第2話 誘われて、島

「お前からの呼び出しっていうのは珍しいな。明日は雪かもな」

 扇風機の首ふりを止めて、自分に当たる様に調整すると袈裟丸耕平は言った。

「んなわけねぇだろ。夏だぞ」

「だからだよ」

 居石要がテーブルに置いてくれた缶ビールを、いただきます、と丁寧に言ってからプルトップを開ける。

 炭酸ガスの抜ける音が心地よく感じた。

 研究室でプログラミングをしていたところ、スマートフォンに居石から誘いのメールが届いた。

 夜の十九時を回っていたが、普段から日付が変わるまで研究室に居残っている袈裟丸からすれば、まだ序の口の時間帯だった。

 断る理由もなく、また人を誘うことも珍しかったことから、その誘いに乗ることにした。

 自宅で、ということだったので、今やっている作業を切りの良い所まで終わらせる時間と、自転車で居石の下宿のマンションまで向かう時間を予測して返事を送る。

 ほぼ時間通りに家のベルを鳴らすことができた。

 部屋に入るとすぐ脇の台所で居石は料理をしていた。たまに自炊をするとは聞いたことはあったが、その姿を見たのは初めてだった。

「何作ってんの?」

 缶ビールを半分ほど飲み、袈裟丸は居石の背中に尋ねた。

 包丁の音とフライパンで炒めている音が心地よい。

 タンクトップにハーフパンツという格好で、これにアロハを着用すればいつもの居石の姿になる。

 居石は夏でも冬でもアロハにハーフパンツ、そしてビーチサンダルを履いている。

 本人はこれが動きやすいから、と言っているが、本心は袈裟丸でもわからない。

「せっかく来てもらうんだからな。料理の一つ二つでも振る舞ってやろう、とな」

 ふーん、と言って、Tシャツの裾を掴んで体に風を送る。

 気がつけばエアコンは動いていた。

 室内に入った時に扇風機が首を振っていたことから、設定温度は高くしておいて、冷たい空気を室内に循環させていたのだろうと推測する。

 そんな目的だったであろう居石に、悪い気がして、扇風機を首ふりに戻すと、元あった場所に戻した。

 居石がドタドタと大きな足音を立ててリビング兼寝室に入ってきた。

 大皿をテーブルの上に置く。袈裟丸もビール缶を横にどけた。

「おお、美味そう。何これ?タコ?」

「おお良く分かったな」

「馬鹿にしてんだろ。ぶつ切りのタコぐらいはわかるわ」

「水菜を切って皿に敷いた上に、タコのぶつ切りを並べただけだよ」

「ソースかかってる?」

「そう、オリーブオイルでニンニクのみじん切りを揚げて、醤油で味付けしたものを掛けてんだよ。食ってみ」

 居石から箸を受け取ると一切れ口に入れる。

「美味しいじゃないか…。お前こんなもん作れるのか…」

 次も楽しみにしてろよ、と言うと居石は台所に戻って行った。

 もう一切れ口に頬張るとビールで流し込む。

 まさかこんな料理にありつけるとは思わなかった。

 それから十分ほどで二品テーブルに並んだ。

 同時に居石も袈裟丸の向かいに座って発泡酒を開ける。

 無言で缶を突き合わせると、それぞれ一口飲む。

 残りの二品は、豚バラと玉ねぎ、そして茄子を生姜焼き風にしたメインの品と、だし巻き卵だった。

「こんなんいつも作ってんの?」

「コンビニ弁当や外食だと飽きるからな」

「酒だけ飲めば生きていけるんじゃないのか?」

「人を何だと思ってんだよ。そこまで呑んべえじゃねぇぞ」

「土も外にあったぞ」

「殴るぞ」

 居石は少々特殊な特技がある。

 土を口に含むと、その組成がわかるのである。どれくらいの粒径の粒がどれくらいあるかといったことや、成分である。

 居石と袈裟丸はともにR大学土木工学科の大学院に所属しており、居石は地盤工学、袈裟丸は地球環境工学というGPSやセンサを使った測量分野の研究室である。

 そのため、居石の特技はそれなりに彼を助けている。

 それにも関わらず、居石はそれを弄られるのを良しとしない。

 それぞれの研究室の愚痴を聞きながら缶ビールを二本空け、テーブルの上の料理も寂しくなってきたところでハイボールに切り替えることになった。

 再び台所に向かってハイボールの準備をしている居石に袈裟丸は問いかける。

「なあ、それで今日はなんなの?」

 おう、と言うと居石はコップと氷をお盆に乗せて、片手にウィスキのボトルを携えて戻ってきた。

 袈裟丸はハイボールの準備をしている居石を黙って見ていた。

 体格の良い居石が丁寧にハイボールを作っているのは、見ごたえがあった。

 仲間内で飲みに行く時は他に気が利く人間がいるため、居石がこういったことをするのは珍しかったからである。

「ほい」

「サンキュ」

 渡されたグラスから一口喉に流し込む。

「バイトしねぇか?」

「は?」

 唐突な話で、ほろ酔いだった袈裟丸は変な声を上げた。

「どういうこと?」

 グラスの液体を半分ほど飲み干すと居石は腕で口元を拭いた。

「塗師から連絡がきた」

「ああ…ああ…」

 袈裟丸は頭を掻く。

「面倒臭そうだな」

 袈裟丸の発言を真顔で聞きながらグラスを飲み干した居石は、直ちに二杯目を作りにかかる。

 便利屋だという塗師明宏からバイトを頼まれるのは初めてではない。

 二人の同期、古見澤雄也の知り合いだという塗師は、人手が足りない時、古見澤経由で人を探すことがあるらしい。

「連絡は古見澤から?」

 二人は塗師の連絡先を知らない。

 塗師から連絡がある時は古見澤経由で連絡がくる。塗師が頼みやすいのか、頻繁に連絡先を教えたくないのか、どちらかは分からない。

 後者だとしたら、商売人として失格ではないかと袈裟丸は思う。

「言わずもがな、ってやつだな」

「あの人からのバイトって面倒臭いんだよな」

「この前はマンションやら家やらの給水塔にわけわからんフィルタを付けろって言われたな」

「同期総出で取り付けたやつな」

 浄水用のフィルタということだが、実際はどうかわからない。それでも一週間拘束されてびっくりするほどのバイト代を貰った。

「金が良いから、強く否定できねぇのが学生の辛い所だよなぁ」

「万年、金がないのはお前だろ」

 とは言いながら、魅力的なのは間違いない。

 グラスを傾けていた袈裟丸の動きが止まる。

 テーブルの上の残り物の皿を眺める。

「お前…やったな?」

 居石は何も答えない

 万年お金がないと言っている居石がこうした料理を提供できる理由に早く気が付くべきだった。すっかりと堪能していた袈裟丸はやってしまった、という後悔よりも、居石に騙されたという気持ちが強かった。

