私と出会ったあなたへ

ニチカ

第1話 苦しみ

「やめて!!それは私の大切なものなの!!」

瑞葉は屋上で縛られたで手で必死に小さなぬいぐるみの方へ叫んでいた。そのぬいぐるみはいじめっ子の女子生徒の手の中にあった。

「ウケるそんな欲しいのこれ?」

香織は鼻で笑った。

「えーどうする?渡すー?」

香織は他のいじめっ子の方を見た。

「なんかしてもらわなきゃさー」

1人の女子が嘲笑いながら瑞葉の腹を蹴った。

「う!……」

瑞葉はダンゴムシのように丸まってから、嘔吐した。

「汚ったなーい」

「うわ、ひくわ」

女子生徒達は鼻をつまんだり、口を抑えたりしていた。

「う……ハァ…返してください…大切なものなんです…お願いします」

瑞葉は震える声で必死に頭を下げた。

「じゃーさ」

女子生徒は瑞葉の顔を強く掴んだ。

「死んでよ」

香織の目は本気であった。ほかの女子生徒は茶化しをやめた。

「あは!流石にしないっしょ」

1人の女子が苦笑いしながら言った。

「は?」

香織は怒り狂った顔で女子の方を見た。そして屋上から小さなぬいぐるみを地上へ投げた。

「こいつの縄ほどいて」

香織はハサミをもつている女子の方を見た。

「…」

「はやく!」

女子はビクッと動いてから瑞葉の手首につけられていた縄を切った。瑞葉は静かに立ち上がり、屋上の端へと歩いて行った。

「わ…私知らないから!勝手にして!」

1人の女子が屋上にあるドアから階段を降り、逃げていった。そしてほかの女子生徒も逃げるように階段を降りていった。残っていたのは香織と瑞葉だけだった。

「あんたに蓮を奪われた…」

「奪ってないよ、蓮くんが私に告白してきた…」

香織は瑞葉の胸ぐらを掴んだ。

「はぁ!?あんた、私が蓮の事好きだって知ってて付き合ったでしょ!その蓮が死んだ。あんたのせいで」

瑞葉は無心であった。

「死ね!はやく死ね!」

香織は胸ぐらを離し、背中を押した。瑞葉は柵を乗り越えて、すこしある空間のところで立っていた。

「あなたも死にたいんじゃないの?」

瑞葉は下を見ながら聞いた。

「はぁ?私はあんたを殺せればいいのよ」

「そう、私は蓮くんを愛してた。あなた以上にだからまた死の世界で会えるなら本望。こんな人生辛いだけだし。あなたは蓮くんに会えないね」

香織はカッとなり、柵を乗り越えた。そして瑞葉の背中を強く押した。

「死ねアバズレ女」

瑞葉は香織の腕をぎゅっと握った。

「あなたもよ」

「は?…」

瑞葉は頭から落ち即死、香織は瑞葉がクッションのような役割を果たしギリギリで死を免れた。


瑞葉は真っ白な空間でふわふわと漂っていた。すると丸い玉のようなものが近づいてきた。

「なにこれ」

『コンニチハ』

「喋った」

瑞葉は不思議そうに見つめていた。

『ワタシはテンシです』

「天使?私の中の夢?」

『いいえ、ココはイセカイとチキュウをツナグところ。普通はテンセイをして、チキュウでイキルと死ぬをグルグルしますが、アナタはエラバレマシタ』

日本語はカタコトであったが聞き取れないほどではなかった。

「何に選ばれたの?」

『イセカイにテンセイする権利をデス』

「権利ってことは義務じゃないのね」

『はい、チキュウをグルグルもデキますが、もう二度とこんなことオトズレマセンヨ』

「地球で生きてたっていい事ないから転生する」

瑞葉はほぼ考えず即答した。

『分かりました。デハどのようにテンセイしたいです?』

「とりあえず楽に生きられて、ご飯は食べられて、勉強とか仕事とかはしたくないな。別に嫌いって訳じゃないけど、選べるならしたくない。そんな感じならなんでも」

『リョウカイしました』

すると瑞葉の体が光出した。

「なにこれ!」

『テンセイします。それではイイ人生を』


瑞葉は目を開けると、草原が広がっていた。風が気持ちよかった。視線はとても低く、当たりはあまり見えなかったが、空は澄み渡るように綺麗であった。

(なにこれ)

瑞葉は喋ることが出来なかった。立ち上がろうとしたが経つことが出来ない。四足歩行をしていた。

(え!?動物!?な!なんの動物なの…)

前足を見たり、してみた。白くふわふわとしていた。後ろ足も見てみるとおなじくふわふわしていたが筋肉がついていた。そしてやけに音はよく聞こえていた。

(これ…うさぎじゃね?)

