第33話  小説なんて寄席・止せ・よせ 1

 落語研究会が出来てもう十三年近くなりますが、どんなことでも十年以上もやり続けていれば、何とかそれなりにはなるもののようでありまして。

最近では笑いが健康にもたらす良い影響を大いに伝えられておりますから、皆もますます張り切って健康やボケ防止、そして生涯学習の為にと励んでおります。


 しかし、ガンの予防効果や健康に良いからと言っても、それは自分の為にと思うならばいいのですが、そこがわれ等仲間達のことでありますから、「お笑い健康普及大使」にでも任命されたような心持で、笑いの押し売りをしようとなるのであります。


 小千万さんがどのように騙し、いえお願いしたのかされたのかは知りませんが、彼はシルバー人材センターの催し物に、もう何度か寄せ(寄席)て貰うようになりました。 が、それは新しい着物を見せびらかしついでに、新ネタ下ろしの練習をさせて貰っているのでは、と陰で噂されておりまして。


 金ちゃんも親戚の経営する老人ホームで、寄席を開いて貰って話すようになりましたが、こちらも未熟な芸を自覚していれば「寄席」の意味を「止せ」と解釈してもよさそうなものを、彼らにはいつまでたっても、とてもそうとは思えないようでありまして。


 施設の寄席ではこの金ちゃんが、大切なお客にケガをさせるというハプニングがありまして。車椅子と一緒に押している、あの点滴を吊るすスタンドを、ひっくり返させたのですから危ないことでして。

何故そうなったかと言いますと、例によって金ちゃんはあの「真田小僧」を、大勢のお客に喜んで頂きたいばかりに、超オーバーアクションで演じまして。


 お客は身をよじって笑い狂い、その弾みで車椅子が倒れてしまったそうでして。 点滴は外れ膝と腰を打ち、痛い思いをさせてしまったというのに、彼はいつもの調子で

「今晩痛みを感じるようでしたら、私のこと思い出して下さいよ。笑いは少々の痛みなど忘れさせてくれるって言いますから」

 などと己の快感から全く人の痛みを感じなくなってしまったようでして。



 そんな精神ではやはり、寄席に寄せて貰うのは止せ! と言いたいものであります。 しかし、かく言う私にも止せばいいのに、と言われることがありまして。

新聞の投稿欄に、我が研究会のことを書いて出したら二度採用されまして、すっかり気を良くした私は、今度はこの連中をモチーフにして、何か物語りを書いてみたいと考えました。


 たかだか読者の投稿欄に採用されただけのことで、調子に乗る悪い癖はまるで皆と同じではありませんか。でも私の場合は皆と違って決して人様に、無理に読んで貰うということは致しません。犠牲者を多数出さないのですから、誠に良心的と言えるかも知れません。


  

 馬さんを担ぎ上げて会が発足し、今日それなりになるまでのことは、これまでに紹介して来ましたが、そのお話の最後に取って置きのフィクションを付け加え完成致しました。 私が生まれて初めて書いた小説のようなもの、あくまでも「ようなもの」のほんの一部(最終章のみ。そして抜粋です)を強制的にご紹介致しましょう。



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