「もうバイト代の前金貰ってるだろう」

「おう。だからこうしてお前にも振る舞ってるんだよ。塗師がそうしろってさ」

 二人のどちらに依頼をすればうまく進むかということを良く分かっている。

 計算高いというか、居石が馬鹿というか。

「あのな…お前、素直に言えよ。何か騙された気分だよ」

「俺がこういうことすればお前は喜ぶって塗師が言ってたんだよ」

 確かに美味しかったのでそこは否定しない。

「だからと言って…。というかお前、こういうことしたらバイト断れないだろう?」

「おう、快く仕事受けたぞ。お前もやるだろ?」

 居石の笑顔に怒りがこみ上げるが、抑える。

 居石に怒ったところで前には進まない。

「聞いてなかったけれど、仕事は何?」

 おう、というと居石はスマートフォンを取り出して操作する。

「えっとな。S県の月…月神島っていうのかな、これ。そこにある民宿で働いてくれって」

「まともじゃないか」

「まともだよ。まともじゃないバイトなんてねぇだろう」

 前回のバイトもまともなものだと思っているのかと一瞬頭を過る。

「民宿で働けってそれだけか?」

「古見澤はそれだけしか言ってないな」

 もうここまで来れば働きに行かざるを得ないのだろうと腹を括る。

 もう飲み食いしてしまったのだから仕方がない。

「いつから?」

「お、働く気になったか」

 居石の笑顔に苛立つ。鼻の穴にタコでも詰めてやろうかと思うが、皿の上は綺麗に片付いている。

 命拾いしたな、と頭の中で呟く。

「明後日からだ。準備する時間もあるだろ?」

「まあ、大学は夏休みだから問題はないけど…」

「海だぞ?夏だぞ?泳ぐだろう?」

「最低な三段論法だな。俺はそんなに海とか得意じゃない」

「水着持って来いよ。絶対楽しいって。夏の島で海で住み込みで民宿だぞ」

「名詞を並べただけでテンションを上げるな。子供かよ。まあ子供か」

「心はいつでも四歳児だ」

「そういう言い回しってもう少し年齢上だろ。永遠の十七歳とか」

「十七歳は思い出したくない」

 笑顔が瞬時に真顔になる。

「何があったか気になるって…。しかもその表情だったら聞くに聞けないだろう」

「まあどうでもいいから、お前もどうせ、しばらく海に行ってないだろう?三人で楽しもうぜ」

「腹立つ言い方だけど、当たっているから言い返せねぇ…。ん?ちょっと待て…三人って言ったか?」

「おう。俺と、お前と、古見澤」

 握り拳の状態で小指、薬指、中指と指を立てる。

 カウントの仕方に癖があるが、指摘はしない。

「古見澤も来るのか…」

「楽しそうだろ。あいつもお前も色白だからな。しっかり肌焼けよ。俺みたいに健康的になるぞ」

「お前みたいになるんじゃあ、部屋に籠っているよ」

 違げぇねぇ、と言って何杯目かのハイボールを飲み干す。

 皮肉も通じなくなって来たら、酔い始めの証拠である。

 これ以上、愚痴愚痴言っても仕方がない。

 こちらも特に予定があるわけでもない。

 高額な報酬を楽しみにする、という方向に気持ちを変換するのが最善である。

 居石と付き合っていると、そういう能力が飛躍的に向上する。

「そんじゃあ、海行きますか」

「いいねぇ。それでこそ…それでこそだ」

 もういい感じに出来上がっている居石は再び台所へと向かった。

 グラスに付着している水滴が、グラスを持ち上げると袈裟丸の太腿に落ちる。

 袈裟丸は、こういう場面で季節を感じるが、たまには直接感じに行くのも悪くないだろうと思い込むことにした。

「よし、明日は休日だから、飲むぞ」

 居石はウィスキの瓶とアイスペールを持って戻ってきた。

「明日は平日だぞ」

「え?嘘だろう?」

 卓上カレンダをつかみ取って確認する。

「あ、去年のやつだ」

「お前良く世間について行ってるよな」

「おかしいな…これでうまくやれてたんだけれど」

「絶対嘘だろ」

 休日も平日も関係なく、二人の大学院生はグラスを傾けた。



 二日後、袈裟丸と居石はS県H市月神町にある月神駅に立っていた。

 丁度昼時だったので昼食を摂ろうということになった。

「すんません、ここらへんで有名な食べ物ってありますか?」

 居石はボストンバッグを肩に掛けて駅員に尋ねる。

 その後ろでキャリーバックの引手に僅かに体重をかけてスマートフォンを弄りながら袈裟丸も耳を傾ける。

「有名なもん…ないなぁ…」

「腹減ってるんすよね」

「駅前にココイチがあるよ。あとガスト」

 駅員の指差す方には確かに馴染のある黄色い看板と赤い看板がある。

「あーそういうのは地元でも食えるんすよね…」

「あとはそうだな…ホームの立食い蕎麦かな」

「立食い…蕎麦っすか…」

「うん。汁が透明でね。具材がネギだけなんだよ」

 居石は袈裟丸の方を振り向く。

「なあ、意識高い系の立食い蕎麦しかないみたいだけどどうする?」

「いいんじゃない?他にはなさそうだし…」

 袈裟丸はスマートフォンから顔を上げる。

「民宿に行く間に買い食いするだろ」

 確かにな、と居石は呟く。

 駅員に礼を言うと、ホームの端にひっそりと建っている立食い蕎麦屋の暖簾をくぐる。

 店内は綺麗に掃除がされていて、商売する気があるのかわからない立地以外は好感が持てた。

 メニューも一つしかなく、有無を言わさないところに意識の高さが伺える。

「月神蕎麦…」

 店主は二人が入ってきた段階で蕎麦をお湯に入れていた。冷やかしだけだったらどうするつもりなのか。トラブルが絶えないのかもしれないと想像する。

 店主と言葉を交わすこともなく、直ちに蕎麦が目の前に置かれる。

 二人は顔を見合わせて、黙って箸を取り、蕎麦を啜る。

 見た目に反して味がしっかりしているが、あっさりとした後味に二人共驚いた。

 蕎麦粉の配分も考えられているのだろうと、袈裟丸は感じた。

 無言で啜っていると居石が口を開く。

「さっきからスマホ気にしてんのなんで?彼女?」

「わざと言ってる?」

「あ…すまん。今まで彼女がいたことなかったな…」

 居石は悲しそうな顔になる。

「しっかり声に出してくれてありがとう。おかげで店長も肩を震わせてるよ」

 二人に背を向けていた立食い蕎麦屋の店長が肩を震わせている。

「天気調べてたんだよ」

「天気?」

「台風近づいているだろ?どんなもんかなって」

「大丈夫だろ」

 居石は店の入り口の方に身体を伸ばすようにして空を見上げた。

「うちの親父がな、台風の時に仕事とかで出歩くのは馬鹿だって言ってたんだよ」

 ふーん、という居石は蕎麦を食べ終わっていた。

「それこそ、土木関連で働いている人とか…自衛隊の人とかは、そういう災害の時にこそ活動してたりすんじゃねぇのか?」

 袈裟丸の箸が止まる。居石の言葉に納得したからである。

「まあそうだけどな。どちらにせよ調べておいて損はないだろ。それより」

 袈裟丸は最後に残った蕎麦を汁とともに飲み干した。

「古見澤は?」

 ん、と居石は言うと、セルフサービスで汲んできた水を一口飲んだ。

「なんか遅れるってさ」

「このバイトあいつから誘ってきたんだよな」

「急に研究の打ち合わせが入ったっていうんだから、しゃあないだろ」

「急に入るか?」

「あそこの先生も現地に飛び回ってるからな。仕方ないんじゃないか。空いている時間に打ち合わせするしかないんじゃない」

 そこは大学院生である。

 指導教員から打ち合わせをすると言われれば、ある程度予定は融通するものである。ましてや真面目な古見澤であれば尚更だろう。

「じゃあ、遅れてくるんだな」

「おう、でも電車下りる時くらいに連絡あって、もう電車乗ったって言ってるからすぐに追いつくんじゃねぇかな」

 二人でどんぶりをカウンタに上げると、ご馳走様と言って料金を支払った。

 店を出る時に店長から、がんばってな、と袈裟丸は声をかけられた。

「何を頑張れば良いんだろうな」

「彼女作れってことじゃねぇか?」

 店を出てヘラヘラと笑って言った袈裟丸だったが、居石の切り返しに黙った。

 二人は再び改札に向かって外に出る。

 駅前はタクシーやバスの停留所があるロータリーになっており、その奥には恐らくメインの通りだと思われる大通りが伸びていた。

 居石はキョロキョロと子供の様に周囲を見渡す。

「このまま真直ぐ行けば海だな」

 まあそうだろうなと思った袈裟丸だったが、あえて聞いてみることにした。

「何でそう思うんだ?」

「匂いが…海の臭いがこっちからしている」

「お前は犬か?」

 そうは言ったが、確かに空気の中に僅かに潮の香りがしていた。それと共に雨の臭いも僅かにしていた。

「せっかくだから歩いて行くか?」

 海の香りにテンションが上がったのか、居石は無謀な事を言う。

「時間かかるだろ。海沿いまではバスで行こう。島の中は公共交通機関が無いからそこは好きなだけ歩くことになるんだから」

 夏を感じようぜ、と居石が文句を言っているのを無視して袈裟丸はバス停に向かう。

 世間的には夏休みになっている。

 その割には人が少ないと感じるのは、観光地ではないからなのかと袈裟丸は考える。

 夏はいいねぇ、と何度も言う居石を無視していると、バスがロータリーに入ってきた。

 バスは、大通りを真直ぐに進み。海岸沿いを走る道路に向かう。

 十五分ほど走ると、海沿いを走る道が見えてきた。

「おい、耕平、海だぞ」

「子供みたいにはしゃぐなよ。何歳だ」

「心は…」

「分かった。もういい。お腹一杯だ」

「蕎麦食い過ぎたのか?」

 居石を無視することに決めて、降車ボタンを押す。

 すぐ脇にある窓ガラスに小さな水滴がついていることに気が付いた。

「雨降り始めているのかもな」

「マジかよ。せっかくのサマーバカンスなのに…」

「一応働きに来ているんだからバカンスじゃないだろ」

「何言ってんだよ。ひと夏の思い出を作りに来たんだろう。夏の浜辺、花火、飛び散る汗、焼けた肌を重なり合わせ…」

「それ以上言うなよ。聞いているこっちが恥ずかしくなる」

「ったく、これだから…。日本人はダメだな。素敵な出会いを期待しろ」

「お前も純粋な日本人だろ」

 バスが停車すると二人は席を立ってバスを降りる。

 バスは駅前からの大通りと、海岸線を沿って走る国道の合流点で停車した。

 降りると、顔に小さな雨粒が当たる。風も強くなってきた。

「海だー。いいねー」

 居石は意に介さず満足げに微笑んでいる。

 降車したバスはそのまま海沿いの道を進んで行った。

 一番うるさい居石が満足しているなら良いかと、袈裟丸は思う。

「お、あれだな。あれが月神島だ」

 居石が指差す先に、島がある。ここからではその大きさを実感できないが、子供の頃に家族で言った江の島くらいの大きさだろうと推測する。

 島の中央付近から白い鉄塔が三つ飛び出すように天に向かって生えている。その頂点に当たる部分が他の所よりも太くなっていて、袈裟丸が立っている位置からでも鉄塔部分を軸に回転しているように見える。

