第69話 エピローグ
佐古太郎。
二十六歳。
朝六時に起床し、七時には家を出る。始業の時間を迎えお昼までせっせと働き、同僚や部下と昼食を済ます。そこからまた働き、夜の七時には会社を出る。
一度目の状態から比べると驚くべき進歩である。休みもちゃんとあって、それなりに給料もいい。
ホワイトかどうかはともかく少なくともブラックではない。
今日も今日とて、一日の仕事を終えて帰宅する。毎日が大変で、家に帰る頃にはクタクタなのだが、それでも頑張ろうと思える。
「おかえり、太郎」
以前のような一人暮らし専用のような狭い家ではなく、二人で暮らすための家。
「ただいま、紗理奈」
家に帰れば、迎えてくれる人がいる。それだけで何だってできる気がするのだ。
高校在学中はもちろん、それぞれ違う大学にいっても俺達の関係は続いていた。
俺が他の人に目移りすることを恐れた紗理奈の提案で、大学二年のときに同居を始めた。
どちらかというと不安に思うのは俺のはずなのだが、紗理奈は今でもたまに不安に思うらしい。
この先も一生浮気するつもりはない。というか、相手なんかいない。俺のような男を選んでくれるのは紗理奈くらいだ。
「もうみんな来てるよ」
「早いね……」
今日は高校のときの友達で集まって飲もうという回が開かれていた。定期的に週末に我が家で行われる。
理由は一番広いから。
「遅いわよ、もう始めちゃってるんだから」
既に何杯か飲んでいるのか、大関奏はテンション高めにそう言った。
高校の頃よりも随分と髪が伸びて大人びた。残念ながら胸は育たなかったようだが、性格も含めて俺の知る大人版奏に近づいていた。
「お疲れさま、太郎」
如月真尋。
相変わらずの爽やかイケメンである。ホストでも始めれば確実にナンバーワンを獲得できるような容姿。しかし相変わらずのオタクである。
「ごめんね、みんなが待てないって言うから」
その如月の隣に居座るのは中井美帆。高二の夏休みだったかにアニメのイベントで意気投合してから何だかんだ仲良くなっていつの間にか付き合っていた。
かつて、安東圭介に心酔していた彼女もまた人生を狂わされた一人だったけれど今は幸せそうだ。
「あんたの家に来て、絢瀬さんの料理を食べる度に羨ましく思うわ」
なんてことを言いながら、紗理奈特製のつまみをちびちび口にしているのは高峰円香。
如月と中井がくっついたことと、何だかんだいろいろと関わったことで関係が続いている。
俺と紗理奈、如月と中井がカップルであることから、残された奏とは仲が良い。
今では二人でお出掛けとかしてるらしい。この前は女子旅に行っていたそうだ。
そんなメンツがこうして我が家に集まるのは珍しくない。だいたいいつも俺が一番最後で、帰宅すると始まっているのも恒例とさえ言える。
「羨ましかったら料理上手な彼氏でも見つけたらどうだ」
俺は上着を紗理奈に預けて腰を下ろしながら言い返す。すると高峰はガーンと分かりやすく落ち込みながら隣に座る奏に抱き着いた。
「ちょっと、今の聞いた!? 自分がちょっと幸せだからって、あいつらすぐにマウント取ってくる!!」
「ああ、もう抱き着くな! 服が汚れる!」
めちゃくちゃ仲良くなってやがる。この光景はいつになっても見慣れない。
この二人の学生時代を思い返すと、タイプが違いすぎるんだよ。
「でも、高峰さんも大関さんもどうして彼氏を作らないの?」
不思議そうに言ったのは如月だ。その様子にムッとした顔をしたのは高峰で、苦笑いをするのは奏だ。
「作ってますー。ただ毎度毎度クズ男ばっかりなだけですー」
「キモい男ばっかりだからそういう風に考えられないのよ」
「二人は人を好きになったことあるの?」
ぶーぶーと言い訳をする二人に中井が純粋な質問をする。そりゃ歳も歳なんだし、恋愛くらいしてるだろ。
なんて、していなかった俺が思ってみる。
「……」
「……」
奏と高峰は、どうしてかそんな俺を睨んでいた。まさか思考を読まれた!?
「そりゃないことは」
「ないけど」
二人は複雑そうな顔をしながらそんなことを言う。それを聞いた紗理奈が慌てて俺の隣へやって来た。
「残念でした。この人は私のなので!」
焦りながら早口に紗理奈が言うと、奏と高峰はおかしそうに笑い出す。
「罪な男だね、太郎は」
「佐古のどこがいいのか、私にはわからないわ。イケメンじゃないし」
如月はイケメンですものね。中井は随分と面食いらしい。そういや安東も顔はよかったか。
そんな感じで、楽しい時間はあっという間に終わってしまう。皆が家に帰ってしまえば、さっきまでの騒がしさが嘘のように、家の中は静まり返る。
それがまた寂しさを助長させる。
「片付けはしておくから、お風呂に入ってきたら?」
「ああ、うん」
お言葉に甘えて風呂に入る。
湯船に浸かり、天井を見上げる。
あいつらといると、あの日の出来事を今でも昨日のことのように思い出せる。
もしも、もう一度あの時間に戻り繰り返す機会が与えられたとしても俺はこの未来を願い、求めるだろう。
その気持ちがある限り、きっとタイムリープなんていう摩訶不思議な現象は起きないだろう。
どうしてか、今ならばそう思える。
「……なにをしてるの?」
風呂を済まし、リビングに戻った俺は目の前の光景に思わず顔を引きつらせる。
「……だめ?」
それはもうアダルトの最上級のような下着を装着した紗理奈がリビングで俺を待ち構えていた。
「ダメ、ではないけど」
みんなが来てどんちゃん騒ぎをした日の夜はだいたいこうなる。どうしてかは分からない。
「みんなが悪いんだよ。私を不安にさせるから……だから、安心させて?」
「……分かったよ」
可愛い彼女がこんな格好で誘ってきて、断る男なんてこの世に存在しないだろう。
俺はせっかく着た服を脱ぎながら彼女と唇を重ねた。
盛り上がり、お互いがお互いを求めるように絡み合う。ボルテージが頂点に達しようとしたところで、俺は紗理奈に覆い被さった。
「……ねえ、紗理奈」
「ん?」
「俺、今すごく幸せだよ」
「……うん。私も」
この幸せが、これから先もずっと続けばいいのに。
そんなことを思いながら、俺達は体を重ね合わせた。
――。
――――。
――――――。
吾輩は童貞ではない。
経験は、既に済んでいる。
「……」
そして、俺は今日も目を覚ます。
風俗嬢になった元クラスメイトとセックスしたら高校時代にタイムリープした。 白玉ぜんざい @hu__go
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