第14話 ここ掘れワフワフ
グランの名前が決まった後は、ミカンさんの作った昼飯を食べる。
今日の昼飯はサンドイッチのようだ。
ミカンさんは美味しそうにサンドイッチをほおばっている。
ちなみにだが、ミカンさんは食べ物が好きと言っても、たくさん食べるわけじゃない。
どちらかと言えば、甘い物や美味しい物が好きなだけで、食べる量自体は普通の女の子と変わらないのだ。
「どうですか? 今日のにんにくとリンゴのサンドイッチ、美味しいですか?」
「なぜそんな組み合わせのサンドイッチを好んで作るのか疑問だけど……意外と美味しいからあえてつっこまないよ」
「おー、やっぱりゲームでも自分で作った物を褒められるとうれしいですね!」
ミカンさんはリアルでも奇妙な食事をしているのだろうか……ちょっと気になるが、リアルの詮索はゲームでは御法度なので、あえて聞くような真似はしない。
そうして二人で話しながら食事を勧めていると、少し遠くにある茂みがカサカサと動いた。
警戒して俺達は立ち上がる。しかし、茂みから出てきたのはグランだった。
「グラン? いつの間にそんな遠くまで行っていたんだ?」
そんな疑問を抱いていると、グランはそのまま俺達の方までやってくる。
そして、俺達の前で「ワフワフ!」と吠えてから、再び茂みの方へと向かった。
「お、おい。どこ行くんだ!」
「グランちゃん、森の中に一人で大丈夫でしょうか?」
「危ないし、俺達も追いかけよう」
「分かりました」
二人でグランの後を追いかけていくと、やがて幅の広い川へとたどり着く。水深の浅い川で、流れも遅い。
そんな川の手前でグランは止まり、追いついた俺達の方を見て「ワフ!」と吠えた。
「いったい何がしたいんだ?」
「なんでしょうね……あ」
「どうしたんだ?」
「いや、あそこ、見てください。何か光っていますよ?」
見ると、川の中にある岩の手前で陽光を反射して強く光る何かがある。
ミカンさんが「取りに行ってみますね」といって、ズボンのすそを捲って川の中を進んでいくと、光る何かを拾い上げる。
「これは……トトローさん! すごいですよ! レア鉱石がたくさん落ちてます!」
「レア鉱石? こんなところに?」
「多分プレイヤーが死んでアイテムボックスの中身が散乱したんじゃないですか?」
「なるほど」
とりあえず、俺も川の中に入ってレア鉱石を一緒に回収する。
一通り回収が終わると、川を出た。
プレイヤーが死んだとするならば、この辺に強力な魔物がいるかもしれないということで、その後俺達は馬車の方へと急いだのだった。
◇ ◇ ◇
結局、鉱物系アイテムのほとんどは俺が貰うことになった。
ミカンさんにとっては換金アイテム以上の価値はないし、お金に困っているわけでもないので、有効活用できる錬金術師の俺が使ってほしいと言われたのである。ただし、「その代わり、美味しいものをたくさんおごってください」と言われたが。
「しかし、これどうするかな」
俺は手元のアイテムを見て、悩む。
ちなみに、今回手に入れたアイテムはこんな感じである。
・アクアストーン×10:明るく鮮明な青色をした石。水属性を帯びており、錬成すると水属性の効果を付与できる。
・フレイムストーン×5:明るく鮮明な赤色をした石。火属性を帯びており、錬成すると火属性の効果を付与できる。
・パワークォーツ:×20:白く透明な色をした結晶。魔力を屈折する効果がある。
・サルファ鉱石×30:黄色く透明な石。様々なアイテムの素材に使える。
・ナイタ鉱石×30:白く透明な石。様々なアイテムの素材に使える。
・金インゴット×5:いわゆる金。貴重品なので換金すると高く売れる。様々なアイテムの素材にもなる。
・銀インゴット×6:いわゆる銀。貴重品なので換金すると高く売れる。様々なアイテムの素材にもなる。
・銅インゴット×20:いわゆる胴。様々なアイテムの素材になる。
・辰砂(しんしゃ)×20:濃い赤色をした鉱石。水銀が取れるアイテム。貴重品なので換金すると高く売れる。
正直かなり貴重なアイテムばかりなので、売ってしまって換金するという手もないことはない。しかし、ミカンさんから「有効活用してほしい」と言われている以上は、錬成に使った方がいいだろう。
問題は、何を作るか、である。
「まずは、攻略サイトで調べてみるか」
俺はメニューから攻略サイトを開き、公開されているアイテムレシピを調べていく。