 その白い鉄塔は高さが異なっていて、真ん中が最も高く、右が少し低い。左が三本の中では最も低い。

 あれが何なのか、袈裟丸には分らなかった。

 島からは橋が伸びていて、海沿いの道路に接続されている。

 駅前の大通りの延長線上に橋があるので、海沿いの道路によって道が寸断されているような感覚になる。

「江の島みてぇだな」

 居石も同じ感覚だったようだが、皮肉を言っているわけではないのは、満面の笑みが物語っている。

 二人は横断歩道を使って反対側に渡る。

 居石が途中で走り出して、ガードレールから海岸を覗く。

「海じゃねぇか」

 最早語彙力が厳しいことになっているが指摘するのは粋ではないのかもしれないと思い、純粋に夏を楽しもうとしている同期を温かく見守ることにした。

「人…いないな」

 袈裟丸も隣に立って風景を共有する。

「まあ、今日は寒そうだしな。これから湧いて出てくるんだよ」

「人を虫みたいに例えるな」

 しかし、これから台風が来るという先程の会話を覚えていないのだろうか、目前の海はどんよりとした鈍い色をしていた。

 視線を島に続く橋に移す。

 五径間の道路橋で斜張橋ではないから鉄骨だろうと推測する。

 中央に二車線の車道があり、その脇に歩道があるシンプルな構造だった。観光地などにありがちな欄干にデザインがしつらえてあるといったこともなく、ただ機能性を重視した作りである。