そう心の中で思った。ふとどこまでジャンプ出来るのかという疑問がよぎったため、1度ジャンプしてみることにした。力強く地面を蹴ると、1mほど飛ぶことが出来た。

(結構高く跳べるんだ。たしかうさぎって前に跳ぶ力の方が強かった気がする)

そう、あっているか分からない知識を思い出し、前に飛んでみることにした。すると3mほど前に飛ぶことが出来たので、瑞葉は少し驚いていた。

(こんな進んだ。てゆうか草原しかないし、お腹減ったら草あるからいいけど)

瑞葉はどんな味がするのか興味が湧き草を食べ始めた。

(美味!)

なぜかただの草なのにとても美味しく感じ、どんどん食べてしまっていた。

(ただ食って寝るだけの人生は流石に退屈だからどこか行こうか)

瑞葉は少しずつ歩き始めた。

(うさぎって寿命どれぐらいだったかな、7年くらい?忘れたなー)

瑞葉は揺れる草原の音だけを聞いていると、誰かがこちらに走ってくる音が聞こえた。

(誰か来る!隠れなきゃ、いや逃げなきゃ?まぁどっちでもいいけど……いや、こんな愛くるしい私を捕まえたりする奴がどこにいる)

瑞葉は謎の自信に満ち溢れ、走ってくる音の方へ、いってみた。音が近くなり、瑞葉の上になにか大きな影が、覆いかぶさった。上を見ると、金髪の少女が立っていた。12歳ぐらいでかわいらしいかおをしており、草原でとったと思われる花をカゴに入れていた。

(綺麗な子だな)

瑞葉はその少女をじっと見ていると、少女は目を輝かせて、瑞葉を捕まえ、抱きしめた。

(うわ!助けてぇ!!)

「可愛い!あなた私のお家に来ない?」

瑞葉はそのことを聞き、すぐに抵抗することをやめた。瑞葉は少女の可愛さに負け、こくりと頷いた。

「やったー!」

少女は瑞葉の頭にキスをした。

「私ね、1人で暮らしてるの。だからずっと家族が欲しいと思ってたの。あ!ちょっと待って」

少女は瑞葉を下ろすと、花でなにか作り始めた。瑞葉は静かにそれを眺めていた。

「出来た!」

少女は瑞葉の首に花で作った首輪のようなものを被せた。

「これであなたは私の子よ」

少女は瑞葉を抱きしめ、町へと駆け出した。


少女の家は古びた家であったが、大きく立派だった。そして庭もあり、庭に井戸があるのも見えた。

(何このおうち)

「ここが私のお家だよ」

家の中ではほうきが勝手に動いていた。

(ほうきが動いてる!?)

「私ね、魔法が使えるのよ。それで占いとかしてお金を稼いでるの。町じゃ、小さな魔女様なんて呼ばれてるのよ」

少女はピンク色の頬を上げて、にっこり笑った。

(こんな女の子がお金も1人で稼いでるなんて)

少女はリビングルームのソファに瑞葉を乗せて自分も隣に座った。そして腕組みをして何か考え始めた。

「なんて名前にしようかな…んー」

少女は悩みこくっていた。そして大きな本棚から1冊の本を持ってきた。

「開いたページに書いてあった名前にしましょう」

少女がページを開くと、そこにはリリと書いてあった。

「あなたの名前はリリよ!よろしくねリリ」

少女はリリを抱きしめた。

(私はもうリリか)

「あ!そうだ!あなたには魔力があるかしらね!」

そう言って、水晶玉を持ってきた。

「魔法が使える動物がいるのよ。知ってる? 」

(そうなの)

