あとがき・人物紹介・原作の紹介


 本小説,ライオンハート fade to Redemption Earned Dawn(略称 fade to R.E.D)は、長年の友であるingen氏の作品を間借りした小作品であり、シェアードユニバースによって展開されるかつてのOVA風味あふれるサイドストーリーです。

 思えば遡ること十云年前、まだ二次創作作品であった頃のライオンハートを読んで、「おれにもできるかも」と始めたのが小説人生のスタートでした。

 今作は現在、羽田和平と名がついてしまった私が、かつての共作者であり、遊び場に対して最終的な礼を返すために、本篇との整合性をとりつつ現在の自分がもし再びこの世界観で筆を取るならこうしたいと、やりたいことをやった作品であります。

 この場で改めてingen氏に深いお礼を申し上げます。


 ここでは作中で深く説明はできないけれど、各ディティールに実は込めていた意味を解説することで、毎週の記憶あいまいな連載ではフォローアップできない部分を補い、へえ、そんな意味があったんだと思ってもらえるようなことができればと思っています。

 このページには、本編を楽しんでいただけた方のみが絶対に驚く仕掛けがありますので、まだの方は読了後に訪れてみてください。


主人公

サブキャラクター

カメオキャラクター

INGEN作 LION HEART ソラノシシについての短評と分析と本作のねらい

という構成です


ではどうぞ。



<主人公>

クー・アルセルド(別称:クー、アルド、アルドセルド)

・モチーフ:ダイ・ハードのジョン・マクレーン、ランボーのジョン・ランボー

      機動戦士ガンダムポケットの中の戦争におけるサイクロプス隊全員


・傷つき武器がなくなり不利に立たされることで本当の自分があらわにされる

・自由民主主義と表裏である資本主義の罪を背負うキャラクター

・2022年の世界で最も良心的な兵士がいるとしたら、こういう心を持っているで 

 あろうことを期待した

・サミーを肩車する理由:俺(大人)の屍を越えて新しい世界へ行け

・実は現在のウィレ編キャラ(カザト達)の前身となる複数人の文字を分解結合した名

・ライオンハートが戦争の赤を通し、夜明けをもたらす贖罪へと徐々に変わる

  ←いろんな意味のあるタイトル

・困っている人がいたら、手をつないでそこから連れ出してあげる

  ←最終戦の伏線であり、サミーへの最後の言葉

・エピローグでサミーが食べるパン:クーの常食にしていたピザパンと同じ

・彼が去る理由は、獲って獲られる世界に疲れうんざりしたからであるが、彼が行った自由から生じる責任も確かに存在することが示される(それは政治的なものでなく、もっぱら愛に関する責任である。よかったね、クー)


サミー・マーフィン

・モチーフなし:久しぶりに再会した私の元友達(原案は私)

・新しい夜明けをもたらす少年であり、直観にてことの本質を分かる力を持っている

 →朽ち果てた大人の思考を超えるだけでなく母とのいさかいやクーとの出会い、もちろんキルギバートとの邂逅を通して、彼ら変われない大人の事情をも受け止めて、革命志向ではない優しさと複雑さを解決するひらめきを芽生えさせることで大人になっていく。

 →ガンダムのニュータイプ論が目指すべき場所のその先を目指す少年

・サミーは戦禍を通し、大人に肩車されるだけの甘えん坊から、状況や事象を受け止められる透明な瞳を持った男の子へと成長していく。

・現実に埋もれがちなクーに、実は悲願と彼岸を提示する守護者なキャラクターであり、終盤の電話はクモの意図である。クーはサミーとの出会いがなければ生き残ることはできなかったであろう

・この戦争を生き抜いた後、クーが自分が生きている意味を探し求めるのは当然である。クーはサミーに再会しないと意味のピースが埋まらないからである。彼らがどのように再会し、どんな会話をしたかは、皆さんの想像に委ねます。


チャムレヴ・パカド

・モチーフ:今までのあらゆる映画小説において「真実を追い求める」という意味で登場した記者キャラの典型をなぞっている。良いところも悪いところも。この複雑怪奇な戦争において、その信念の一辺倒がどのような結末を辿るのか試される。この手のキャラでありがちな、こだわりの強いウザい感じはそのままに、圧倒的被害者から始まった正義の行く末を握ってもらいたい

→その意味において、彼女の正義と信念は、今作で最も大きな転回を見せることになる。自らが被害者となった事件で失った恋人の命を、永遠にあり続けると思い続けたからこそ、クーのかつての物語に答えを与え、その道の上にたどり着いた「今生きている」隣人に対する愛であった。

→その彼女こそが、自由である代わりに心もとない存在意義を抱えるクーを迎え入れるにふさわしい存在である

→ただ、決め台詞のように迎えに来たと言わせたくない。クーは戦争被害者であり、重い経緯を背負ってモルトランツから姿を消した。チャムレヴはクーの今ある自由を大事にしたいと同時に、待ちわびているサミーにおっちゃんを会わせてあげたいと感じている