 じっくりと観察していた袈裟丸の後方で自動車のブレーキ音がする。

 その音に二人共振り向く。

「あんたら、バイトの人?」

 助手席のウィンドウが下がり、運転席から覗き込むように男性が顔を覗かせる。

 口髭に縮れた髪の毛が顎の所まで伸びている。

 二人は顔を見合わせる。

「はい…そうです」

 袈裟丸は恐る恐る答える。

「じゃあ、後ろ、乗って」

 それだけ言うと顔を戻した。袈裟丸は少し空いている窓に近寄る。

「えっと…バイト先の方…ですか?」

「え?そうだけど?ああ、そうか。知らんわな。月神荘の神野だ。聞いてないか?」

 袈裟丸は心当たりがあった。居石から聞いていたバイト先の名前と責任者の名前だった。

「聞いてます。よろしくです」

 居石は後部座席のドアを開けて乗り込んでいる。

 うんざりとした顔をして袈裟丸もそれに続く。

「出すぞい」

 袈裟丸が後部座席のドアを閉める前に車は動き出した。

「ちょ…神野さん、危ないですよ」

 辛うじてドアを閉めた袈裟丸は言う。

「ん?そうか。まあ、何とかなるだろ」

「このおっちゃん面白れぇな」

「お前はちょっと黙ってろ」

 袈裟丸はトランクに入れてもらえなかったキャリーケースの場所を作ってしっかり座る。

「あの…聞きたいんですけれど…」

「何?」

 車は左折して橋を渡っている。次第に月神島が近くなってくる。

「何で俺たちの事、バイトだと思ったんですか?」

 他に人がいたわけではないが、ただの旅行者だと見ることも可能である。

「え?ああ、図体のでかいアロハの男と、その隣にパッとしない特徴の無い眼鏡の男がいたら、バイトの人間だって聞いてたんだよ」

 まさしく袈裟丸と居石の事である。

「誰が言ってたんですか?」

「便利屋だよ」

「塗師さん…ですか…」

「言ってたのはアロハの方だけだったけれどな。あんたのことは俺が今作った」

「俺、このおっちゃんと仲良くなれるな」

「こっちがお前と仲良くなりたくないかもしれねぇぞ」

 神野と居石は二人で笑った。袈裟丸は背中をシートに預けて車内で天を仰いだ。

 運転中でなければ、頭ぐらい叩いていたかもしれないな、と思い、自分がそんなことできない人間だとすぐに思い直して悶々とする。

「おっちゃん、この橋は何ていう名前っすか?」

 心の距離を詰めている居石が軽々しく尋ねる。

「月神橋」

「シンプルっすね」

「なんでもシンプルが良いんだよ」

 ガハハと笑う神野につられて居石も笑う。

 どうやら居石にとって素敵な出会いが訪れたらしい。

「ん?」

 神野の顔が渋い表情に変わるのを袈裟丸はバックミラー越しに見る。

「なんすか?」

「将太だな…何してんだあいつ」

 神野の視線の先には右手の歩道を歩く男性がいた。

 台車に段ボールを積んで町の方に向かって歩いている。

 すぐに通り過ぎたが、自分たちよりは年上だが神野よりは年下の様に見えた。

「知り合いですか?」

 袈裟丸が言い終わる頃には将太は後方に過ぎ去っていた。

「島の人間なんだけどな…おかしいな今の時間寄合じゃねぇか。全員参加だっつって何度も念押ししてんのに。だからあいつはダメなんだよ」

 神野は後方から車が来ないことを確認すると、橋の途中で車を停めた。あと百メートルもすれば島に上陸できる距離である

 車から降りずに神野は運転席のウィンドウを下げて、顔を出す。

「おい、将太。お前ぇ何やってんだ」

 大声で呼びかけるが、将太の歩みは止まらない。

 二人も後部座席から振り向いてそれを見ていた。

 将太は少し歩くと、台車を持ったまま走り出した。

「あ、あいつ逃げ出しやがった。ったく」

 神野が車を降りようとしたその時。

 強烈な音が響き渡った。

 咄嗟に二人は身を竦める。

 運転席の神野も助手席に倒れるくらいの衝撃だった。

 何が起こったか袈裟丸は把握できずにいた。

 後部座席から見てみるが、大きな粉塵と煙が舞っている。

 リアウィンドウにも粉塵が貼りついている。

 先程までのリアウィンドウ越しの視界から判断すれば、一瞬で粉塵が飛散したということである。

 その粉塵の隙間から、僅かに炎も見えた。

 咄嗟に二人は車を降りる。

 居石が将太の方に走り出す。

「要、ちょっと待て」

 振り向いた要の表情は驚愕と怒りが混じった複雑なものだった。

 袈裟丸は声をかけてから、ガードレールを乗り越えて歩道から下を確認する。

 船などは浮かんでいなかったが、海の方にも粉塵や瓦礫が落ちている。

 煙がこちらにも流れてきて少し咳き込む。

 神野も降りてきて立ちすくんでいた。

 待ったをかけられた居石は袈裟丸が振り向くのを確認すると、再び将太の方に走り出す。

 その頃には粉塵も煙も落ち着いていた。

 まだ動けないでいる神野を一瞥した後、袈裟丸は居石の後を追った。

「要、あんま近づくな」

 まだ走っている居石は片手をあげて了解の意を伝えた。

 居石が立ち止まったので袈裟丸もその横に立つ。

 台風接近による強風のため、視界が晴れるのが早かった。

 爆破した位置は五径間ある橋の中央から僅かに島よりの位置で、長さにして十メートルほど欠損していた。

 二人はさらにそこから十メートル離れた所に立っている。橋の断面から伸びて垂れ下がった数本のケーブルから火花が散っている。

 袈裟丸はさっきまで橋があった空間を見つめていたが、居石は首を振って何かを探していた。

「将太さん…いねぇよ」

 状況から考えれば、居石の発言に対する返答は決まっているが、袈裟丸は何も言えなかった。

「こりゃ…なんだ…」

 後ろから来た神野も口に手を当てて言った。黒々と日焼けした肌だったことに袈裟丸は今気が付いた。

「なんなんだ…これ」

 それは二人に向けられたものだった。

「わかりませんけど…多分…爆発…」

 袈裟丸はそれだけしか言えなかった。

 後部座席からの風景を袈裟丸は思い出していた。

 神野が運転席から降りて声をかけた途端、確かに、将太が台車を押していた辺りから一瞬で衝撃が訪れて、粉塵と煙が上がった。

 思い出せば車や体にも衝撃を振動として受け取ったように感じる。

 間違いなく爆破が起きたのだろうと袈裟丸は思う。

 しかし。

 何が爆破したのだろうか。

 第一候補は将太が台車に乗せて押していた荷物である。

 一辺が五十センチ程度の箱。

 だとしたら、なぜ将太はそんなものを運んでいたのか。

 神野の話からすれば、島では全員参加の寄合が開かれていたのだということである。

 それをすっぽかしてまで運ばなければならない荷物。

 見渡す範囲に台車は存在しない。

 小雨が顔を濡らす。

 目が染みるのは汗か埃かわからない。

「将太…将太は?」

 神野が動揺しながらも周囲を探している。

「この状況では…もう…」

 袈裟丸は神野に強めに言う。

 視界に入った居石は強く歯を食いしばっていた。

 神野は嗚咽かため息かわからない音を口から発した。

 町側の方の橋にも誰も歩いていない。

 そちらに将太がいる可能性もない。

 万が一、海に落ちた場合も考えられるが、荒れている海である。

 助かっている確率は低いだろうと袈裟丸は思う。

「おっちゃん、まず島に行こう」

 居石が神野の肩に手を置いて言った。低く、穏やかな声だった。

 神野は泣いているわけではなかったが、目に見えて狼狽していた。

「ああ、そうだな。とりあえず報告して…警察かな」

 居石の手を払いのけることなく、力なく車に戻って行く神野の背中を、二人は不安げな表情で見送った。



 月神町


 黒いリュックを肩から下げて古見澤雄也は電車を降りた。

 ポケットを弄って切符を取り出して改札へと向かう。

 ふと思い立ち、スマートフォンを取り出す。

 居石へ到着のメッセージを送ろうとアドレスを呼び出すが、五秒ほど動きが止まる。

 再びスマートフォンを鞄にしまい込んだ古見澤は改札へとテクテクと歩く。

 改札を抜ける前に駅員を探す。

 改札付近で立っていた駅員を見つけて近寄る。

「あの、お聞きしたいことがあります」

「はい。何でしょうか」

「ここら辺の名物を食べられるお店はありますか?」

 駅員はうんざりとした表情でホームの端にある蕎麦屋を紹介する。

「ありがとうございます」

 古見澤は礼を言うと蕎麦屋へと向かった。

 客のいない蕎麦屋で昼食を済ませると改札を抜ける。

 その時、前方で衝撃音が響く。

 その時視界にいた町の人々から叫び声が上がる。

 古見澤は花火だろうかと思った。

 しかし、その衝撃音の発生源を特定すると表情が変わった。

 前方の大通りの先にある橋が発生源だった。

 距離があるためしっかりと確認できないが、橋自体から煙が上がっているのが見えた。

 風が強いが雨はまだパラパラと降っている程度である。

 古見澤は髪を掻き上げると一度駅に戻り、改札越しに、同じように橋の方を見ていた先程の駅員に尋ねる。

「今日って花火とかありますか?」

 花火ではないことは分かっていたが、念のため確認する。

「いや、そんな…話は無いよ」

 力なく言っている駅員を見て、普通じゃないことを再認識する。

 礼を言って再びロータリーに戻る。

 どこかからサイレンが聞こえてきた。

 すでに居石と袈裟丸は島についている時間帯である。

 月神荘に到着したら連絡をくれるようにしていたが、今の時点で音沙汰もない。

 古見澤は先程しまい込んだスマートフォンを取り出して居石と袈裟丸にそれぞれメッセージを入れた。

 不安に駆られながらも、島の方まで進んでみようと思い立つ。

 バスを使うのが普通だろうが、混雑する可能性も考えて歩いて向かうことした。

 リュックから折り畳み傘を探して差そうとするが、諦めた。

 この風では意味がない。ゴミが増えるだけである。

 雨量が少ないからすぐ乾くだろうと考える。

 左手からバスターミナルを回って、横断歩道を渡る。再び大通りを歩くと、遠くで消防車と警察車両が橋の方に向かっているのが見えた。

 月神町のいわゆる目抜き通りを古見澤は進む。

 目的地が視界に入っているのは分かりやすくて良い。

 空を見上げると、頬に雨粒が落ちた。

 古見澤は水理学という水の移動や流れ、それに伴う水域の変化や水環境の成り立ちを研究している。

 こうした台風や熱帯性低気圧の時は大体フィールドワークをすることが多い。

 基本的にR大学の周辺、関東近辺の測定に出かけることが多い。

 台風や大雨による水量増加のことは出水イベントと呼んでいる。

 避難勧告など身の危険がある状態のときはさすがに調査を控えるが、それでもセンサやレーダを使ってデータを取得することはある。

