中3編 燃焼

 夏の大会が終わりもうすぐ夏休み、田中は思考が停止していた。

 きっと定年退職をして1日テレビを見ているだけのおじいさんやお婆さんがボケるのは刺激が無いからだろうと勝手に考えていた。蝉の声もまばらに聞こえて頭がダルい。


 授業が自習になったので、みんな自主勉強を頑張っている。教室の中はザワザワとした空気他の生徒の話し声が耳に入る。斜め後ろの平野のが終わっていない宿題に手を付けている。


 平野『田中さん宿題終わった?』


 田中『まだ、やらなきゃ行けないんだけどダルくてどうしようも無いんだもん。』


 高美『たいすけ、その宿題まだ終わってないの?』


 平野『えっ田中さんの方が終わってないよマジで』


 田中『いや俺持ち出すなよ。てかどこが宿題なの?』


 平野『me too me too俺も分からない。』


 高美『ここだよ。午後の授業で提出だよ。』


 平野『いや提出なのは知ってる。やる場所を知らないだけ…』


 田中『提出?ヤバいじゃん見して平野。』


 平野『いや終わってないって、みーに頼もう。』


 高美『見してあげてもいいけど、しっかり返してよたいすけに物貸しても帰ってこないから。』


 田中はソワソワしている。平野と高美さんが何故かとても仲が良いのだ。名前とあだ名とは、理解できない領域の仲良しだ。気になってしょうがない。宿題どころではなくなって来た。


 田中『平野と高美さんって同じ小学校?だったよね確か。』


 今更かよと思われるかも知れないが田中にしてはプライベートに突っ込んだ勇気ある質問だった。


 平野『そうだよ〜家も近いし。』


 高美『うん。親同士が仲良い。お姉ちゃん同士も仲良いから小学校より前から知ってた。それにたいすけの家のみかん良く親が買ってくる。』


 田中『みかん?なに?農家?』


 平野『そうだよ〜農家。みかん以外もやってるから田中さんも買いに来てよ。良く手伝いしてるから。』


 田中『おっおぉーそうだったのか。金渡すから学校持って来てよ。』


 平野『よく先生に売ってる。』


 高美『おいしいよたいすけの家のみかん。』


 テンポ良く話してくる2人、平野に対して少し嫉妬した。家が近くて親同士の仲がいいとこんなにも仲良く話せる何て、平野からは何一つ緊張などを感じない。田中と話しているのと同じように高美さんと話す。


 平野『みーがもっと高身長で美形だったら良かったのに、見慣れすぎてつまらんよな。』


 高美『はいはい別にたいすけに好かれたく無いから勉強して。』


 田中『……』


 何も突っ込めなかった。少し間が空いて平野が話す。


 平野『田中さんどんな人がタイプ?』


 高美『私も気になる。普段静かだしそう言う話聞いた事無いから。』


 田中『えっ急に。』


 田中はドキドキしてきた。自分が少しあがり症な事を思い出した。顔が熱くなってくるのを感じる。さっきまで全然見てもいなかった宿題のノートに目線と顔を落とし話す。


 田中『んー色白で小柄。』


 あまり言い過ぎると高美さんの事を丸々言ってしまいそうだったので、やんわり他にも居そうな人物像を答えた。


 平野『そんなのいっぱいいるじゃん。目の前にも居るし。笑』


 高美『うるさい。田中君らしいでしょ?たいすけみたいに高身長美人みたいに高望みしてないんだよ。』


 高美さんがノートを見ながら答える。


 田中『んっまぁーあんまりこだわらないよ好きになった人がタイプって事でお願い。』


 どこかで聞いた事のあるような寄せ集めのセリフを言ってその場をしのぐ、まだノートを見た顔を上げられない。


 平野『えぇーもっと知りたいんだけど。じゃーさぁ〜、今まで付き合った事は?好きになった人は?』


 田中『えぇー……付き合った事無いよ。好きになった人も居ない。』


 平野『嘘ダァー笑』


 田中は何故か急に付き合った事もない好きな人も居ないと言った自分の回答がとても子供っぽく思えた。しかし付き合った事も無いし、好きだった人も居ない。現在好きなのが高美さんである。全て真実だったので何も罪悪感はなかった。


 平野『みーも付き合った事無いよな…てかあんまり男と話してるの見た事無いわ〜』


 田中『えっそうなの?意外』


 高美『うん、無いよ…そもそも人見知りだしそんなに自分から話せない。』


 田中『me too me too 人見知り僕も。』


 高美『急にたいすけの真似しないでよね笑』


 平野『me too me too人見知り』


 田中、高美『嘘つかないで笑』


 平野の突っ込んだ質問に内心逃げたかったが、平野の全く周りの事を考えない、好奇心で聞いてくる質問に、耐えて良かったと思った。

 自分では聞けない、高美さんの恋愛事情を知れたし、何より自分の情報も平野のお陰で知ってもらうことが出来た。

 気を使わずに話す平野が大人っぽく見え、これが平野のモテる理由なのかも知れないとも思ったが、自分には到底真似できないと思った。










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