虹色の光を

「……『古き国』の王都近くは、まだ少し荒れていますね」


 小さな声が、静寂の空間に響く。


「でも、ローレンス卿やリュング師匠が頑張ってくれて、結構落ち着いてきたんですよ」


 先程カレル自身の手で綺麗に磨いた、小さな土地に置かれた小さな石碑に、カレルはにこりと笑った。


 古き国の女王が放った呪いの残滓によってラウドが命を落としてから、二年の月日が経とうとしている。新しき国の新しき王、『統一の獅子王』レーヴェに命じられるまま、カレルはラウドの職務と黎明騎士団を引き継ぎ、騎士団の新しい職務である治安維持に邁進している。そして、新しき国の王都に赴く度に、カレルは、王宮の北西にひっそりと設えられた、戦いに散った騎士達を葬る墓地を訪れ、騎士団の成果をラウドの墓に報告していた。


「相変わらずだな」


 横柄な声に、顔を上げる。新しき国の騎士の服装をした獅子王レーヴェが、地面に跪いたカレルを見下ろして微笑んでいるのが、見えた。


「俺よりもラウドへの報告が先か」


「騎士団長はラウド様ですから」


 カレルを見据える蒼い瞳に、はっきりと答える。カレルの回答に、レーヴェは大きく笑った。


「好きにしろ」


 その言葉を残して去って行くレーヴェの、震えているように見える背に、淋しく笑う。ラウドが、レーヴェの身代わりとして古き国の女王の呪いを受け続けていたことと、そのことをレーヴェに黙っていたこと。ラウドの死後、その事実をレギから告げられた後も、レーヴェは秘密の共有者であったカレルを責めなかった。ただ黙って頷いただけ。レギはカレルにそう言った。それでも、レーヴェの悲しみは、分かるつもりだ。去って行く背に、カレルは小さくお辞儀をした。そして。


「そうだ。……行ったんですよ、海を見に」


 幼い頃、レーヴェに話を聞いてから、ラウドがずっと憧れていた、場所に。腰に配したポーチから、小さな包みを取り出す。包みを解くと、陽の光を様々に跳ね返す小さな欠片が、カレルの目の前に現れた。異国のことを知る為に好奇心とともに立ち寄った港傍の海岸で、ミトやリュング達と探し回って、やっと一つ見つけた、真珠貝の欠片。その小さな破片を、カレルはラウドの墓石に立てかけるように置いた。


 きらきらと、虹色に光る欠片に、もう一度目を細める。


 ありがとう、カレル。聞こえないはずのラウドの声に、カレルは微笑もうとして、小さな嗚咽を漏らした。

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夜明けの騎士団 ―獅子の傍系 if― 風城国子智 @sxisato

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