 台風の進路によっては他の研究室同期や後輩たちは測定に出かけることもあるだろうと古見澤は思う。

 古見澤の歩く道の反対側の店のならに『コミット』と書かれた看板が見えた。

 広い敷地に車が一台駐車してある。

 店の軒先には洗剤やトイレットぺーパなどが並べられており、今は雨避けの為かビニルが掛けられていた。

 少し歩くと雨足が強くなってきた。

 本降りになりそうだと判断した古見澤はいったん戻ってコミットの中で雨宿りすることにした。

 二人の安否がまだわからないが、菓子類など購入しておいた方が良いかもしれないという考えもあった。

 道を引き返して横断歩道を渡る。

 広い駐車場を突っ切る様にして店の入り口に立つ。ほぼ同時に音がするほどの強い雨が降り注いだ。

「危なかった…」

 思わず口に出す。時刻は午後十三時十分を回った頃だった。

 一緒に出た溜息は、疲労のためだけではなかった。

 とりあえず入ろうと自動ドアの前に立つが開かない。

 上部のセンサの位置を確認しながら、前後左右に動いてみるが開くことはなかった。

 いよいよ力任せに開けようと考えて、ドアに視線を移したところ、故障中の張り紙があることに気が付いた。

 気を取り直して十メートルほど離れたところにあるもう一つの自動ドアの前に立ち、入店する。

 店内の寒すぎるほどのクーラの冷気が古見澤の身体を包む。

 蒸し暑さから解放されると同時に一瞬で体温が下げられる。

 近隣の買い物客がいるものだと古見澤は思っていたが、予想に反して、見える範囲に客はいなかった。

 それどころか、店員も歩いていない。

 何しろ、入ってすぐにあるレジに立っている店員もいないのである。

 振り返って自動ドアを見る。

 そこには店の開店時間が記載されていた。

 裏側からだと読みにくかった。

 その表記によれば、午前十時から午後十九時までと書かれている。

 古見澤は腕時計を見ると午後十三時となっている。

 もちろん開店時間は過ぎているし、そもそも店の電気が点いているから絶賛営業中だということは間違いない。

 台風の影響で客足が途絶えており、それでも来ていた客がいなくなったところで自分が入ってきたのかもしれないと古見澤は思った。

 律儀に買い物かごを取って古見澤は歩き始める。

 レジの横を通り過ぎて進むと、青果コーナがある。店の入り口から見て左の壁である。

 用はないが自炊している身としては値段設定が気になる。

 下宿近くのスーパの値段と比較しながら進む。

 突き当りは鮮魚コーナだった。

 そのまま右手に折れると、鮮魚コーナの奥に精肉コーナが見えた。

 コミットの店内は周辺の壁に青果や鮮魚精肉コーナが位置しており、中央の陳列棚に調味料や生活用品、目的の菓子や飲料水などが並ぶ。

 精肉コーナの先、右手に折れる位置には惣菜が並んでいるのが見える。

 一般的なスーパの構成なのだと理解して、歩き始めた。

 天井に吊られている表示板から菓子類の棚を目指す。

 人が走る音が聞こえたので、他の客も入ってきたのだろうと思っていると、調味料やカップ麺が並ぶ棚の間で古見澤の足が止まった。

 狭い棚の間に、大勢の人間が立っていたからだった。

 さらに、その人々の隙間から、倒れている人の頭が見えていた。

「え?」

 古見澤が声を上げると同時に、前方、入り口側と後方、鮮魚と精肉コーナの間の扉からそれぞれ店員が走ってきた。

「入り口、閉店してきました」

「警察に連絡つきました」

 コミット店員たちは古見澤を初めて認識する。

 静寂の時間。

「いらっしゃいませ…コミットへようこそ」

 店長らしき年配の男性が頭を下げる。

 釣られて店員達も頭を下げた。

 古見澤も頭を下げる。

 異常な状況の中、プロフェッショナルな対応だなと古見澤は感心していた。



 月神島


 神野に連れてこられたのは月神荘だった。

 そこは神野が開いた民宿で、島内でも土産物屋や食堂などが並ぶ地域に位置していた。

 神野はこれから寄合の方に合流するという。

 あの後、神野の車で島に入るが、その頃には、島の住人たちが集まってきていた。

 あれほどの衝撃であれば島に響いただろうと袈裟丸は想像する。

「こんな時に寄合かよ」

 通された部屋で居石は愚痴る。

 居石はベッドの上で寝転んでいる。雨に濡れたアロハは窓際のハンガーにかけてあった。

 二人がいる部屋の間取りは、部屋の奥にベッドが二つ、その上にロフトがあり、そこにも布団が準備してあった。

 部屋に入るなり、居石は古見澤が来たらロフトにしようと言って荷物を下のベッドの一つに投げた。

 袈裟丸の平等に決めようという意見は、遅れてくる方が悪い、という居石の一言で却下された。

 そもそも島に来れるのだろうかという考えはその時の二人には無かった。

「島の中の事は島の連中で決めるって言ってたよな…」

 この部屋は客室とは隔離されている。

 月神荘を運営している神野が生活をするスペースに二人の部屋を準備してくれていた。

 袈裟丸は住み込みだと聞いて、雑魚寝ぐらいの狭い部屋だろうと勝手に思っていたが、二人でも広いくらいの面積に、生活必需品が揃っている。

 バイトに振り分けられる部屋としては好待遇であることに間違いはない。

 袈裟丸は早々に部屋の中央のテーブルに、持ってきたPCを置いて起動させている。

 過酷な環境でも耐えられるような仕様になっているPCを持ってきていた。流石にネットワークは繋がってなかったので、用意しておいたポケットWiFiを使った。

「今のうちにスマホ充電しておくか」

 独り言を言って居石はボストンバックから充電器を取り出すと壁にあるコンセントに刺してスマホを充電した。

「お、古見澤からメール来てんじゃん」

「なんて書いてあるんだ?」

「まあ、慌てんなって…。えっと、駅に着いたけれど、橋から煙が上がっているのが見えました、大丈夫か、だって」

「駅着いたんだ。ピンピンしているって送ってやれよ」

「そうだな。えっと…二人共ビンビンしている、っと」

「ちょっと待て、それ送るなよ」

「送ったよ。なんで?」

「ピンピン、だよ。ちょっと勘違いされるだろう」

 居石は眉間に皺を寄せたが、すぐに納得した顔になる。

「大丈夫だろ。女性に送っているわけじゃないし。どっちの意味でも元気ってことが分かって良いじゃん。男同士なんだから大丈夫だって」

 いつもの調子の居石で安心している自分がいた。橋の上は、少し気持ちが落ち込んでいるかのように思えたからだった。

 袈裟丸と接しているから、本人も普段と変わらないように接してくれているのかもしれないが、それは見た目からは分からない。

 同じことは自分にも言える。

 窓がガタガタする音に、視線が奪われる。

 そこまで古い建物ではないが、それでもガタガタと音がしている。電柱もなく、遮るものの無い島内の空は、麦わら帽子よりもレインコートの方が似合う空模様だった。

 後ろで居石がスマートフォンを投げるように置いた音がした。

「ビール飲みたいな」

「この状況で酔おうとしてんの?」

「酔ってなきゃやってられねぇだろ」

 全く肝が据わっている、と袈裟丸は思った。

「お前もパソコンなんか触ってないで酒でも貰って来いよ」

「いろいろ調べてんだよ。台風情報とかさ」

「まだ気にしてんの?台風来ているってさっき言ってなかったか?今さら何を調べることがあんの?」

 居石のコメントは無視して袈裟丸は天気図を見ていた。

 現時点でS県H市月神島周辺んには台風の外周が触っている程度である。

「長引くな…」

 袈裟丸の呟きと共に、ドアがノックされた。

 はーい、とも、ほーい、とも、おーい、とも聞き取れる返事を居石が返す。

 ドアが静かに開く。

「失礼しまーす」

「こんにちは」

 背の高い女性と、その腰くらいの背丈の女の子が入ってきた。

 女の子の方はズケズケト室内に入って袈裟丸の隣に座り、PCの画面を覗き込む。

 袈裟丸がたじろいでいると、ふん、と言って空いている方のベットに勢いよく座る。

「ゆの、大人しくしなさい」

 背の高い女性が注意する。

「お姉ちゃん、この人天気図見てニヤついている」

「はー?」

 全くの冤罪である。思わず声が出ていた。

「そんなこと言わないの。ごめんなさい」

 にっこりと微笑まれる。

 悪い気がしなかった。

「神野しおりです。それと妹のゆのです」

 しおりはお盆に乗っていたグラスとお菓子を持っていた。

 咄嗟に袈裟丸はPCを閉じて、テーブルの上にスペースを作る。

「こんちは」

 居石がゆのに向けて挨拶する。

「でかい人…」

 そうだろう、と笑う居石とゆのを微笑んで見ているしおりを、袈裟丸は見ていた。

「アルバイトに来てもらってありがとうございます。本当に助かります…けど」

 しおりは窓の外を見る。

「大変なことになっちゃいましたね」

 しおりの声は、女性にしては低い方だと袈裟丸は思う。

 服はTシャツとジーンズでまとめているし、髪も耳が隠れる程度まで伸ばして清潔だ。

 スタイルも悪いわけではなく、と考えていると自分がしおりの身体に注目してしまっていることに気が付き、テーブルに視線を移す。

 しおりは気付いていないようで、菓子の乗った器をテーブルに並べている。

「これ、私が作ったものなんですけれど…お口に合えば」

 研究室の後輩に見せてもらったアニメに出てくる少年役の声優が女性だと知って、納得したことがあったが、それと声が似ているなと感じた。

「あのおっちゃんの子供とは思えねぇな…。この子は間違いないけどな」

 居石はゆのが向かってくるのを片手で頭を押さえて阻止している。

 頂きます、と言って袈裟丸はグラスの麦茶を一口飲む。

「しおりさんは…寄合に行かないんですか?」

「一応子供扱いなので。寄合って高校生以下は参加しないんですよ」

「俺たちは参加可能だな」

 居石のコメントは必要ないだろうと思いながら無視する。

「ってことは…失礼かもしれないですけれど、しおりさんは何歳なんです?」

「あ、高校生です」

「え、高校生なの?見えない…落ち着いているね」

「落ち着いた高校生だっているだろ」

「まあ、そうだけれど」

 二人のやり取りを聞いていたしおりは口に手を当てて笑っている。

「でもよく言われます。意識しているわけじゃないんですけどね」

「不思議だよな。妹はこんなだしな」

 何よ、とまだ居石に飛びかかっている。

 これは居石の言う通りである。

 この二人に限らず、兄弟姉妹はこういうものかもしれないなと袈裟丸は思った。

