とばっちりの雑草 3-2

 しかしその時、ンマルが大声で叫びながら、


「させないよー!」


 かぎ爪が装着された右前足を突き出しながら宙を突進していき、ユキコの脇腹にぶつけていく。


 ユキコ@4は辛そうな表情をしながら横に吹っ飛んでいき、


「うぎゃっ!」


「メグム、大丈夫だった!?」


 不安そうな表情を向けるンマル。


 メグムは吹っ飛んでいったユキコからンマルに視線を変えて、


「えっ、あ、うん」


「ほんとうに? 死の感覚は無い?」


「大丈夫だよ。まだ元気」


「ほっ、よかったー」


「それより、ンマルはどうしてここに?」


「あの人とメグムが出かけるのを見かけたから、なんだか気になって追いかけてきちゃった。そうしたら、なんだか仲が良さそうな雰囲気じゃなくなってって」


 一方、ユキコは眉尻を上げながら鋭くさせた目をンマルに向けて、


「痛いだろ、なにしやがるんだ!」


「なにしてるってのは、こっちの台詞だよ! メグムに何で暴力ふるってるの!?」


「はぁ? なんでそんな簡単な疑問をぶつけてきてるわけ? もしかして、頭がすっからかんなのかな? 猫人間キャヒュマンットはみーんなおバカなのかな?」


「そんな分かり切った挑発になんて乗らないよ!」


「あら、そこは理解できるのね。お利口さんな猫ちゃんなこと」


「それはどうでもいいの! どうして、どうしてメグムを襲ってるの!? それに、その姿は?」


 ユキコは眉尻を下げながら小さくうなだれ、長いため息をつき、


「はぁー……。またその質問? メグムにもさっき答えたばっかりなんだけど? 面倒くさいなぁ」


「教えてくれないと、攻撃していい相手なのかどうかの判断ができないから、教えて!」


「ふぅん。本当に私のこと、いえ、私たちの事を知らないようだね? はっ。それよりも、何か理由があったら、暴力を振るったことを見逃してもらえて、攻撃されずに済むのかしら?」


「それは実際に聞いてみないと判断できないよ」


「……メグムさん。私たち、ちょっとおふざけが過ぎただけですよね?」


 照れくさそうにしながら頭を撫でていくユキコ。


 メグムは困惑の表情を作りながら、


「えっと……ユキコさんから優しい雰囲気が消えたのは感じたけど」


「えー? 私、メグムさんのこと大事に思ってますよー? ちょっと思いが強すぎて、行動が過激になっちゃっただけですよー。……こんなふうにねっ!」


 うろたえているメグムに向かって、こぶしを振り上げながら急接近するユキコ。


 メグムは目を見開きながらゆっくり後退していき、


「うわあぁぁっ!?」


 ンマルは怒りを表情ににじませながらユキコに向かって宙を進んでいき、


「だからそれをやめなさーい!」


 ユキコのすぐ近くまで寄ったら、勢いをつけて右足を横に振っていく。


 しかし、ユキコは円を描くようにしなやかに体を回転させながら避けていった。


 そして、ンマルの蹴りは何もない宙を小さな風切かざきり音を鳴らしながら切り裂いていく。


 ンマルは目を見開きながら何もない空を見つめ、


(ミャッ!? 避けられちゃった!?)


 ユキコは体を宙で止め、片方の口角を吊り上げながら、


「ふう、なんだか急に体を動かしたくなっちゃった。あら、今なんか仕掛けてきましたか? ふふ」


「むっ!」


 ンマルは鋭い犬歯を口から覗かせながらユキコを睨めつけていく。


 そして、右手の指それぞれから、可愛らしいけど鋭利な爪を飛び出させ、ユキコに向かって突撃していった。


 それから、ユキコの近くまで寄れたンマルは腕と一緒に爪を立てた手を振り上げていく。


 そして、勢いよくユキコの顔にめがけてとがった爪を振り下ろす。


 一方、ユキコは両手を後ろで組みながら冷たい笑みを浮かべて、軽やかに後退していく。


 ンマルの爪攻撃は何もない空中をむなしく通り過ぎていき、かすかな風切かざきり音をかなでるだけだった。


 ユキコはほうけた表情を浮かべながら、


「あれ? 猫人間キャヒュマンットの方って、会話中に踊る習性でもあるのですか? あっ、すみません。私、そんなことも知らない無知で。もっと勉強しなきゃいけませんよね、ふふ」


「むむっ!」


 メグムは二人の争ってる様子を少し離れた場所からうろたえながら見つめ、


(うわぁっ。争いが始まっちゃったよぉ。どうしよう)


 ンマルは顔をしかめさせながら左手の指から爪を飛び出させる。


 そして、再びユキコに急接近していき、左手を横に振るった。


 ユキコは両手を頭の後ろで組みながら微笑み、後退していく。


 それから、ンマルの爪による斬撃は横に直線を描くように宙をひっかいていった。


 しかし、前回と違う点は、ンマルの眼前には小さな雑草が浮遊している。


 ンマルの放った爪の切り裂きは、浮いていた雑草の葉を切り取っていった。


 ンマルはすぐに表情を固めさせながら雑草を凝視し、


(あっ、しまった!)


 体を引き裂かれた雑草@29は残った葉を揺らしながら、


(ざっぎゃああぁぁ!)


【不動の植物の守護:確率で反撃】


 ンマル@5は辛そうな表情を作り出し、少し前かがみになり、


(うっ! 来たっ、反撃!)


 一方、メグムは慌ただしい様子でンマルを眺め続け、


(あぁ! ンマル何やってんだよ!? こんな時にお腹壊したのか!?)


 また、雑草が葉っぱを揺らしていると、切断された箇所が急速に元通りに修復されていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る