第8話 落日と閃光

砲声は数日間響いていた。俺は砲声で神経に異常をきたした同僚が痙攣しているのを横目にしながら必死にマスケットに弾を込めていた。


「クソッタレめ!こんな汚い穴倉で死ぬのはごめんだぜ!」


「全くだ!おい!そこでキマってるやつを引っ込めろ邪魔だ!」


俺と別の同僚の軍曹は文句を言いながらマスケットに弾を込め隙をみては銃を撃っていた。初めのうちは弾込め要員と射手で分かれて攻撃していたが射手が死にまくり、結局は全員で撃ちまくる事となった。


「少佐!援軍は来るんですよね!いくら川があって戦車が来れないとはいえあっちはマシンガンこっちはマスケットと手回しガトリングでは何れ橋頭堡を築かれて突破されますよ!」


俺は弾を込めながら喚いた。


「来るさ。ここを突破されれば後は平野が続くそしたら首都まであっという間に攻め込まれるぞ。」

俺は敵の方を見た。戦車が砲塔をこちらに向けていた。


「俺、もう死ぬかも……。」


その瞬間、閃光が走った。戦車は光によって撃破された。俺は尻もちを着いてへたりこんだ。そしてパンツはしめっていた。




「全く、寝たきり老人を叩き起して前線に送るとは……。この国も終わりだな。」

杖をついた老人が指から光を発射しながらボヤいた。

「増援が来たぞー!新型の武器もだ!手隙のものから全員受け取れ!」


「機関銃中隊は前へ!ガトリング部隊の穴を埋めろ!」

ぞろぞろと増援がなだれ込んできた。そこらかしこから光と機関銃の弾が飛んでいく。


「首都防衛の魔法部隊を全員引き抜いてきた。」


「チャーチル中佐!待ちかねたぞ。あのじーさんが最終兵器か。」


「アールネ少佐、急いで来たんだがな。中々準備に手間取ってな。いつ戦線が突破されるかヒヤヒヤしてたよ。」


そうチャーチル中佐がいうと


「コッラー川の時よりEASYだよ。しかし兵の練度はそこそこだが武器が酷い。」


アールネ少佐がぼやくと


「それはそうだ。こっちはマスケットと少数のボルトアクションだからな。重機関銃とサブマシンガンを持ってきた。ステンの簡易型だ!少々ブサイクな見た目だが使えるぜこいつは。」


「ありがたい、フルオート射撃の武器が必要だったからな。おい!そこ全弾フルオートで撃つな、皆聞け!慣れてないと思うが3発ずつ指切りで撃つんだ機関銃の弾幕形成を同じだバカスカ撃つなよ。弾がすぐに底をついちまうぞ!」


「ズドド!ズドド!」短機関銃の音が木霊する。その一方で魔術師が光線を発射する。アーリア軍の戦車は紅く灼熱化して融解していった。


ハッチから融解した戦車の装甲を浴びた兵士が這い出てきてのたうち回っていた。


「うぅぅぅア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」


金切り声を上げながらアーリア兵は絶命した。


熱で眼球が溶け落ちてさまよっている者もいた。


新兵がその光景を見て嘔吐する。古参兵がうずくまる新兵を無理やり立たせる。新兵の吐いた吐瀉物にはゴキブリとネズミが群がっていた。



「司令、戦車隊が壊滅状態です!敵フェード軍の魔法兵に押されています。」


アーリア兵の伝令がそう伝える。


「側面にスナイパーを配置して魔術師を狙い撃ちにしろ!」

司令官がそう叫んだ。


「なに!?側面に回れだァ?魔術師を狙えってか、もう狙ってるわボケ!」

アーリア軍のフェルナー少尉がボヤく。

文句を言いつつも小隊を右側面に回らせた。


「おっ、言う事は素直に聞いとくもんだな。正面より視界が開けてる。あのかわい子ちゃんを狙うか脳天を一撃だぜ……。」


「「バン!」」という音と共に魔法兵の1人が倒れた。


「スナイパー!魔法兵狙われているぞ!機関銃左舷前方制圧射撃!」


アールネ少佐が叫ぶ。


フェルナーの小隊の方に機関銃が向けられた。


フェルナーは堪らず塹壕に隠れる。


「ババババ!」嵐のように弾が飛んでくる。


他の狙撃手も同じく隠れる。迂闊に頭を上げた者はザクロのように頭が砕けた。


「射点をズラすぞ。ポイント3に移動する。」


フェルナーはそう指示する。


「了解しました……」


そう応答した目の前の兵士の顔が消失した。



フェード王国魔法師団長オーギュストが手のひらを向けて光線を放っていた。


空は茜色に染まり始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

兵士転移 @matunaga0079

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