 自分には弟や妹、兄姉はいないのでこういうことは分からなかった。

「お雨は何歳?」

 居石が腕に噛みついているゆのに尋ねる。

「十歳だよ」

「女の子の十歳なんてもっと落ち着いてないか?従兄弟の子供も同い年だったと思うけど、もっと大人しいぞ」

「一緒にするなー」

 わかったわかった、と言って居石はゆのを持ち上げると、自分の膝に座らせる。

「月神橋の事故の時に、父と一緒にいたんですよね?」

 しおりが真剣な表情で尋ねる。

 ゆのも居石の膝の上で大人しくなった。

「そう…ですね。ここは大丈夫でしたか?」

「はい…衝撃があったので、それに驚きましたけれど…島の方にはそっちの被害はなかったです」

 袈裟丸たちもほぼ爆発の中心地にいたようなものである。

 鮮明に記憶の中で音と絵が再生されている。映画の記憶だとしても遜色ない。

 それでも乗っていた車が無事だったのだから被害らしい被害はないのかもしれないと考える。

 窓に視線を移す。まだ風で窓がガタガタと音を立てている。

 爆破よりも台風の被害の方に対策を取った方が賢明だろうと思った。

「台風の方が心配なんじゃない?」

 袈裟丸の考えを推測したかのように居石はしおりに尋ねる。

「この時期、台風は多いですし、島自体、風が強く吹くことが多いので。結構慣れちゃいました」

「ふーん、そうか。慣れるのもどうかと思うけどな。俺なんか寝れなくなっちゃうよ」

「お前は寝てる状態でプールに落とされてもまだ寝てただろう?」

 しおりとゆのが真顔で居石を凝視する。

「嘘…」

「あんときは徹夜が続いてだな…」

 二人の視線に動揺した居石は弁明する。

「いやいや、そうじゃないだろ。普通水に落とされたら目覚めるもんだって。息も吸えないし。本当にあの時はそばで見ていたこっちが焦って飛び込んだよ」

「そうだな。みんなびしょびしょになってな」

「お前だけ訳わかってなかったのに、目覚めて一緒に遊びだしたからな。本当にふざけた性格だよ」

 途中から笑っていたしおりは目尻を下げたまま言った。

「楽しい話。いいなぁ」

「大学行くとね、こんな奴ばっかりいるから」

「偏見を持たせるなって。しおりちゃん、こいつが飛び抜けているだけだから。真に受けないで」

「大丈夫です。先月までホームステイで海外に行っていたんですけど、個性豊かな人たちが多くて。慣れていますから」

「まあ、あまり慣れるのもどうかと思うけど…。それは良かった」

 やり取りを聞いていたゆのは羨望の眼差しで居石を見ていた。

「お兄ちゃん、凄いね。そんな特技があるの?」

「ゆのちゃん、この人はね、真剣に向き合っちゃいけない人だから。距離を取ってね」

「お前さっきから、人の評判を下げ過ぎだろうよ。あ、そうだ、あとで俺の特技見せてやるよ」

 居石はゆのに語りかける。

「何?」

「その時までの秘密だ。驚くぞー」

 自分からハードルを上げて大丈夫かと思ったが、ゆのが笑顔になっているので黙って見ていた。

「しおりちゃん、俺ここに来た時から気になっているんだけどさ」

 居石は、ちょっと悪いな、と言ってゆのを降ろすと窓際まで近寄る。ゆのも一緒に近寄る。もう居石に慣れたようだった。

「あの…えっと山っつーか、小高い所に立っている、あの変な塔は何?なんかてっぺんがクルクル回っているやつ」

 それは袈裟丸も気になっていたものだった。民宿の窓からは見上げる格好にならないとしっかりと見えない。

 居石も腰をかがめて指を指して主張している。ゆのも同じ格好になっているので笑いを堪えながらしおりは説明した。

「あれは、風力発電の発電機なんです」

「あれが?」

 居石は大げさに驚いていた。それには負けるが袈裟丸も大いに驚いていた。

「プロペラついてないじゃん」

 確かに風力発電機ならば、扇風機のような羽があって回っているイメージが強い。

「私も詳しくは知らないんですけれど、新型のものみたいです」

「ああ、なるほど。風に対して垂直に羽があると、今日みたいな風が強い日の場合、折れちゃうんだ」

「はい。それが問題になっているみたいで」

 実際はどうなのか袈裟丸は知らないが、これもイメージで、風力発電は海沿いに多い気がしている。

 ならば、台風などの強風で羽が破壊されるといったこともあるのだろうと想像した。

「あとは、鳥が当たるとか」

「飛行機のバードストライクみたいだね」

 はい、としおりが言う。

 いつの間にか、ゆのがしおりの隣に座っていた。

 居石はまだ体勢を低くして新型風力発電機を見ていた。

「この島になんでそんなもんがあるんだ?」

 握り拳で腰を叩きながら、座布団を手に居石がテーブルにつく。

 部屋のテーブルは椅子などが無く、床に座るタイプの背の低いものだった。

「実用化のための実験って聞きました。ここは頻繁に強風とか、それこそ今みたいな台風が通過することが多いので…」

「最適な実験環境ってわけかぁ」

「電力会社が建てたのかな?」

「えっと…ちょっと…違うみたいです。ごめんなさい、私も良く知らなくて…」

 しおりが言いかけたところでドアが開く。

「要、耕平、落ち着いたか」

 姉妹の父親、神野隼人が立っていた。

「父さんおかえり」

 ゆのが足もとに抱き着く。

 ゆのを見ることなく、隼人は頭に手を置いてやさしく撫でる。

「やっと落ち着いたところです」

「ビールかサワーないっすか」

「よし、大丈夫そうだな。ちょっと申し訳ないが公民館に来てもらえるか」

「公民館…ですか?」

「わかった、歓迎会っすね」

「なんでただのバイトに歓迎会があるんだよ」

 真顔で聞いていた隼人が口を開く。

「残念だけどあんまり楽しくはねぇかな」

「隼人さん、準備できたって」

 後ろから現れたのは制服を着た警官だった。

 茶髪で髪の毛が縮れていた。

 パーマなのか地毛なのかはわからない。

「この子ら?」

 軽い雰囲気で袈裟丸と居石を見据える。

 袈裟丸は背筋が伸びるように感じた。

 隼人は頷く。

「あのー、この島で巡査をしている、浜田です」

 きっちりと指先を伸ばして敬礼をする。

「誤解しないうちに言っておくぞ。こいつは正式な警察官じゃない」

「は?制服着てますよ?」

「いいか、制服着ているから警察官だと決めつけない方が良い」

 隼人は腕を組んで言った。

「いや…そこじゃなくて…」

「おっちゃん…わかります」

 居石は胡坐で両手を膝の上に置いて、戦国武将の様に言った。

「わかるなよ」

「浜田はこの島で生まれ育って、一度島外に出ていたが、また戻ってきて、島の治安を守ってくれている」

 相変わらずの腕組みで隼人は説明する。

「おっちゃん、この島は…そんなに治安が悪いのか?」

「こいつが来てからは一度もないな。それ以前にも、だけどな」

 なら浜田のいる意味はどこにあるのか、と聞きそうになったが黙っていた。

「素人の方…ですよね?ってことは自警団みたいなものですか?」

「まあ、そう言うことだ。ちなみに彼はS県警の公家、という警部補の親戚筋に当たる」

「だから、こういう仕事、させてもらってます」

 浜田は敬礼するが、一瞬で胡散臭くなる

「それで、なぜ公民館に?」

 袈裟丸は話を元に戻した。

「寄合の時に、警察や消防に連絡した。あまり統率が取れてなかったから、重複して連絡があったみたいだったな」

 そう言うこともあるだろうと袈裟丸は思った。

「警察も消防も島外からも通報があったみたいで、対応しようとしていたんだが、この嵐だからなどうにも救助が難しいということだった」

 そこから先は浜田が引き継いだ。

「俺も島を見て回ったんだけど、今の所、避難を必要とする段階の災害は起きてないし、救助も必要としていない。島には一週間くらいは立て籠れるくらいの備蓄もあるから、とりあえず、台風が過ぎるのを待とうってことになった」

 警察も消防も出来ることは限られている、ということかと袈裟丸は考える。

「とは言っても、島のことは島で何とかしようっていうのが月神島のルールだ。だから、俺たちはまずなぜ橋がぶっ壊れたのか、調べてみることにした」

 少数でね、と浜田が付け加える。

「それでお前らも俺と一緒に現場にいたってことで駆り出すってことに俺が決めた。聞けばお前ら土木工学を学んでいる学生なんだろう?しかも大学院だ」

 話が見えてきた。

「もう話は分かったな」

「おっちゃん、さっぱりわからない」

「嘘だろう…」

 居石のコメントがあまりにも残念だったのでツッコミを入れてしまった。

「だってそうだろう?俺たちはまだ学生じゃんか。本当に調べたいなら、橋を設計施工したゼネコンに聞くか、橋梁工学の先生に電話でもして聞けば早いよ。きっとニュースにもなってるだろうし」

 隼人を含め、誰も喋らなくなっていた。

 ゆのがいなくなっていたが、どこか別の場所で遊んでいるのだろうと袈裟丸は思った。

「ニュースとかにもコメント出している大学の先生いるじゃん。聞けば答えてくれるんじゃないっすか?わざわざ俺たちが出て行っても大したこと言えないよ」

 居石の言うことも一理あった。

「でも、僕らが見たものを突き合わせるっていう意味だったら、参加する意味はありますね」

 隼人をフォローする意図はなかったが、思ったことを口にしてみた。

「ま、俺よりできる奴がこう言っているんで、参加することは吝かじゃないっす」

「難しい言葉知ってるんだな」

「でも意味は知らねぇ」

 二人で笑った。居石も場が緊張していると思っていたのかもしれない。

 しおりもつられて笑ってくれたのは助かった。

 外に車出しているから、と言って隼人と浜田は出て行った。

 準備が出来たら来い、ということだった。

「父がすみません」

 本当に申し訳なさそうに、しおりが言った。

「ああ、まあ気にしないで。自分で言っておいてあれだけど、どうせ仕事っていう雰囲気じゃないし。だとしたら俺ら暇になるから」

 暇潰しで参加するような会だろうかという疑問は、居石は抱かなかったようである。

「古見澤から連絡あったか?」

 袈裟丸は気になっていたことを尋ねる。

 ちょっと待て、と言って居石はスマートフォンをベッドに取りに戻る。

 画面を見て、駄目だ、と言った。

「あいつはこっちと違って忙しいみてぇだな」

 居石は珍しく皮肉を言った。



 月神町『コミット』店内


「今の気持ちは?」

 前に座った男は清潔感のあるハンカチでスーツに着いた水滴を払うと、睨み付けるように見て質問する。男はきっちりと整えた白髪交じりの髪に薄い顔をしているが、品がある顔立ちをしていた。容姿や服装で判断するなら、気品のある佇まいをしている。

