第15話 Side/自宅の玲奈

『ボフン』との音から「ふふっ」なんて笑い声が一室に響く。

 自宅に着いた玲奈は自室に荷物を置いた後、すぐにベッドにダイブしていた。


「……」

 枕を抱き抱えてしばしの間、固まる。そして足をバタバタ動かし始める。


「はあ、楽しかったわ。本当……」

 合コンを抜けた後、蓮也と二人で過ごした時間は1時間と30分ほど。

 それでも、体感時間は1時間もなかった。

 こんな感覚を味わったのは久しぶりだった。それこそ、付き合っていた頃ぶりくらいに。


「わたしが意地なんか張らなければ、もっと楽しく過ごせたわよね……。もちろんレンもレンで悪いけど」

 今まで蓮也が連絡を無視してきたのは、大学の方が楽しくなった。好きな人ができた。恋愛に飽きたなど、自分勝手で不誠実な理由だと思っていた玲奈だったのだ。

 だが、蓋を開けてみればタイミングの都合。

 こんな理由なら、いがみ合う時間は間違いなく無駄だっただろう。

 どちらかが素直になっていれば、すぐに打ち解けられただろう。

 お互い、やましいことはなにもしていなかったのだから。


「ふふ、まあこれがあるから別にいいけどね」

 玲奈はスマホを開き、手慣れた動作でアルバムを開く。

 そこには、今日撮った11枚の写真。

 9枚はツーショット。残りの2枚は……空中経路を歩く蓮也の後ろ姿と、夜景を見ている横顔の隠し撮り。


 玲奈はこの全ての写真をお気に入りに入れていく。

 大事な写真は大切に保管しておきたいもの。この気持ちは誰だって同じだろう。


「大人っぽくなっていても、こんなところは全然変わってないんだから……」

 玲奈が手を止めたのは、今日、一番最初に撮ったツーショットの写真。

『はいチーズ』と合図をしてシャッターを押したのにも拘らず、蓮也がまばたきしているもの。

 そして、次に見るのは長くスクロールさせて約2年前に撮った高校の体育祭の写真。一番最初にお気に入りに入れた写真で、付き合って初めて撮ったツーショットの写真。

 ここでも、蓮也だけまばたきをした写真が収められている。


「ふふっ、まあ勉強とかできるのに、こんな抜けたところがレンのいいところよね。面白いって言うか、逆にこっちの緊張はなくなるものね」

 今日のことを思い出しながらご機嫌に寝転がり、そして……突と真顔になる。


「……って、なにを言ってるのかしらわたしは。自然消滅してるのにバカみたい」

 赤くなりそうな顔をブンブンと振り、ふんっと鼻を鳴らす。……一人の空間で。

「さ、さて、もうあんなヤツは放っておきましょ。早く寝る準備をしなきゃだし」

 もう日を跨ぎそうな時間。早く寝なければ体調にも響く。

 ポイっとスマホをベッドに投げて立ち上がった矢先、『ピロン』とLAINの通知オンが鳴る。


「ぅ……」

 この時間の連絡に、このタイミング。

 誰からのメールなのかは簡単に想像ができた。


 気持ちはお風呂に向いている。早くお風呂を済ませて寝る準備をするべきだということもわかっている。

 それでも、『気になる』気持ちには勝てなかった。

 手を伸ばし、引っ込め、また伸ばし……スマホを手に取った玲奈は、すぐに内容を確認。

 やはり、連絡してきた人物は彼だった。


「し、しょうがないから相手してあげる……」

 そんな一人前置きをして、玲奈は緩んだ口になったまま返信を打つのだ。


『今日はありがとね、玲奈。凄く楽しかったよ。外寒かったからすぐ体温めてね』

『わたしも楽しかったわ。って、どれだけ過保護なのよ。成人した人にかける言葉じゃないでしょ』

『あはは、それは確かに。でも心配で』

『まったく……』

 2年ぶりのメール。

 呆れた文字を送りつつも、その表情はニヤニヤとした玲奈である。


『レンはもう帰れたの?』

『いや、まだ帰ってるところ』

『それ大丈夫?』

『大丈夫ってなにが?』

『歩きスマホしていない? ってこと。夜は特に危ないんだから、もししてるならやめなさいよ』

『それこそ成人した人にかける言葉じゃないでしょ』

『茶化す前に答えなさいよ。そんなに心配させたいの?』

「……クリスマスイブは遊ぶ約束もしているんだから」

 それだけではない。ここまで送り届けてくれてもいる。

 メールを続けたいのは山々だが、事故に遭わせるわけにはいかないのだ。


『ごめんごめん。今電車の中だから大丈夫だよ』

『ならよかったわ。レンも早く帰って早く休むのよ』

『ありがとう。お酒も入ってるしそうするよ』

『うん』

『それじゃ、クリスマスイブよろしくね、玲奈。約束忘れないでよ?』

『それはわたしのセリフ』

「本当に」

 ボソリと言葉で補足する。それだけ今から楽しみにしていること。


『次はもう大丈夫。それじゃ、電車乗り換えなきゃだから。一応、帰ったら連絡入れていい?』

『もちろん。わたしは今からお風呂だから返信は遅くなるかも』

『了解』

 OKのスタンプが押され、玲奈は動くスタンプを返す。

 これで一旦のやり取りは終了。


「レンからまた連絡してくれるってことは……早くお風呂に入らなきゃ」

 もうちょっとやり取りしたいというのが玲奈の本音。貴重な時間を減らさないためにも、パタパタと足音を鳴らしてお風呂場に向かっていく。


「……で、でも、次はメールじゃなくて通話にしてもらおうかしら。な、なんかアイツの声聞きたくなったし……。それに黒髪ボブの女の子のこともまだ聞いてないもの……。あ、悠樹さんに聞いてみようかしら。でも、連絡先持っていないし……。うーん、あの子、絶対にレンのこと好きよね……。わ、わたしのレンなのに」

 長い長い独り言を漏らしながら、衣服を脱ぐ玲奈だった。

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友人の頼みにより強引に合コンに参加させられた結果、自然消滅した元カノと再会することになった 夏乃実(旧)濃縮還元ぶどうちゃん @Budoutyann

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