いくつか分かったのは、これらのアイテムは主に武器やアクセサリーを作るのに用いられているということだった。しかし、どれも熟練度が高くないと作れなかったり、他の貴重なアイテムが必要になる物ばかりであり、俺の今の熟練度で作れるアイテムはほとんどない。
「どうですか?何かつくれそうですか?」
「うーん。公開されているレシピで作れるものはなさそうだね」
「そうですか……あ、でも生産職はレシピを開発するのも醍醐味ですし、公開されているレシピにない組み合わせを試してみてもいいんじゃないですか?」
「せっかくの貴重品で試すのもなぁ」
「前から思っていましたけど、トトローさんってお金に関して慎重ですよね」
「俺自身、貧乏大学生でお金のありがたさが身に染みているからね」
「な、なるほど……でも、ここはゲームなんですから、普段できないことをしてみませんか?」
「うーん。そうだな。試してみるか」
譲ってくれたミカンさんがそういうのだから、試さないわけにもいかないだろう。俺はそう思い、いくつかのアイテムをアイテムボックスから取り出す。攻略サイトを見ながら石材アイテムを錬成陣に放り込み、錬成した。出来上がったのは簡素な形の『かまど』である。
「かまどですか。まだ作ってなかったんですね」
「まあね。『生産道具』があると、使えるレシピの種類が増えるけど、かまどが必要になるようなアイテムは今のところ持ってなかったから作らなかったんだ」
俺は自分の身長の半分ほどの高さのかまどの中に『木材(中)』をたくさん放り込んで、『火打石』を使って火をつける。火が上がったのを確認したら、かまどの前でメニューを操作しアイテムを錬成陣に放り込んでいく。
まず、『辰砂』と『鉄の器』を放り込んで『錬成』を行う。
すると1分程度だろうか。かまどの上でアイテムが光り続けた後その光がやむと、かまどの上には鉄の器に入った『水銀』が現れた。
水銀を鑑定してみると、このように表示される。
・水銀:液体の金属。非常に貴重で高く売れる。様々なアイテムの素材になる。
「かまどで錬成するとこういう感じになるんですね~」
「どんどん錬成していくぞ」
その後、続けて水銀をいくつか作っていき、さらにかまどの上で水銀と金や銀、銅などを錬成していく。
出来上がったアイテムを鑑定するとこのように表示された。
・アマルガム鉱石:水銀と金属の混ざったアイテム。錬成すると特殊な効果がある。
攻略サイトによると、水銀を薬品ではなく鉱物として使用する場合には、この『アマルガム鉱石』というアイテムにしてから使用するのが一般的らしい。というわけで、アマルガム鉱石を最初に作ってみた。混ぜる金属は何でもいいようで、金でも銀でも銅でも作られるアイテムは同じになるようだ。
「で、ここからどういう組み合わせを試すかなんだよなぁ」
「今攻略サイト見ているんですけど、あんまり失敗例は公開されていないみたいですね」
「となると、成功する確率は低そうだな」
レア鉱石を錬成することは、トッププレイヤーともなれば別段難しいことではない。だから彼らは既に様々なパターンの錬成を試しているだろう。だが、その錬成パターンの実験結果を公開するようなことはあまりしない。錬成パターンを公開してしまったら、自分の開発したレシピ(成功例)に近づくことが簡単になってしまうからだ。そのため、失敗したレシピであっても積極的に公開するプレイヤーは少ない。
というわけで、実験サンプルは攻略サイトにもほとんど載っていなかった。
そして、サンプル自体がないのであれば、実験の方針も決めようがない。
「まぁ、当てずっぽうで錬成してみるか」
「それがいいと思います。最悪ロストしてもいいんじゃないですか?」
「そうだな」
確率的にはソシャゲのガチャでピックアップキャラを一発で当てるくらいの確率だろうか。正確な確率は分からないが、そんなものにレアアイテムをつぎ込むというのは現実ならば愚かな行為だろう。
とはいえ、せっかくのゲームなのだから、色々試してみなくては損である。別に失敗してもまたアイテムを買うなり見つけるなりすればいいのだ。
俺はそんな気楽な気持ちでレアアイテム達を錬成していったのだった。
〇 〇 〇
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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