水晶玉をリリの前に置き、その水晶玉に手を置いた。少女はハッとした顔をしてから、へらっと笑った。

「魔力無かったわ。でも普通は無いのよ、ある子が珍しいの」

(なんだかすごく期待してたみたいだけど)

「あなたは私が守ってあげるから」

少女はリリを抱きしめた。


それから少女との生活が始まった。少女の名前はニーナで、ニーナは家事炊事を自分でこなしていて、夕方に占いの仕事とポーションを作る仕事をしていた。毎日のように人々があつまって、とても評判が良いようで、町じゃ有名人であった。だがその反面いいように思っていない人も多くいた。

(たった12歳の少女が、こんなに働いてるなんて)

リリは草を食べて、庭を跳ね周り、ニーナの癒しのぬいぐるみとなったりしていた。

「リリー!草原へピクニックしに行きましょう」

ニーナは黒い帽子を被り、サンドイッチの入ったバックを持っていた。リリはひょこひょことニーナについて行った。

「あなた言葉が分かるみたいよね。ほんと」

(分かりますけどね。喋れないだけで)

草原に来ると、ニーナは大きく手を広げて寝転がった。

「いいところ、疲れが吹っ飛ぶ」

ニーナは気持ちよさそうに天を仰いでいた。

(私が手伝えたらいいのに)

リリはもくもくと草を食べていた。

(ここの草はやっぱり美味しいな)

「知ってる?ここに生えてる草は全部魔法薬の草なのよ。まああなたが食べても魔法が使えるようにはならないけどね」

ニーナはニコッと笑った。

(使えたらいいのに)

ニーナは静かに座り、なにか真剣そうな顔をした。

「あのね、あなたに言ってなかったんだけどね、あなたは特別みたいなの」

(どゆことですかい)

リリは食べることをやめ、ニーナに寄った。

「あなた、魔法は使えないけど、特別なスキルがあったの。スキルの名前は【変身】、魔力のある生き物の血を飲むと、その生き物になれるの、その生き物のスキルも使える」

(ということは私がニーナの血を飲むとニーナになれるってことか。魔法も使えるようになる)

「あとね、あなたの寿命は永遠」

リリは無垢な目でニーナをじっと見た。

(え?…)

「こんなの初めて見た。普通はその種族の平均年齢が出てくるんだけど、あなたは違った。普通のうさぎなら平均年齢9歳とでるの」

(確かに普通のうさぎじゃないけど、永久に生きるのか)

「まぁ、私が死ぬ時はあなたに私の血を飲ませてあげる。そしたら生きやすくなるよ」

ニーナはリリを抱っこし、腹の上に乗せた。

(確かにそうだけど、そんなことしたくない。ニーナが死んでも私がニーナの姿になれるなんて悲しすぎるじゃん)

ニーナは空に手を伸ばした。

「この世界はまだ小さいわ。あなたが大きくしてね。何年かかってもいい。何十年、何百年かかったっていい、世界をひとつにしてね。みんな仲良く暮らせるように」

(そんなこと私には出来ないよ)

リリは表情の変わらない顔で訴えかけながら、ニーナを見ていた。

「あなたの感情が分かれば私も楽しいのに」

(私も話せればな)


それからというものは順風満帆な毎日だった。ニーナはどんどん綺麗になるし、魔法もうまくなっていった。よくニーナは草原でピクニックをしたり、庭でお茶を飲んだり、リリもとても快適な暮らしをしていた。

それから10年ニーナはそして色んな町に名を馳せ、力の強い魔女となっていた。リリは全く変わらず、白いうさぎで表情が変わらないのもそのままであった。違うのは首には真っ赤なリボンがつけられていた。

「リリ、今日も可愛いわ」

ニーナは昔と同じようにリリを抱きしめた。

(ニーナも綺麗)

リリもニーナの頬に擦り寄った。

「今日はね沢山仕事がきてるの。大変よ」

(いつも大変そうだけど、今日はいつも以上に大変なのね)

