第15話 「マジかよ」

 一発でピックアップキャラを当てることができたら、こんな気持ちになるのだろうか……。

 

俺は今、目の前にロストせずに残っているアイテムを見て、歓喜とも恐怖ともつかない気持ちを抱いていた。


「お、おおおお‼ やりましたね! トトローさん!」

「あ、ああ。まさか成功するなんて思ってなかったんだけど……マジかよ」


 目の前に出来た青く透明な石を眺めつつ、俺は心の中で「マジかよ」というつぶやきを繰り返していた。

 アイテムを鑑定するとこのように表示される。



名前:生成石(水)

重量:0.5キログリム

品質:低

耐久:100

説明:魔力を通すと水を生成する。他の素材と組み合わせることで魔導具になる。



「生成石って名前らしい。魔力を通すと水が作れるそうだ」

「なっ⁉ まさか、まさか魔導具ですか⁉」

「魔導具も作れるって書いてあるな」


 そういうと、ミカンさんに肩を掴まれて揺さぶられた。


「ほ、本当ですか⁉ それってすごいですよ‼」

「ちょ、ちょっと、首痛い、やめっ」


 話によると、この世界には魔導具というものは存在しないらしい。魔剣といった特殊効果のある剣などは存在するらしいが、あくまで「HP吸収」や「筋力上昇」といった「ステータス上の特殊効果」であり、「水を生成する」といった「物理的な魔法効果」を生み出すことはできないらしい。しかし、この生成石ならば魔法効果を生み出すことが可能だ。


「さっそく試してみましょうよ!」

「そうだね」


「魔力を流す」と念じると、生成石がぼんやりと光ってじわじわと水があふれ出す。

 「魔力を流すのを止める」と念じると生成石の光が止んで、水が止まった。


「おおおお‼ 本当に水が出ますね! 私にもやらせてください!」


 生成石を渡すとミカンさんも魔力を注ぎ始めた。水が出たことに喜び、その水を掬って飲んで、頬を緩ませている。

 一頻り生成石で遊んだミカンさんは、俺に向き直った。


「これ、魔導具になるんですよね? 何か作ってみませんか?」

「んー、まぁ生成石はまた作れるし、作ってみてもいいか」


 生成石のレシピは既にメニューに登録されているので、今後は生成石をいつでも作ることができる。というわけで、この生成石を使って魔導具づくりを試してみても問題はないだろう。


 さっそく生成石と鉄材を錬成陣にセットして錬成してみる。

 錬成の光が止むと、筒状になったアイテムが目の前に浮かんでいた。


「マジか。成功したぞ」

「おおおお‼ これはなんでしょうか?」

「ちょっと待ってて。鑑定するから」


 俺は心の中で『鑑定』と念じてみる。

 画面が現れアイテムの詳細が表示された。



名前:魔導式水筒

重量:1キログリム

品質:低

耐久:200

説明:魔力を込めると水が溜まる水筒。



「魔導式水筒だってさ。魔力を込めると水が溜まるらしい」

「おおおお‼ これはすごい発明ですよ‼ 今後は私達、水を持ち歩かなくていいですね!」

「そう考えると確かに便利そうだな」


 その後は、水筒を使って水を溜めて実際に飲んでみたり、魔力と生成される水の量を測ってみたりと色々試していたら結構な時間が経っていた。

 こうして、気まぐれに行った錬成は大成功を収めたのである。




◇ ◇ ◇




 水筒を作ってから現実時間で3日ほど経った。

 水筒を作った日の夕方頃に隣町に到着した俺達は、そこで一泊した後、冒険者を雇ってから次の街へと出発した。そして現在、出発してから2日ほど経っている。


 雇った冒険者はNPCのパーティーであり、リーダーはエルザという女性だ。クラスは魔導士でDランクの冒険者だという。彼女たちも南の海岸沿いのビーチに行くつもりらしく、冒険者ギルドでミカンさんが意気投合して雇うことになった。


