『ウンディーネさんと良い報告と悪い報告 ①』

 わたしが聖なる森ホーリーフォレストの領主さんになったことを、ティーニヤさんはとても驚いていました。


 ですが、その経緯を説明してる途中で、さらにショッキングなお話を聞くことになったのです。


 その内容というのが……。


「お、お姉様がワイバーン様の討伐を指示しましたの? しかも、その事が原因でバハムート様の逆鱗に触れたと……まさか、そこまで愚かだったとは……言葉になりませんわ」


 ティーニヤさんのお姉さんのことでした。


 まあ、当然ですよね。

 お母様は違いますが、姉妹なワケですし。


 そのお姉さんが、王都を危機に陥れたのです。

 ティーニヤさんの受けたショックは、計り知れないものだったと思います。


 現にティーニヤさんのお顔は真っ青になってますから。


 そんなティーニヤさんに向かって、エイシアさんが口を開きました。


「そのくらい必死だったってことでしょ? ワイバーンの魔石があれば、アルヴェリッヒ様を救えると思ったんだから。でも……私は正直驚いたよ。あの我儘で身勝手なコヴィルダ様が、アルヴェリッヒ様の為にそこまでするんだってね」


「それは、わたくしも思いましたわ。お父様が呪われた後も、悪びれる様子など一切見せずにいましたもの。むしろ、あの日を境にお姉様は周囲に当たり散らす様になりましたわ。あのような振る舞いをしていたというのに……お姉様が何を考えていらっしゃるのか、わたくしには理解できませんわ」


 エイシアさんとティーニヤさんは、お互いに首を傾げます。


 でもわたしは、お二人とは違う意味で首を傾げていました。


「そうですか? なんとなくですけど……わたしはお姉さんの行動が理解できますよ??」


「ディーネさん。それは……本当ですの?」


「断言はできませんよ? あくまでわたしの経験上、こうじゃないかなあ……って、程度のお話です」


「それでも構いませんから、教えて下さいな」


 真剣な表情で詰め寄ってくる、ティーニヤさん。


 そんなに大層なお話でもないんですけどね。

 わたしの周りで、これに似たケースを何度が目撃しただけですし。


 まあ、ティーニヤさんが知りたいと言うのなら、お答えするしかありません。


「恐らく……ティーニヤさんのお父様がブリザードドラゴンさんのブレスで呪われてしまった時。お姉さんは、とんでもないことをしてしまった……と頭では、わかっていたと思いますよ? でもそれを口にすることはできずにいた。お姉さんの性格からして、プライドが邪魔をしたのでしょうね。一応確認しておきたいんですけど、お姉さんは甘やかされて育っていませんか?」


 わたしの言葉に、ティーニヤさんは小さく頷きます。

 どこか苦笑いを浮かべながら。


「ええ。お父様は側室の子であるわたくしも平等に接してくれまけど……正室お母様は、お姉様を溺愛してましたわね。間違った事をしても、怒ったりなどしませんでしたわ」


 でしょうね。

 そんな気がしてました。


「甘やかされて育ってしまうと、悪いことをしても謝れなくなったりするんですよ。でも……事が大きければ話は別です。ましてや、自分が原因でお父様を苦しめることになったのですから、今までにないストレスを感じていたと思います。周囲に当たり散らしていたのは、それが原因でしょうね。ですが、そうしたところで罪悪感は拭えません。そこで自分でどうにかしようと考え、ワイバーンさんの命を狙った。そんな感じじゃないですか?」


 あれは二年ほど前のことでしたね。

 同じ病室に、二十歳くらいの女性が入院してきたのです。


 その女性はとにかく我儘で、いつもお母様を困らせていました。


 ある日、お母様が持ってきた着替えが気に入らなかったらしく。

 取り換えてくるよう厳しく言い放ったことがあるんですよね。


 ですが、その帰り道……お母様は交通事故に遭われてしまったのです。

 幸い一命を取り留めましたが、二度と歩くことができない体になってしまいました。


 お母様が入院している間は、お父様がお見舞いに来てたんですけど……。

 そこで親子喧嘩が始まっちゃったんですよね。


『お前が我儘を言うから、母さんは事故に遭ったんだ! 少しは反省しろ!!』


『あたしは悪くない! あんなダサい着替えを持ってきた、母さんが悪いのっ!!』


 みたいな感じで……。


 お父様、ロビーで電話越しに嘆いてましたよ。


『一人娘だからと言って、甘やかせすぎてしまった』……と。


 電話の相手は、お母様だったのでしょうね。


 結局その女性は退院するまで態度を変えることはありませんでした。


 ですが、その数か月後。

 外来でお見掛けした時。


 その女性は我儘なことを一切言わず、お母様の車椅子を押していたのです。


 あの瞬間、わたしは思いましたね。


 我儘な性格も、事の大きさ次第でこんなにも変わるのだと……。


 ティーニヤさんのお姉さんも、その女性と同じだったのではないでしょうか?

 わたしはそんな気がしています。


 ところで、さっきから妙に静かなんですけど……。


「ティーニヤさん。わたし……おかしなことを言ってました?」


「い、いえ……全く。あまりに見事なお話に、呆然としてましたの。ディーネさんは色んな経験をしてますのね」


「育った環境が特殊ですからね。それよりも……お兄さんに報告しなくて良いんですか? お姉さんのこと」


「すぐにでも報告しないといけませんわね。可能であれば直接お兄様とお話したいですわ」


「なら……明日行きませんか? わたしも別件で、アルファルムンに用事がありますから」


 そう答えたわたしの脳裏には、ある女の子の姿が浮かんでました。


 お姉さんの件は悪い報告になりそうですが……。

 こちらは良い報告ができそうです。

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辺境のウンディーネさん みずのひかり @hikari_mizno

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