・すべてを見届けた彼女の頭髪は、戦禍の赤を抜け、空色とも海色とも言えない透明なブルーとなった


<サブキャラクター>

リズ・マーフィン

・サミーという一男子に降りかかる矛盾にして、すでに終わった青春の象徴

・実はクーにも周りにも甘えていた自分を理解し、友と息子の成長を見守り抱擁する母になれることを願った


輸送長

・決定的瞬間まで名前がない理由は、彼が市井で働く名もなき人々の一人だから。

・アラン・スミシーは映画制作中に映画監督が何らかの理由で降板してポストが空席になったり、何らかの問題で自らの監督作品として責任を負いたくない場合にクレジットされる偽名である。……エンタメニュースから引用


工作員仲間

・ビッグママ 古く去り行く良識ある人

・レン    戦争の凄惨なる犠牲者であり、志をバトンする強い女性

・パルマ   未来を担う若者は逃げろ


親衛隊

・輸送長と同じ理由で誰にも名前がない。

・かつ分かりやすいキャラクタライズを避けるため強者もおかない

・彼らの振るう刀が冴えずにクーに連敗するのは剣術というより魂を理解していないからであり、所作を理解しない武道ほど弱いものはなく、クーの合理的な軍隊格闘術には歯が立たないことになっている

・高潔な悪というより卑近な悪だが、それは彼らが人としての教育を受けていないなど、悲惨な経緯を背負うからである

・強者の皮を被った弱者

→故にクーが共有する人の命の重さに対する葛藤などといった当たり前の前提が共有されていない

→権力を持ってしまった無敵の人に近いため、人質核の使用と住民全員戦禍にさらすという蛮行に打って出ることができる

→しかし自暴自棄な暴力は最も頭のいい権力に都合よく利用され切り捨てられる運命にある。清潔で質のよい軍服に身を包み、平和と正義という名を騙りながら、実のところ、結局は闘争を選ぶ。やむなくというためらいや、回避の努力を捨てている時点で、本編の彼らと同じように運命は決しているのであった

→その意味において、シェラーシカ・レーテの政治的判断については、原作者と相違するところがあり、数点組みなおした部分がある

・私の想像としては「江戸無血開城」だったが、原作を見るとそうなってはおらず、キルギバートもちゃんと新兵器と戦い、モルトランツがちゃんと焼け野原になっているので、やはり交渉は半分失敗に終わり、交戦を望む勢力との闘争に敗北したものの、核の使用は未然に防いだという理解で進行し、結局ウィレにモルトランツを明け渡すまでの一連の攻防は、親衛隊というお飾りの完全なる切除という形で終了することになった。

クーの役割は、ひたすらに関係ない人々を救うことだけである。

余談だが、この展開を用意した私なら、これ以降の親衛隊をむしろブロンヴィッツがモルトランツを救った英雄として祭り上げるといった展開が妥当と考える。


モルトランツ警察

・ほとんど州兵のような立ち位置となったが、地球ではないためよしとする

・モルト軍に権限を割譲され治安維持にあたるという立場が今作で最もファンタジーかもしれないが、もし時の軍事政権がSNS世論を味方につけたいなら、こういう半分自治を認めるようなやり方もなしではないと考えた

→現場に近く、地場を守るという立場ではクーと同じであり、彼らが動かなければモルトランツは助かっていないが、半分モルト軍に協力してしまった以上、彼らがウィレに接収された後どのような扱いになるかは筆者にも想像が難しい。


<カメオキャラクター>

・キルギバートを筆頭としたパイロットチーム

→本編で描かれない心理描写を描く。特にモルトランツ編にて描かれたものを下敷きにして、私として「本当はこう思っているんじゃないか」という部分に集中して描いた。実は本編でその中心となるべき信念が描かれたことが極めて少ない彼であるが、間違い続ける組織の一員として、時に良心の呵責に苛まれながら状況を飲み込んで進んでいく雄であり、一兵士としての心がどのモルト兵よりも優れていなければ意味がないと考える。すなわち偏狭な価値観を妄信する兵士たちから一歩引きながら、我がこととしてできる任務にあたる侍であると書いた


・ジスト・アーヴィン

→実はカメオの中で最も成長のある人物。

私が中学高校時代の理想の大人像を込めて作った男。のちにINGENに渡したキャラクター。

→クーとともに現役だった頃は、己の仕事に自信を持てず、迷うだけの若者だったが、クーと道をたがえた後、辛抱強く軍に所属し、それはそれなりに出世もして、生き方を心得た大人になっている。私が書いていた頃は、上司に反発し部下を守る青島俊作的な造形だったが、本編での立ち位置を踏まえ、クーのもう一つの未来をかたどるキャラとなり、その結果としてクーが、ジストから自由を与えられるというメタ的にも象徴的な物語となった


