第03話 会話

 切れ長の目が、岩陰に隠れている鳥機人を睨むように見ている。その鋭い視線に耐えかねて、鳥機人は肩を震わせながらサッと顔をそらした。岩陰に首を引っ込めてしゃがみ込み、あごに人差し指を添える。


「びっくりした~。……って、なんでビビってんのよ、アタシ。そもそもアタシはさっきあの鳥機人を助けたのよ。お礼を言われるかも? もしかしたら、お願いを聞いてくれるかも!? これは行くっきゃないでしょ!」


 ブツブツと呟いて考えをまとめ、すっくと立ち上がる。顔に満面の笑みを貼り付けて片手をヒラヒラと振りながら、岩陰から出ていく。


「ど、どーもー。さっきはすごかったわね。あなた、すっごく強いじゃない」


 しかし、言葉を聞く者はだれもいない。さきほどまで片翼の鳥機人が立っていた場所にはもうなにもおらず、倒れたカラスしか残っていなかった。


「って、どこ行ったの!? ……あっ」


 鳥機人が辺りを見回すと、すぐにその姿が見つかった。カラスの残がいが横たわる端。片翼の鳥機人は腰を曲げ、小ぶりな岩に引っかかっている薄汚れた布を拾い上げて羽織る。フード付きマントが体を隠し、そのまま背を向けて歩き出した。


「ちょっ、ちょっと!? 待ちなさいよ!」


 鳥機人は慌てて駆けだした。片翼の鳥機人のそばへ行き、横からその腕をつかんだ。

 片翼の鳥機人は足を止め、目をすがめて鳥機人を見た。


「『だれだお前?』って顔してるわね? いいわよ、教えてあげる。アタシの名前はトビ。トレジャーハンターをしているの。さっき、あなたの危ないところを助けたのもアタシよ。それで、お礼なんて別にいらないんだけどどうしてもしたいって言うならお願いを聞いてほしいんだけど」

「断る」


 片翼の鳥機人が、トビと名乗った鳥機人の手を振りほどいて歩き出した。


「思ったより低い声ね。……って、そうじゃなくて、待ちなさーい!」


 片翼の鳥機人の口から出てきた青年のような声に面食らい、我に返って首を振って、走り出す。すぐに片翼の鳥機人に追いつき、まとわりつきながら口を尖らせた。


「ちょっとくらい話を聞いてくれたっていいじゃないの! 助けたのはアタシよ!」

「コソ泥の言うことを聞く気はない」

「なっ!? トレジャーハンターはコソ泥じゃありませんー! お宝を求めて世界中を飛び回る、ロマン溢れる職業なんだからー!」


 トビは片翼の鳥機人の前に立ちふさがり、腕を振り回しながら力説する。行く手をふさがれて、片翼の鳥機人はまた足を止める。フードから覗く目は呆れたように半分閉じていて、トビに冷ややかな視線を送っていた。


「てか、アタシが言うのもなんだけど、そもそもなんでこんなところに鳥機人がいるのよ? あなた、トルキア共和国の住民……ではなさそうね。だったらナージュナ連邦の兵器……でもなさそうね。まさかアビス帝国の兵士……でもなさそう。さっきカラスに襲われてたから。ってことはアタシと同じフリーなの? もしかして、目覚めたばかり? ていうか、あなたの名前は」

「オオタカ」


 トビが矢継ぎ早に質問をしているところを、片翼の鳥機人は興味なさげに一言で片付ける。


「オオタカ? それがあなたの名前? どこかで聞いたことあるような……」


 トビがあごに指を添えて、考える素振りを見せる。

 オオタカと名乗った片翼の鳥機人は、フードを深くかぶり直す。足を前に出して、トビの横を通り過ぎた。


「これ以上、おれに関わるな」


 すれ違いざま、トビの耳に、オオタカの声が届いた。


「って、ちょっと! 待ちなさいって言ってるでしょっ!」


 トビは後ろに振り返り、歩いていくオオタカに向かって駆けていった。もう一度腕をつかもうと手を伸ばす。その瞬間、オオタカの足がはたと止まり、首を上に曲げたと思えば、勢いよくトビのほうへと振り返った。


「どけ!」


 怒鳴るような声が響いた途端、トビは胸を押されて後方へ押し倒される。


「きゃっ!?」


 お尻と背中を地面に打ち付けて、トビは顔をしかめた。目を開けると、目と鼻の先にオオタカの顔があった。トビの顔の横に両手をつき、体に覆いかぶさるような体勢になっている。トビは顔に熱が帯びるような感覚がした。


「い、いきなりなにするのよーっ!?」


 変にうわずった声があがる。

 一方のオオタカは、もうトビを見てはおらず、立ち上がって後ろへと振り返った。

 トビも顔を起こして、そちらを見る。さっきまで自分たちがいた場所に、両手を広げたほどある刃の大鎌が突き刺さっていた。


「えっ?」


 トビは身を震わせた。

 地面に刺さっていた大鎌が抜かれる。柄を握っているのは、翼の推進器スラスターを吹かしながら空中に止まっている一体の鳥機人だった。短髪で、前髪は茶色、後ろ髪は白く染まっている。その鳥機人は軽々と大鎌を肩に担いで、口角を上げた。


「久し振りだなぁ、実験材料?」


 トビの前に立つオオタカが両手を握りしめ、薄ら笑う鳥機人を睨みつける。


「オジロワシ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る