第46話:忘れられた幼馴染み
「で、どうだったんだ?ポリンのおっぱい?」
休み明けの月曜日。
これは、荷自宅をして学校に行こうと家の廊下を歩いていた時にインターホンが鳴り、玄関に立った幼馴染みが放った、今週最初の一言である。
「……妹に聞かれたらぶっ殺されそうだから、頼むから家の中でそのワードを口にしないでくれ」
幸い、父は既に出勤し、母は食器洗い・妹は部屋で着替えているようで、誰にも聞かれることはなかったようだが、とにかく、誰かに聞かれてもいいような言葉の羅列ではない。強引に家の外に押し出すと、並んで道を歩く。
『貧乳派』の
「どうだったも何も
「あん?既に能力を消した後に
「そうだったらどれだけ幸せなことか……」
がっくり肩を落とす。
「あーっ!折角おっぱいを触れるいい機会だと思ったのに、あまりにも残念過ぎるだろうがっ!!」
「何を触る機会ですって?」
「うん?文脈から分かるだろ?おっぱいだよおっぱい」
「ふーん。女の子の胸を触るようなことが純多にあったってことかー?」
遅蒔きながら気づく。
先刻から問答している声が、左側からではなく、右側から聴こえてくることに。
男の声ではなく、気の強そうな女の声であることに!
「詳しく聞かせてもらおうかしらぁ?」
恐る恐る隣を見ると、ばっさりと切った短い髪に気の強そうな目つきをした武闘派少女・
「かかかかかかかかか香?!どうしたんだ急に?!」
「どうしたも何もないでしょ!!あんたら先週の木曜日と金曜日、あたしに何も言わずに先に学校に行ったじゃん!二人でこそこそ何やってるのよ?!」
「え、ええっとだな~。何やってるんだろうな勇気?!」
「え゛っ?オレ?!オレに振るの?!」
急に振られてビビりまくる籾時板。数々の修羅場を潜り抜けてきた『豊乳派』の諜報員にも怖い相手がいるらしい。
「部活とは違うけど、オレたち部活
「あ、あぁあ!あの二日間は偶然朝早い日でな!しかも、上長の命令で急に決まったから、香に報告するのが遅れたんだよ!」
……どうやら上手く話を作ってくれるようだ。幼馴染みの素晴らしい機転に心の中で敬礼しつつ話を合わせる。
「ふぅん。全然興味がなかったあんたたちが部活に入ったっていうのは、何だか珍しいわね。で、その部活紛いの集まりって何?二人で同じ場所に入ってるんでしょ?」
ぎくり、と聞こえてきそうな顔で汗をだらだら流す籾時板を一瞥。窮地に陥った親友を身を挺して助ける思いで接ぎ木する。
「つ、漬物愛好会だ!地元のおじいちゃんおばあちゃんが集まって親交を深め、持ち寄った漬物を食べる集まりだ!」
「朝起きるのが早いおじいちゃんたちの話相手になるのも立派な活動だからな。オレたちには必要なことだったんだぜい!!」
「げ、漬物愛好会……。漬物が苦手なあたしには縁のなさそうな組織ね……」
言葉の響きだけでも嫌なのか苦いものを噛んだような顔をする。
三慶は漬物全般が苦手だ。
あの食べられる料理感のない黄色|(沢庵)や赤色|(紅しぐれ大根)の色合い。
酸味や塩味のある食感と、こりこりとした感覚。
この全てが口に合わないらしく、コンビニ弁当に添えられている漬物などは必ず残す。
仲間外れにされた三慶に「だったらあたしも入る!」と駄々を
「二人して漬物に興味があるなんて知らなかったなぁ。それなら今後弁当に添えられている漬物から刺身に乗っているタンポポまで、全部二人にあげるわね」
「刺身のタンポポって漬物じゃなくね?何にも漬けちゃいねぇだろ?」
漬物とは、辞書的な意味としては野菜などを塩や味噌に漬けたものを指す。
「ん?じゃあ何で刺身の上にタンポポが乗ってんだろうな?何の意味があるんだあれ?」
「タンポポの花言葉と何か関係があるんじゃないかい?」
三慶がクマのキーホルダーを揺らしながらスマートフォンを操作する。
「えーっと、『愛の神託』・『離別』……?花言葉とは関係なさそう?」
「刺身から与えられる無限の愛を神様から告げられても、刺身と別れても困るな……。結局何なんだろうな?」
「最近は減ってきてる気がするぜい?乗せる側が「どうせ廃棄されるものだから乗せるの無駄じゃね?」って気づいたんだったりして」
「今話題のSDGsってやつか?」
「どうなんだろうねー。げっ、SNSのフォロワー減ってる……」
いつの間にか、話題を逸らすスキルだけ上達している気がする。
SNSを見ながら一喜一憂している三慶に気づかれないように二人は安堵の息を漏らした。
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