・カザト、ファリア

現ライオンハートになる前にあったキャラクターのリブートであり、ウィレ軍のパートは私が担当していたので、すべてを自分で書くことになったINGEN氏としては造形が大変だったかもしれないが、彼らの人生こそ大事。

→すべてのキャラクターが不条理を受け入れ、大人として生きている中で、この少年兵たちは世の中の不条理に反意を持つキャラクターとして描いている。

「こんなことって、ないですよ」

これが彼らを象徴するセリフであり、キルギバートと全く違う道の宣言である。


・シェラーシカ・レーテ

本編では登場しないが、実は大変な影響力を持ち現場を支配するキャラクターである。彼女の政治的判断が、数千、数万単位の命の運命を決することとなった。



<INGEN作 LION HEART ソラノシシについての短評と分析>

 確か数年前、新しく連載を仕切りなおすにあたり話し合ったことに、

「カクヨムの中で、『なんか司馬遼太郎とかの時代物の高尚な感じを簡単に読み下して、いいもの読めたなあっていう感が毎週出るようなSFがあったらおもしろいよね』」という話をした覚えがあります。むろんその場でわくわくしただけの私の思い付きでしかない言葉を著者は深く理解くださったようで、全体的にそのような時代物としてのテイストが出ながらも、解りやすい勧善懲悪ものとしてよくまとまっていると私は思います。表面的に展開される状況には、善悪二元論的なわかりやすさが順守されながらも、INGEN氏による独特のリアリズムによって、そういったヒーロー的側面だけでない部分が担保されてもいます。

 例えばキルギバートという青年兵士が、泥にまみれながらも気高き獅子の心を発揮し部下を従え(というより手なずけ)徐々に成り上がっていく過程、シェラーシカ・レーテという所謂姫キャラが夢破れ、どんどん冷酷な面さえあらわにしていく過程が印象深く記されております。

 一方で牧歌的なヒーローを夢見るようなカザトという少年を設定することで、このテーゼの反証も試みられています。こうしたどちらかといえばアンチヒーローに囲まれたカザトが辿る未来は非常に興味深いものとして映ります


 ヴィランとして置かれたキャラクターが分かりやすく悪人かつ残忍なところはときどきコミカルでもありますが、それは本人が昔から好きな時代劇から強いインスパイアを受けているからであるといえます。一般的によくあるSF的な考証、設定やガジェットは実はライオンハートにとっては外側のオプションであり、その本質には正義とも思えない自らに対して課すラフさとタフさが流れているように思えます。

 うーん、書いていて思いますが、私の資質とは大分逆のようでございます。これは立派なことであります。

 当初、モルトランツ編を彼が書くにおいて、大変悩まれておりました。

 それはなぜかといえば、モルトランツにはサミー一家が存在し、敵と味方が和解する奇跡の地であるという一点においてであります。

 なんと今までよい点とされていたラフさタフさの裏側にあった、やることやればよろしいという現状主義の向こうにある「夢」、戦場にかける橋における橋が、壊れないという展開を用意しなければならなくなったのです。

 そして世界はこの状況と。

 まあ、作者は胃が痛かったでしょう。

 しかし、そもそももとをただせば、モルトランツ編というのは、かつて私が共作していた頃、私が担当していたウィレ編におけるファクターなのであって、私が抜けた後もそのまま採用された展開でありました。また本人も多忙を極めて更新が滞るにもかかわらず、まとめサイトで評価されるという対外的な良いことも重なってきたのもあり、うーん、じゃあ彼が元気になるまでやろうかなという感じで書き始めようと思ったのでした。

 アマゾンで本が売られているのに、カクヨムの画面で羽田和平と表示したときにはこれが代表作と書いてあるのも、らしいなと思いましたね。

  

 というわけで、執筆にあたっての目的は

・モルトランツ編で私が書きたかったテーマに2022年的解釈を加え書き貫くこと

・ライオンハートの設定考証上弱いと思われる箇所を補強すること

・かつて共作していた頃の宿願でもある「骨太の人間ドラマ」に回帰すること

・本筋では勧善懲悪なので、こちらでは善悪の飽和→戦争映画的に描くこと

・ライオンハートという常に舞台が動く線の物語に対して、モルトランツの中ですべてが完結する点の物語を描くこと


 そして最大の目的は

・何カ月もネット展開するという経験をし、その間休むことなくきっかりに更新すること。(エタるのは問題外)

でした。


 いろいろとできたこともできなかったこともありますが、少しでも心に残る作品となり、本編に厚みをもたらす小さな作品として完成していれば幸いです。


 次なる私の物語を作るため、精進してまいります。



                               羽田和平

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ライオンハート fade to R.E.D. 羽田和平 Kazuhei Wada @wadakazu

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