁっ!?」


 トビはオオタカとともに宙に浮き、後方に飛ばされて地面に倒れ込む。顔を上げると、オジロワシが足を振り上げていた。トビをオオタカともども、蹴り飛ばしたのだ。


「てめぇは……あの時の鳥機人の小娘かぁ」


 オジロワシがそう言って卑しい笑みを浮かべる。トビたちのもとへ歩きだそうとするが、なにかに気づいて立ち止まり、視線をそらした。


「オオタカ? オオタカっ!」


 トビは顔をしかめながら立ち上がり、そばで倒れるオオタカのもとへ駆け寄った。体を仰向けにさせてその姿を見た時、息を呑んで一瞬声が出なくなる。


「……ひどい」


 ボロボロに破れた服。鎌で切り裂かれた跡がいくつも残る体。鉤爪の折られた手。表層が剥がれ、フレームが剥き出しになった腕や足。そして、首もとにある透明な物質の周りには、さきほど突き刺された五本の指の跡が痛々しく残っている。コアはかろうじて光っているが、その灯火は弱く、いつ消えてもおかしくない状態だった。


「むら……び……」


 オオタカがトビへ視線を向けて、口を開いた。その瞳は今にも閉じてしまいそうなほど虚ろで、声を出すのもやっとだった。

 消え入りそうな言葉の意味を理解して、トビは大きく頷いてみせる。


「村のみんななら、あなたの言うとおり全員避難させたわ」


 言いながら、トビはオオタカを抱きかかえるように肩と足の下へ手をやった。推進器スラスターにエネルギーを込め、この場から逃げようとオジロワシの様子をうかがう。


「また逃げるつもりかぁ?」


 先ほどまであらぬほうを向いてブツブツと話していたオジロワシが、向き直って言った。作物を踏みながら近づいてくるオジロワシを、トビは睨みつけながら押し黙る。


「さっき連絡が入った。カラスたちが今この村に向かっているそうだ。てめぇらがどこへ逃げ隠れたとしても、すべて破壊してあぶり出してやる」

「なんですって……」


 トビの頭に、遺跡で身を潜めている村人たちの姿がよぎった。エネルギーを込めていた推進器スラスターを止める。


「どうして……」


 オジロワシがトビたちの手前で立ち止まった。大鎌を振り下ろせば、届く距離。

 トビはオジロワシを睨みながら、震える声を絞り出す。


「どうして、こんなひどいことするのよ! オオタカがあなたたちになにをしたっていうの!」


 その言葉に、オジロワシはニィッと口角を吊り上げた。トビの腕の中で力なく横たわっているオオタカを見下し、口を開く。


「その鉄クズには、オーパーツが組み込まれている」


 破れた服の間から見えるオオタカの首もとへ、トビは視線を落とした。コアの周りを取り囲むようにして、U字の形をした透明な物質が埋め込まれている。


「これが、オーパーツ?」

「そうだ。かつて空に住み、鳥機人を造ったといわれている古代人が造った物だ。それを装着した鳥機人は、他の鳥機人の力を奪い、能力を強化できるといわれている」

「鳥機人の力を奪って、能力を強化できる……?」


 トビには聞いたことがない話だった。

 オジロワシが笑みを浮かべたまま、話を続ける。


「俺様はオーパーツの研究をずっとしてきた。発掘されたオーパーツを実験材料に組み込み、別の実験材料を近づけてオーパーツの反応を調べた。けどなぁ、近づけた別の実験材料はオーパーツの反応に耐えきれず、能力を付与する前にすべて壊れ、実験は今のところ失敗に終わっている」

「ちょっと待って……。その実験材料って、まさか鳥機人を言ってるの?」


 トビの問いに、オジロワシはなんの躊躇もなく頷いた。


「そうだ。オーパーツを組み込んだ実験材料が、そこの鉄クズだ。そして、アビス帝国にはむかう使えない鳥機人を実験材料として使い、能力強化の実験をしていた」


 信じられない話に、トビは体を震わせた。

 つまり、アビス帝国では何体もの鳥機人が、実験の犠牲になっていた。そして、オーパーツを埋め込まれたオオタカは、壊れていく鳥機人たちをずっと目の前で見ていたことになる。


「そこの鉄クズは良い実験材料だった。発掘された時から片翼がなくて、飛んで逃げる心配がなかった。けどある日、実験場で爆発事故が起き、鉄クズはオーパーツごと姿を消した」


 オジロワシが不快そうに眉をひそめ、話を継ぐ。


「俺様たちはオーパーツを探した。そして一年後、ようやく見つけることができたんだ。ドロップ王国でかくまわれている鉄クズの姿をなぁ」

「まさか、アビス帝国がドロップ王国を襲ったのって……」


 トビは風の噂で聞いたドロップ王国での出来事を思い出した。

 オジロワシが再び口角を上げて、あざ笑うかのように言葉を続ける。


「ドロップ王国は鉄クズの引き渡しを拒否した。だから滅ぼしたんだ。アビス帝国に逆らうヤツがどんな目に遭うのかを見せつけるためになぁ」


 オジロワシが愉快そうに嗤う。

 信じられない話に、トビは身を強張らせながらうつむいた。視線の先には、痛々しい姿のオオタカがいる。


「たった一体の鳥機人のために国が滅ぼされるなんて……」


 その言葉を、オジロワシは鼻で一笑する。


「これがアビス帝国のやり方だ。鉄クズをかくまったこの村もあの国と同罪。カラスたちが来たら、すべて破壊してやる」


 トビは歯を噛み締めてオジロワシを睨んだ。

 オジロワシはそんな視線に動じず、おもむろにトビに向かって指をさした。


「もしもアビス帝国に忠誠を誓うなら、てめぇだけは助けてやる。今すぐその鉄クズに組み込まれているオーパーツをもぎ取って俺様に渡せ」


 そう言って、手のひらを上へ向ける。

 トビは視線を下へ向け、オオタカの首もとを見つめる。右手がゆっくりと動き、オーパーツに触れる。

 オオタカがなにか言おうと口を開くが、苦痛に顔をしかめ、言葉は出てこない。


「わかったわ……」


 トビの口が、かすかに動いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る