エピローグ

「なぁ純多じゅんた

「ん?」

「もし何でも願いが叶うアイテムがあるとしたら、お前は何を願いたい?」

「この前と同じ話題だな?ついに7個集めると願いが叶う珠を発見したのか?!」


 さすがは夏になると最高気温がO縄県を越えるA知県だ。

 まだ5月であるにもかかわらず、じりじりと肌を焼くような日差しが容赦なく空から降り注ぐ。


「そういうわけじゃないけどさ、ほら見てみろよ」


 籾時板もみしだいたに言われて屋上に備え付けられたフェンスに身体を預けながら遠景を眺める。


 30mくらいの背丈はありそうな巨人の女性と、女声の機械音声を放ちながら飛び回るロボットのような見た目をした少女が戦っていた。

 巨人の女性の方は握り潰そうと手を振り回しているが、その攻撃を空を自由に飛び回りながら回避し、指から発射されるマシンガンで確実にダメージを蓄積している。


「この前は巨大娘とロボ娘の戦いを止めたいって純多は言っていたけどさ、この短い間でいろいろな変化があっただろ?そんな状態でこの光景を見て、純多はどう思うのかなって」

「ふっ、愚問だな。俺の考えは変わんねぇよ」


 巨人が踏み鳴らす地響きに身体を揺らしながら結論を出す。


「『『貧乳派』の救世主』としての力を授かった以上、全ての女性の胸を小さくしてみせる!この手でな!!」

「そっちかよ……」


 焼きそばのソースの香りが混じった溜息を吐く。


「もっとこうあるだろ?「何っ!巨大娘とロボ娘だと?!小さい胸の素晴らしさを説くために、今すぐ駆逐してやるっ!!」みたいなやつ。そういうのはないのかい?」

「じゃあ勇気ゆうきは同じような力を持っていたら止めに行くのかよ?」

「絶対に行かねぇな。それどころか戦いが終わるのを待って、疲弊したところで背中をぶち抜いてやるぜい!」

「正義の味方だったら絶対にやらないな」

「正義の味方じゃないからな」


 二人の間に乾いた笑いが起こる。


「こりゃあこの前みたいに避難勧告が出て、しばらく休校になりそうだな」

「これで撮り溜めたアニメがたくさん観られまース」


 ぎしり、とフェンスが軋む音が聞こえたかと思うと、純多の隣には金髪ツインテールの少女が出現した。


「今日は何観ようかナ?今から楽しみだネ」

「そうだな。折角の機会だし、俺も休校期間中に何かできる趣味を探そうかな?」

「その必要なないぞ?棟倉むねくら


 がしゃん、とフェンスが揺れる音がしたかと思うと、籾時板の隣には気の強そうなポニーテールの少女が並ぶ。


「あの二人の戦闘区画に我々の支部が含まれることが触爪ふそうからの連絡で分かった。もうすぐ休校の緊急連絡が入るだろうから、連絡が入った直後にすぐに防衛に向かうぞ」

「はわわっ!まるで映画のワンシーンを見ているみたいですうっ!」


 鬼頭の後ろには後ろ髪をお団子頭ポンパドールに纏めたぶかぶか制服の少女も付随している。


「えっ?!休校になるんですよ?!休みとかないの?!」

「長期の休校中は活動を活発化させるチャンスだからな。我々の戦いに休息などないのだ。……ところで棟倉むねくら。おっぱい饅頭は食べたか?」

「??食べてませんけど?」

「なら都合がいい」


 すたすたと歩いたかと思うと、背後から右腕をがっしりと掴まれる。


「私は既におっぱい饅頭を食べ終わっているからな!力づくでも来てもらおう!」

「ちょっ!分かりましたって!!自分で歩くから引っ張らないでえ!!」


 スコップを担いでいることを除けばごく普通の見た目をした女の子からこれほどの力が出るのだから、やはりおっぱい饅頭は不思議だ。田打が静かに頭を下げてから丁寧な所作で屋上扉を閉める。


「……組織の問題事に毎回駆り出されるっていうのも大変だぜい。オレは書店巡りでもしてグラビア雑誌を買い漁ろうかな?」

「だったら、アニメキャラクターのグラビア雑誌なんてどウ?ワタシが持っているのを何冊か貸してあげるけド?」

「そういえば、SDUの能力を持ってた時って、アニメを観ても大丈夫だったのかい?魔法少女とかミイラ縛りマミフィケーションとかケモ耳の女の子とかでダメージを受けながら観てたりしたとか?」

「あんまり露骨なものだとダメだけど、女児向けアニメは大丈夫だヨ」


『貧乳派』=胸が小さくない女の子を見たら死ぬ、のではなく、グラビア雑誌などの露骨な性表現を見たらダメージを受ける。


 性表現を売りにしているアニメや作品を観ると身体じゅうから血を噴き出して死ぬのだが、性的な意図が介在しない作品――特にそのような部分に細心の注意を払っている女児向けアニメ――ではダメージを受けることはあまりない。

 そのため、明らかに性的表現が行われない作品ならば問題なく視聴できるし、突然のラッキースケベで死んでしまうようなことはないのだ。


「なるほどなあ。オレもアニメ作品とかに少しは詳しくなっとかないと、そろそろ『8月の大激戦夏コミット』で死んじまうかもしれないな」

「アニメや漫画に疎くて、よく生き延びられたネ?『12月の死闘冬コミット』は大丈夫だったノ?」

「オレは諜報員だからな。あくまで裏方担当なのさ」


 その言葉の直後、避難勧告を報せる教員の焦りの混じった声が、屋上に備え付けられたスピーカーから響動どよめいた。



【完】

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ひんにゅーほうにゅー~~性癖が異能力になる世界~~ 藤井清流 @fujiseiryu

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