「二つあります」

 古見澤は男から視線を外さないようにして言った。

「聞こうか」

「一つ、なぜ僕はこんなところにいるのか」

 古見澤は今、店内の奥、商品を保管してたり、肉や魚をさばくようなスペースがある、バックヤードと呼ばれる場所である。

 普段、店を訪れる客からは見えないところにある。

 精肉と鮮魚のコーナの間からここに連れてこられた。

「二つ、見た目に反して声が残念だなって」

 二つ目に関しては目の前の男に対しての感想だった。

 見た目の気品のある顔立ちからは想像できない低くしゃがれた声だった。

 悪いことではないが、この状況に置かれていることが、古見澤に身体的特徴の否定的意見を言わせた。

「一つ目については分かっているだろう?」

 男が言う通り、古見澤は一つ目のコメントについては答えを持っていた。

 それは目前の男の職業が刑事であることに理由がある。

 コミットの従業員が囲んでいた、倒れた人影は、死体だった。

 コミットの店内で人が死んでいたわけである。

 しかも、背中を刺されて死んでいたことから、警察は殺人だと判断したわけである。

 さらに。古見澤は、殺人の容疑を掛けられていた。

 台風で客足も無くなっていた店内で、殺人が発生した。従業員しかいない中で客として偶々入店しただけの古見澤は、ただそれだけで犯罪者としてみなされたわけである。

 もちろん、古見澤は殺していない。

 ただ偶然店にいただけで殺人者と判断されそうになっていた。

 だとすれば、今の古見澤は弁明をしなければならない状況である。

 古見澤はテーブルに視線を落とす。

 連れてこられたのはバックヤードの従業員控室である。

 この部屋の隣、店の中で最も奥の部屋が事務所になっている。

 二人が沈黙していると扉が開く。

「公家警部補」

「どうした」

「ちょっといいですか?」

 後方の入り口に立っていた若手の刑事に公家が近づく。

 全くこちらに声が聞こえないが、確実に何か会話をしている様子を見せられながら、古見澤も考えていた。話し終わった公家が再び同じ席に着く。

 その後ろに入ってきた刑事が立つ。二対一になった。

「公家さんっていうんですね。喋らなければぴったりな名前ですね」

「よく言われるよ。さて、今日はなぜこの店に?」

「それは事情聴取ってやつですか?それとも世間話?」

「後者だと思って欲しい」

「じゃあ、事情聴取ってことですね。別にいいですよ。何もしていないので。今日は泊まり込みでアルバイトに来たんですよ」

「コミットに?」

「いいえ。月神島の民宿です」

 二人の刑事の表情が一瞬変わった。

「橋向こうのか…」

「島の事を橋向こうって言うんですね。知りませんでした」

「それで、なぜここにいる?」

 古見澤は経緯を簡単に説明した。

「それを信用できると思うか?」

「それは…こちらが証明することですか?そちらの仕事では?」

 公家の表情が硬くなる。

「こちらも台風と事故で手が回らなくてね」

「はあ。それは知りません。そっちの事情ですよね」

「確かに君の言う通りだ」

 再びドアがノックされて別の刑事が入ってきた。

 立っている刑事に耳打ちすると、さらにその刑事が公家に耳打ちする。

 面倒臭いやり取りだと古見澤は思った。

「先程、君から聞いた身元だが、裏が取れたよ」

「ああ。そうですか。じゃあ、地元に人間ではないってこと、分かっていただけましたか?」

「だが、容疑が晴れたわけではない」

 なぜそうなるのかと古見澤は肩を落とす。

 公家は古見澤の学生証や免許証、財布を含めた荷物などを机の上に置く。

 ここに入る前に調べるという目的で渡していたものだった。

「あの…話変わりますけど、監視カメラとかないんですか?僕が台風の中、入店するところが映っていると思いますし。なんなら、犯人も映っているのではないですか?」

 公家は咳ばらいを一つする。

「残念だが、この店には防犯カメラは設置していない」

「万引きし放題ですね」

「都会とは違うんだよ」

「でも…人を殺す人間は住んでいるんですね」

 古見澤と公家は視線を交わしたまま黙った。

「死亡した女性の事は知っていたのか?」

「知りません。まだ容疑者として会話するんですね」

「それはそうだろう。亡くなった女性は栗田陽菜、四十歳、コミット店長の栗田友則の妻だ。経営自体は夫に全て任せた状態で、自身もパートとして働いていた」

 憮然とした表情の古見澤は、公家の後ろの壁に掛けられている時計を見た。

 午後三時を回っている。

 袈裟丸と居石はどうしているだろうかと想像する。

「栗田陽菜は背中をナイフで刺されて死んでいた。肺を貫かれていたから、呼吸が出来ずに死んだのだろうと考えている」

 詳しくは解剖を待っているがね、と付け加える。

「ナイフに僕の指紋でも付着していましたか?」

「いや、指紋は全くなかった」

「よくそれで僕を拘束していますね?」

「計画的だったんだろう?指紋がつかないような工夫をしていたんだ」

 そんなものが荷物の中にあったか、と言いそうになるが、シャツやタオルなどを使えば可能である。否定できる材料ではない。

 古見澤は、ふと思いつく。

「月神島の…橋向こうの月神荘にいる神野隼人と言う人に連絡を取ってください。彼の所でアルバイトすることになっていました」

「さっきもアルバイトだと言っていたな。わかったそれは聞いておこう」

 後ろの刑事に目配せすると部屋を出て行く。

「さて、続きの話だが、一つ不可解なことは、被害者の傍に、これが落ちていたことだ。これを知っているか?」

 公家はテーブルの隅に置いてあったビニル袋を差し出すように古見澤の前に置く。

 袈裟丸はそれに視線を落とす。

 触らずに見ると、土器のかけらのように見えた。

「焼き物ですか?」

「そのように私にも見える。焼き物のかけらだな。実はこの焼き物の出所は分かっている。君の目的地だよ」

 その発言に古見澤はゆっくりと顔を上げる。

「月神島ですか?」

「そう。そこのお土産品として作られているものだ。装飾の雰囲気から判断できる。昔、島の土地から古代の土器が発掘されたことがあったようでね。それにあやかって島の土を使って土産物として売り出した」

 古見澤は再び上体を起こして公家を見る。

「初めて聞きました。商魂逞しいですね」

「事前に購入していたということはないか?」

 公家は無視して続けている。

 古見澤は静かに溜息を吐く。

「今回、初めて島に行くんです。知るはずないでしょう?」

 それに、と続ける。

「ネットで購入できるんですか?」

 今度は公家が溜息を吐く。

「いや、店舗でしか販売していない」

「ならば、僕が置いたものではないですね」

 ドアが勢いよく開く。

 スマートフォンを耳に当てたまま、先程の刑事が入ってくる。

 公家が煩わしそうに視線をその刑事に向ける。

「申し訳ありません、神野さんが、代われと…」

 公家は黙って立ち上がり、スマートフォンを受け取る。

 何度か、はい、と繰り返すだけで会話が成立していた。

 通話を終えると、スマートフォンを刑事に放り投げるようにして返す。

「神野さんと連絡が取れた」

「見ていました」

「君を疑うなら、海を渡ってぶん殴りに行く、と言われた」

「…やりそうですね」

「やるだろうな。あの人なら」

「よく知っているんですか?」

「昔良くお世話になった。あの人の言うことは信用して良い」

「ならば?」

 公家は言いづらそうにしていた。

「帰って良いですね?」

 公家は頷いた。

 直後、しかし、と続ける。

「月神島と町を結ぶ橋が爆破されたようだ」

 橋が通れないだろうな、と予想していたが、まさか爆破だとは考えていなかった。

「爆破…。じゃあ、渡れませんね」

「渡れないな。随分冷静だな」

「どうしましょう」

「神野さんは、警察も手が足りないだろうから、古見澤をバイトに雇え、って無理言っていたよ」

「言っていただけ、にしてほしいですね」

「そうだな」

 公家は笑っていた。まさしく貴族が笑っているかのようだった。

 貴族の服で捜査すれば良いのに、と古見澤は思った。

「では、ここまで拘束してしまったお詫びとして、何とかして君を島まで送り届けるというのはどうだろうか?」

「大変嬉しい申し出なんですけれど、遠慮しておきます。こんな時に無理して被害に遭うリスクを高めるのは得策ではないですから」

「しかし…それでは申し訳ない」

「すぐに解放してくれれば、それだけで構いません」

 そうかわかった、と公家は言って席を立ったタイミングで部屋の扉が開いた。

「警部、ちょっと良いですか」

 なんだ、と公家が言うと、入ってきた刑事が古見澤の方を見ている。

「構わない、報告してくれ」

 刑事は憮然とした表情で報告を始めた。

「殺された栗田陽菜ですが、知人に店の金が横領されている、と漏らしていたようです」

 公家の表情が変わる。

 古見澤は無表情になる。

「どういうことだ?」

「栗田はパートで働きながら、夫がやっている店の経理も任されていたそうなんです」

「その中で金が使いこまれているっていうことに気が付いたのだか…」

「はい、栗田は夫にも話さずに、独自に証拠を集めて、横領犯を特定したと…」

「特定できたという証拠はあるのか?」

「その知人に昨日メッセージを送っていました。横領犯の名前は明かしていませんが、明日、つまり、今日に証拠を突きつけに行くと語っていたそうです」

 公家は唸りながら腕を組む。

 もう帰っても良いだろうかと古見澤は考えていた。

「…ということは、栗田陽菜に横領の証拠を掴まれた犯人が、それを指摘される前に、痛い目に遭わせようとして…」

 公家は捲し立てる。

「おい、彼は犯人ではないじゃないか」

「もうそのコントやめてもらって良いですか?」

 古見澤は我慢しきれずに口を挟んでいた。

「最初から、僕、違うって言っていましたよ」

 古見澤の言葉は届いていなかった。

「となると、殺害したのはこの店の従業員の誰かということになるな…」

 公家の発言に、待っていましたという顔をして刑事が切り出す。

「はい。なので、従業員から話を聞く際に、その点も含めて話を聞いてきました」

「話が早いな」

 真顔で言う公家に、古見澤はこの状況を楽しみ始めた。

「怪しいのは六人いました。まず、店長の栗田友則です」

「被害者の夫か…」

「別の事業を始めようとしていたようです。複数の人間が出資する事業だったようで、お金が必要だったということでした」

「自分の店だったら金の工面なんて簡単じゃないのか?」

「この店自体はかなり厳しい経営状態だったようです」

「郊外にショッピングモールが出来たからな。そっちに客を取られているとは、聞いたことがある」

「つまり、事業を始めるにあたって、金が必要だったと」

 刑事は頷いた。

「次は従業員ですが、精肉担当の二瓶達也です。彼は、ギャンブルが好きらしく、消費者金融に借金をしていたという証言が得られています。そして鮮魚担当の松田仁成も理由は違いますが、消費者金融に多額の借金をしているということです」

「なるほど…首が回らなくなってきたわけだな」

 刑事は律儀に頷くと四人目の説明に入る。

 この後輩刑事が自分と話してくれていたらどれだけ話が早かっただろうかと想像していた。公家よりは話が出来そうだった。

「四人目は木下敦、青果担当です。彼は家で寝たきりの両親がいます。既婚で奥さんの協力と訪問介護を使って何とか看護をしているようですが…」

「訪問介護だけではお金がかかるし、奥さんだけに任せると負担が大きすぎる…か」

「国からの助成も受けているそうですが…実際にはそれだけでどうにかなるっていう訳にもいかないようです」

 だろうな、と公家は理解を示す。

「だから、お金が欲しかった…か」

「はい。では…五人目ですが、加藤ゆり、パートの主婦です。夫が病気休職中で家計の足しに、とここで働き始めたということです」

「お金に目が眩む理由としては、あり得る話だな」

「実際に、開店から閉店まで働いていて、様々な仕事を覚えたようで、パートの中でも店長やその他従業員たちからも信頼があったようです」

 うーん、と公家は顎に手を当てて考えていた。

「最後は、アルバイトの学生です。宮園梨花、高校二年生です」

「彼女もお金に困っていたのか?」

「彼女の家は、家庭の方針で、お小遣いを与えないらしいのです」

「ほう。高校生だろ?彼女、付き合いの方はどうしていたんだ?」

 サラリーマンに対してのコメントみたいだと古見澤は思う。

「学校で必要なものは言えば購入してもらえたそうです。それ以外に付き合いや趣味嗜好品は、自分で何とかしていた…具体的には、例えばお年玉を使わずに取っておいてここぞというときに使ったり、こうしてアルバイトをして稼いでいたということでした」