まだ仕事時間ではなかったが、ドアがドンドンと叩かれた。

「なにかしら」

リリがドアを開けると、苦しそうにもがく5歳ぐらいの少年とその少年を抱える母親が立っていた。

「魔女様!この子が!朝から顔色が悪くって、そしたらさっき苦しみ出して!」

そう息切れしながら必死に母親が言った。

「分かりました。ベッドに運びましょう、こちらへ」

ニーナは患者用のベッドに少年を寝かせた。そして診察を始めた。

「うちの子は大丈夫なんですか!?」

「危険な魔薬などに触れたりなどしれませんでしたか?」

「いいえ!」

ニーナは考え始めた。そして魔法で少年を寝かせてから、病院に電話した。

「おはようございます。はい…はい、そうです。え?!そちらも…分かりました。はい……調べてみます」

ニーナはいろんな魔法薬を持ってきては、少年の周りに置いた。

(何が起きてるんだろうか)

リリはただ眺めていた。

「病院にもこの子のような症状のひとが駆け込んでいるようです。どうやら普通の病気では無いようで、鎮痛剤も効かないようです。これは私の専門ですね」

「息子は助かるんですか!?」

ニーナはたくさんの本を取り出しては、魔法の病気を片っ端から読み始めた。

「分かりません。普通の病気のように見えるんですが、なんなんでしょう。とりあえず定期的に魔法で痛みを和らげるぐらいしか今は出来ません」

母親は息子を心配そうに眺めながら椅子に座っていた。

そして1人、また1人と患者は増えていき、症状は悪化するばかりであった。患者達は薬が間に合わず、少しずつ亡くなっていった。その病は全くの謎の病気であった。発病も謎、治す方法も謎。この町あの町と病気は拡大し、たくさんの魔法使いが病気を治す薬を作ることに専念していた。ニーナも必死になって睡眠を削り、できる限りの時間全てを薬作りにあてた。

(私、どうすれば)

リリはニーナを一日中ながめることしかし出来なった。そしてある明るい日差しが眩しい日、ニーナが目を大きくし、何かを顕微鏡でみていた。

「……あ!あっt……」

ニーナはバタリと倒れた。それからニーナはベッドに寝かせられ、あの病気がかかっていたことが分かった。ニーナは一気に病気が悪化し、顔はやつれ、息も細々としていた。リリはニーナから出された食事以外は食べずにただずっとニーナのそばにいた。

(ニーナ…)

「リリ…私の血を……ゴホゴホ…飲んで」

リリはニーナに擦り寄った。

(いいからそんな昔の約束、それにそんなことしたくない)

ニーナは指をリリの前に出した。

「薬… 出来たの……」

(え…)

リリはニーナをただ見ていた。

「私のことを………ずっと見てたあなたなら……出来るでしょ…薬くらい」

ニーナは今にも死んでしまいそうであった。そんなやつれ顔で優しく微笑んでいた。

(私なんかに出来ない)

リリはリボンを揺らしながら首を振った。

「はやく血を…かじって出すのよ…あなたなら出来る……あなただけなの……みんなを…救えるのは…」

リリは今にも出ないはずの涙が溢れ出そうだった。リリはニーナの顔を見てから、ニーナの手をかじりたらりと流れた血を舐めた。

「よく出来たわね…私の可愛い……リ………」

ニーナの言葉はそこで途切れた。安らかなに眠っているようだった。リリはドクンと心臓が強く脈打ち、いつ間にか、あの若かりしころのニーナの姿になっていた。ほんとうに久しぶりの感覚であった。

「ニーナ……」

リリは流れ出た涙を拭き、ニーナに布団をかけてから、薬の説明書を探し出した。それはすぐ机に置いてあった。いつも見ていたからわかった。どの薬品がどこに置いてあるか、どれを使えばいいか。すぐに薬は完成し、病の人に与えてみたところ、病気が改善していった。色んな人に薬を無償で渡して歩いては皆に驚かれた。「昔の魔女様だ」「若返りの薬でも飲んだのですか?」「なぜそんなお姿に」そんな言葉を何度も聞いていた。その度に「私はリリです。魔女様の姪で、亡くなられた魔女様の代わりに薬を配っています」と。一通り配り終わると魔女達にニーナが作った薬の説明書を渡し、旅に出た。

「ニーナの夢を叶えないと」









































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私と出会ったあなたへ ニチカ @Kotomi336

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