ちなみに冒険者ギルドに行った際、俺も冒険者登録をした。理由はグランを所有物として登録しておく必要があったからだ。幻獣は普通、単独では街に入れず、冒険者の所有物として登録することで初めて街に入ることができる。そのため、実際には異なるが一応俺の所有物ということで登録を行うことになった。ミカンさんではなく俺を飼い主にした理由は、グランが俺のほうに良くなついていたからだ。


 俺の所有物として登録したことをきっかけに、ミカンさんには金銭面での援助は無理せずやってほしい、ということをお願いした。形だけだが俺の所有物になったのだし、実は俺にも金銭面での余裕ができる目途が立ったので、ミカンさんだけに負担をかけるのは良くないと思ったのだ。ミカンさんの返答は「別に気にしなくてもいいですよ~。その辺はゲームなんだし気楽にやっていきましょう!」というものであったので、これからもグランの世話は二人で協力してやっていくことになるだろう。


 そんなことがありつつ、俺達は南へ続く街道を馬車に揺られながら進む。

 王国の南は草原が多く広がっている。そのため、目の前の視界が開けていて、風が髪をたなびかせる。地平線の先には海が見えていて、その手前には白い建物がぽつぽつと見え始めていた。

 

「そろそろ着きますね」

「そうだね」

「トトローさん。せっかくのビーチなんですし、今回はちょっと長めに滞在しませんか?」

「そうだね、それもいいかも」

「やたっ! これで魚介がたくさん食べられそうです!」

「やっぱり南を勧めたのは魚介が食べたいのが理由か……」

「い、いや、そういうわけではないですよ? 断じて違います。……ほんとですよ?」

「嘘だな。絶対嘘だ」

「な、なんで⁉ 信じてくださいよ~! 私は食い意地の張っている女の子じゃないですって!」

「まあ、そういうことにしておいてあげよう」

「本当にそう思ってますか?」

「思ってる思ってる。うん。ほんとだよ?」

「思ってないじゃないですか‼」


 そんな感じで話していると、エルザが会話に入ってくる。


「あなた達って本当に仲いいわね。私は男の友達ってあんまりいないのよね~」

「え? そうなんですか?」

「そうなのよ。私は若い頃は魔法の研究ばかりやっていたから、男っ気がなくなっちゃってね。冒険者になった後は粗野な男性ばかりで友達になりづらいのよね」

「なるほど……もしかしてビーチに来たのは男探しが目的だったり?」

「あら、分かる? ぶっちゃけるとその通りよ。私ももういい年だから結婚相手を探そうかなと思ってるわ。まあ見つかればの話だけど。そういえば、ミカンさんはもうお相手がいるの?」

「あ、えーっと、いないですね」

「そうなの? じゃあ私と一緒に男探ししに行かない?」

「むむ、そうですね。それもいいかもしれません」


 へぇ。ミカンさんって彼氏とかいないのか。いや、ゲーム内の話かもしれないけれど。というか、彼氏がいたらゲームなんてしていないよなぁ、多分。


「トトローさんもご一緒にどうですか? 一緒に遊んでいたらお相手が見つかるかもしれませんよ?」

「え、あー。そうですね。暇な時に参加させてもらいます」

「うふふふ。わかったわ」


 何が、「うふふふ」なのか分からないが、まあゲームで美女と一緒にビーチ気分というのもいいだろう。別にゲーム内で彼女を作るつもりがあるわけじゃないが。


 そんな感じで、話をしていると、地平線にあった街がはっきり見える大きさにまで近づいてきた。そろそろビーチに到着するだろう。


 俺は新たな街に入るワクワク感を抱きながら、ミカンさん達との会話に興じた。




〇 〇 〇



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第8キャラバンの錬金術師 ~自作のアイテムで行商しながら男女と一匹で気まぐれ旅行~ 日野いるか @Iruka-Hino-Crafts

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