「苦労しているんだな。親も高校生くらいになればお小遣いをあげても良いもんだがな」

 他人の家の事情に勝手に口出ししておいて勝手な事を言うものだな、と古見澤は思った。

 時計を見るともう夕方四時である。今日は島に行くことはできないとして、どこかに宿をとる必要があるだろう。どこに泊まれば良いだろうか、と考え始めた。

「普段であれば、正月のお年玉や短期のバイトだけで何とかなったらしいのですが、何か習い事を始めたようで、それにお金が必要だそうで…」

「習い事だったら、それこそ親に頼めば良いじゃないか」

「親が許さなかった習い事だそうです。だから、四月からここでアルバイトをしているとのことでした」

 親が許さなかった習い事、というのに少し惹かれるものがあったが、刑事に質問するほどの事でもなかった。

「しかし…アルバイト先の金をネコババするほどの事なのかな…」

 その点については初めて公家と意見が合った。

「わかった。その六人が、まあ金額の大小はあれ、お金に困っていたってことだな」

「あの…もう帰っても良いですか?」

 話が一段落したところであえて挙手で意見を伝える。

「ああ…すまない。ちょっと待ってくれ。やはり送ろう。今日はどうするんだ?」

「はい。近くにどこかホテルがあれば…本当に送っていただけるんですか?」

 古見澤は机の上に並べられた免許や学生証などをまとめて、荷物を持って立ち上がる。

 送ってもらえるのであれば甘えてしまうのもいいだろうと思い直したからだった。

「それは問題ない。ホテルも私の方で手配しておこう。じゃあ、車を…」

 再びドアが開く。

 スーツの刑事である。

 スラックスが焦げ茶色の学校の先生のような格好だった。

 見た目が公家よりも年上で、その皺が刻まれた表情から、経験値が違うことが伺えた。

 古見澤は諦めて荷物を大げさに机に上に置いてパイプ椅子に座る。

 バツが悪そうに、入ってきた刑事と古見澤を交互に見ている公家に手で先を促す。

 先にどうぞ、ということだった。

「お取込み中ならば失礼いたしますが…」

「いや、大丈夫になった。続けてくれ」

 言い方に気になる点はあったが、黙っていることにした。

「もう報告が終わったかと思いますが、疑わしい六人の事件発生前の行動について、わかりましたので報告します」

 焦げ茶色の刑事は手帳を取り出す。恐らく、公家が今の地位にあるのは、こうした有能な部下がいるからなのだろう、と古見澤は感慨深く見ていた。

「コミットの従業員は午前八時に出社することになっています。今日もそれは変わらずでした」

「今朝はまだ雨風は強くなかったからな」

「ええ。ですが、それは正社員の出社時間で、アルバイトやパートの人たちはそれに限らないということです。だから宮園と加藤、そして殺害された栗田は朝八時からと言うわけではありません。実際には…宮園が午前十時、加藤は午前十一時から出社しました。栗田は特に時間が決まっているわけではなく、好きな時に来て好きなだけ働くという形を取っていたそうです」

「随分、自由な働き方だな」

「まあ実際には夫の店ですからね。店に来ても事務作業が多いですから、そこまで忙しいというわけではなかったそうです」

 公家は腕組みをして、鼻から息を吐いた。

「栗田の死亡推定時刻も出ています。午後十三時頃だということです」

 店に入ってきたときの事を古見澤は思い出す。確か、午後十三時十分頃に店に入ったはずだと思う。つまり、あの時点で殺されて間もないということになる。

「午前十時に店は開店します。栗田が店に来た時間は目撃者の話では昼の十二時とのことです。殺されるまでは一時間はあったってことになりますな」

「なるほど。だとすると…十二時に店に来た被害者は、横領の事実を当事者に告げた上で警察に通報するかどうするか、みたいな会話があって…刺された…っていうことか」

「まあ大筋は。そんなところでしょうな」

 焦げ茶色の刑事は話を先に進めたようとしていた。

 公家はそんな表情に気が付いていない。

「それまでの各人の動きですが、夫の友則氏は午前七時半過ぎ、従業員の中で一番に来店して事務所に向かい、事務仕事を進めていたそうです。それから…次に出社したのは、午前七時から八時にかけて、社員の三人が出社しています」

 焦げ茶色の刑事は手帳に目を落とす。

「従業員全員が出社した午前八時に簡単に朝礼があります。これは正社員だけです。それが五分ほどで、それぞれ持ち場に向かいます。精肉担当の二瓶氏と鮮魚担当の松田氏は自分のコーナで並べる肉や魚を切り分けたりラッピングしたりといった作業を行っていたそうです」

「売り場側から見れば裏手ってことだな」

「はい。鮮魚コーナもそうですが、バックヤードの扉を入ってすぐ、左右にそのスペースがあります。売り場から見て左手が精肉、右手が鮮魚ですね。売り場と同じですな」

 ふむ、と公家は頷く。

「それで次は…青果担当の木下ですが、彼は一人で自分のコーナで売る野菜や果物などを並べていたそうです。場所は店の入り口から見て左手の壁際ですね」

「一人でやっていたのか?なぜだ?虐められているのか?」

 それは自分のことだよ、と古見澤は思っていた。

 殺人犯として疑われ、容疑が晴れたと思ったらいつまでたっても帰らせてもらえずに、結局捜査の情報が入ってくる。

「いえ、そういう訳ではないそうです。普段であれば青果担当の従業員ほぼ全員で作業するそうなんですが、今日だけ特別な事情のため一人で作業をしていたと」

「特別な事情?」

「ええ。台風で今日売り場に並べる野菜や果物の到着が遅れていたそうです。普段であれば朝礼終わりくらいにトラックが店の裏手の搬入口に到着して荷卸し、開封陳列までの作業をやるそうなんですが。流通にも台風の影響がでていたんですな。遅れてきたトラックの対応に木下以外の職員が対応して、木下は陳列を進めていたということでした」

「開店に間に合うのか?」

「結果として間に合いませんでした。トラックの遅れが予想以上だったそうです。まあ仕方がないものですな。開店しても終わらず木下は作業を続けていました」

 公家は黙って聞いている。

「店の開店と同時に、宮園がアルバイトに来ます。店の奥で着替えをしてから仕事に入ります。宮園と加藤ですが、結構オールマイティなところがありまして。手の足りないところで仕事を任されるそうです」

「加藤ゆりの説明の時に言っていたな」

 焦げ茶色の刑事は、そうですか、と言って続ける。

「今日は…加藤が一人でレジ、宮園は惣菜コーナ担当だったそうです」

「惣菜コーナは…青果の反対側の壁際か」

「最後に来た栗田陽菜は着替えることなく一番奥の事務所に行って、少し作業をした後、この部屋を使うということを夫に伝えて籠ったそうです」

 その時に横領犯と対峙していた、ということである。

 その後はご存知の通りです、焦げ茶色の刑事は締めくくった。

「一ついいか。栗田陽菜以外に、所謂、横領犯と思われる人物がこの部屋に入ったところを見かけた人間はいないのか?」

「準備が忙しく、また、青果の時に言いましたが、台風で流通が遅れて荷物の搬入開封作業が非常に大変だったそうで。店内にも最小限の人間だけほとんど裏手に回っていたらしく、誰も気にかけていなかったとのことです」

「なるほど…」

 私からも、と一人目の刑事が手を挙げて話始める。

「お客さんは来なかったんですか?」

「結局、来なかったそうですね。裏手の従業員や栗田友則さんは気が付かなかったそうだけれど、レジにいた加藤さんは全く客が入ってこないな、と思っていたそうです」

 公家は腕組みしたまま考え込んでいる。

「犯人は返り血を浴びているという可能性はないか?」

 思いついたように公家は言った。返り血を浴びていれば、量が少なくても、圧倒的な犯人としての証拠に他ならない。

 焦げ茶色の刑事が困ったような表情をする。

「ああ、そいつはどうでしょうなぁ。ナイフは刺さったままでしたし、遺体発見時も出血は衣服に僅かに染み込んでいる程度でした。返り血を期待するのは無理筋でしょうな」

 再び、最初の刑事が手を挙げる。

「ナイフの出所は分かりましたか?」

「市販のものだそうだ」

「例えば、店内で売っていたり、精肉や鮮魚の所で包丁やナイフが一本無くなっていたなんていうことはないのか?」

「その可能性もあると思い、確認してもらいましたが…」

 焦げ茶色の刑事は首を振る。

 公家の部下の刑事達の対応の良さに古見澤は驚いていた。

 公家とはえらい違いだと感心する。

「横領犯だと指摘された人物が、出て行こうとする栗田陽菜を追いかけて店内で刺し殺した、ってことだろうが…」

 公家は苦々しい顔で言った。

 捜査員三人たちは唸りながら考え込んでいる。

「やはり、横領したと栗田陽菜が主張している人物が誰だったか、そっちから攻めていった方がいいだろうな。その線で進めよう」

 二人の刑事が、頷くと同時に古見澤が手を挙げる。

「お仕事大変そうなので、送ってもらわなくて良いです。帰りますね」

「いや、それは本当に申し訳ない。ちょっと待ってくれ」

 公家は余程、自分に負い目を作りたくないのだろうか。

 古見澤は少し悲しく思う。

「じゃあ…そちらの刑事さん」

 焦げ茶色の刑事はいきなり指名されて目をくりっとさせた。

「陽菜さんの死体を最初に発見したのは誰ですか?」

「え?あっと…控室に戻ろうとしていた宮園梨花だと…」

「あと、誰か陽菜さんを見たという話はありました?」

 公家は何を言っているのかという渋い表情をしていたが、焦げ茶色の刑事は手帳を捲ると口を開く。

「従業員の一人が、伝票を持って行こうと夫の栗田さんの所に向かう途中でバックヤードのドアから店の方に出て行く陽菜さんを見ているなぁ」

「そうですか…あ、最後にもう一つ。栗田さんの遺体の傍に落ちていた土器に関しては誰か知っていましたか?」

「いや、誰も…栗田が持っていたところを見た人間もいないけど…」

「正直、島に行けば簡単に手に入れられるからな」

 公家も意見を出す。

 それを聞くと、古見澤は荷物を持ち上げる。

「公家さん、約束通り、送ってもらいますよ」

 刑事三人はそれぞれ顔を見合わせた。

「どういうこと?」

「公家さん、誰が殺したかわかれば、仕事無くなるでしょ」

 公家は複雑な表情で頷いた。

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