小さな少女の存在のおかげ
無事に午前中が終わると、昼休みはリクは屋上に上がることにした。
いつものように春樹と昌秋がいたが、さらに隣に彼女がいることが、まだ信じられなかった。そして更に、いつも隣のクラスに食べに行く鳩美を、今日はなんと桜が捕まえた。
「ちょっと、リク」
屋上で桜が、春樹と共にはしゃいでいる時、鳩美がリクの横に来た。
「なんか、あたしになついてんだけど。なんで?」
「知るかよ?いーじゃん、好かれて」
「だって、あたし何もしてないのに意味わかんない」
「ジャージ貸したりしたじゃん」
「それだけで?」
「いや、オレも知らねーけど。でも、あいつ人見知りとかしねーしさ。
オレも若干不安だったけど、お前が一緒いてくれんならいーわ」
勝手に決めないでくれる、とか呟く鳩美だったが、嫌がっている素振りはみえない。
「・・・お前さ、いいやつだよな」
「何、いきなり」
「いや、あんま絡んでこなかったけど、そう思うよ」
「・・・あっそ。あの子の方が、"ザ・いい子"でしょ」
「あぁ・・・あいつはいい子だけどさ」
「リク君、みっちゃん!見て見て、このパンにお餅が入っているの!」
そのうち、桜が白玉あんぱんを持ち、感動の思いで2人の元へ走って来た。
5人は、青空の下で丸くなって昼を過ごした。
「午後一の授業なんだっけ?」
「クラス行事の話し合いかなんかじゃなかった?」
春樹に鳩美が答える。春樹は、きたーと言いながら手を振り上げた。
「もうすぐ、クラス行事で、海岸BBQなんだよ~、桜ちゃん間にあってよかったじゃん!」
春樹に言われ、桜は小さく首をかしげたが、嬉しそうに頷いた。
海岸でBBQがなんなのか、絶対わかっていないだろうとリクは思った。後で、説明してやらないと。
午後の行事の話は、担任の和田もテンションがあがっていて、皆も楽しそうに内容を決めたりしていった。
実行委員の茶和山(さわやま)は、非常にまじめだし副委員長のさとやんは、明るく皆をまとめるのが上手だ。
もめることもなく、話は進んで行った。
「キャンプファイヤーははずせねーと思うんだけど、みんなどう思うー?」
「いんじゃね?」
「キャンプファイヤーとか!俺らせーしゅんっ!!」
さとやんの提案に、わーわーと賛成が上がった。
「・・・では、キャンプファイヤーに異論がある人はいますか?・・・いないようですね。・・・先生、いかがでしょうか」
「ん?俺は、皆がいいならいいけどよ。お前が決めていいぞ、委員長」
「では、キャンプファイヤーを実行することにします。
えっと、次に決めなきゃならないのは―…」
一番後ろの席に、桜と鳩美、そして昌秋がかたまっているため、リクは後ろに移動して床に座り込んでいた。
桜は目を輝かせて話を聞き、鳩美は携帯とチョコレートを片手に、たまに黒板をみる。
クラス行事は、2週間後に迫っていた。
放課後になり、リクはハタと思った。
「お前、どこに帰んの?」
「・・・えっとね、お部屋はちゃんと借りてきたの。2丁目にある、ももいろハイツっていう建物だよ」
「なんだ、ならいんだけどさ」
「今度、遊びに来てね」
「おう、行く行く」
うちにも、という言葉をリクは飲み込んだ。
そんなことをしたら、面倒なことになりかねない。例え母親に彼女の事を細かく聞かれても、答えられないのだから。
「・・・リク君、あたし今日1日、とっても幸せだった・・・!人間の毎日って、わくわくしちゃうね」
リクは、そんな桜を見て少し笑った。
「リクー!帰んぞー!帰りマック寄ってこーぜー!オレまじ腹減った~」
「わーかったよ。マサ、行くぞ」
「ん」
・・・なんの変化もない日常が、わくわくに変わったとすれば・・・それは外でもない、小さな少女の存在のおかげだ。
「オレも、今日は楽しかった」
(・・・お前が、いたからな)
帰り道、春樹と昌秋と別れたあと、リクは桜を送っていった。
彼女に見せたいものや、連れて行きたい場所が沢山ある。他の人にはない、新鮮な反応。
素直に感動してくれる姿は、喜ばせずにはいられない。
「な、ちょっと寄り道しよーぜ。
そこ曲がるとクレープ屋とか、雑貨屋あんだよ。・・・行こうぜ」
「なぁに?行く!」
「お前、ぜってー好きそう」
思った通りだった。クレープを買ってやると、今にも泣き出しそうなくらい、感激していた。
更に近くの雑貨屋に立ち寄り、小物やアクセサリーのあまりの可愛さに、桜は永遠にそこにい続けそうなほどだった。
リクはそこでは、彼女が一際気に入ったらしい、レースの花のカチューシャを買ってやった。
桜がいなければ、リクとは生涯無縁そうな場所だったが店はさて置き彼女を見ていることが、リクには何より楽しかった。
「ほんっっとうに、どうもありがとう!リク君、本当にありがとう!
今度、ハル君も、昌秋君も、みっちゃんも一緒に来よう?」
「休みの日、もっとすげーとこいっぱいあるから、行こーぜ。
オレ・・・お前が人間になったこと、ぜってー後悔させねーから」
「うん・・・うん、リク君ありがとう。
大好き」
「・・・ん、オレもだよ」
不良少年と、メルヘン少女。
相入れないような2人だが、その想いは本物だった。
きっと、どんな純粋なカップルよりも純粋で
珍しい愛の形。だからこそ強く惹かれる、愛。
それからのリクの毎日は、今までにないくらい、心が温和だった。そして、クラス行事の海岸BBQは、あっという間にやってきた。
この手に落ちてくれ② 春瀬なな @SARAN430
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