曇り空はソファー 短編集

なばれ

ずっと向こう、すぐ側。

「犬を飼ったんだ、そう、犬。犬ってさ、何考えて生きてるんだろ」


「肉とかだよ、多分」


「そんな単純なんだ」


たぶん、その季節は秋だった。僕は閑散とした住宅街を彼女と二人で歩いていた。


時々聞こえる赤ん坊の声は、聞こえないフリをした。

この住宅が、家としての役割を廃棄していることは、とっくに気づいていた。


「あれ、道は? 道がない。なんでだろう」


「…………」


空白だった、その先は。進んでいいものか、分からなかった。窓から拍手喝采が鳴り響く。


「どうか、どうか、死なないように」


「あれ、これって誰が言ったの」


なんだか違いが分からなくなってきた。数の概念、というものが消えかかっている、私は、私は、私は、僕は?


「さそよれうはな嫌らだ」


結局僕は一つになるのかな。私は、それは嫌だと感じる。感じるから、僕も嫌なのかな。

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曇り空はソファー 短編集 なばれ @Abaraya09

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