DAY 2-3

「……んん?」


 遥翔はるとは目を開けると、いつもと風景が違う事に気が付いた。


「……」


 そうか。


 ここは離れだ。


 仲野なかのに誘われ、高嶋たかしまという女の子も一緒に酒を飲んで……。


 その後は記憶が曖昧だが、酔っぱらって寝てしまったのだろう。


 少し頭が痛い。


 それに、何だか全身が汗ばんでいる様でとても不快だった。


「一之瀬さん、起きられましたか」


 突然後ろから声が聞こえ、遥翔は驚いてガバッと起き上がった。


「すみません、驚かせてしまいましたか」


 振り向くと、仲野がベッドの上に座っていた。


「いえ……僕、寝てしまったんですね。こちらこそ、迷惑をかけてしまってすみませんでした」


「構いませんよ」


 仲野はベッドから降りると、コップに水を注いで遥翔に手渡してくれた。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


 喉がカラカラだった。


 遥翔は一気にコップの水を飲み干した。


 喉が潤い、まるで生き返った様な気分になる。


「はぁ……」


 壁に掛けられた時計を見ると、既に二十三時半を過ぎていた。


 テーブルの上や床はゴミが綺麗に片付けられている。


 そう言えば、高嶋の姿が見えないがどうしたのだろうか。


 遥翔は辺りをキョロキョロと見回した。


「どうかしましたか?」


「あ……高嶋さんはどうされたんですか?」


「ああ、高嶋くんなら、少し前に帰りましたよ」


「えっ、帰ったんですか?」


 確か高嶋は結構な量を飲んでいた記憶がある。


 それに車で来ていたはずだが……。


「はい、帰りましたよ。彼女のお兄さんが運転代行の仕事をされていましたね。あらかじめ頼んでおいた様です」


「なるほど、そういう事でしたか。あっ、あの……」


「はい?」


 遥翔はふと、疑問に思っていた事を仲野に尋ねようとした。


“夜でも部屋の中でも、ずっとサングラスをかけているんですか”と。


 しかしすぐに、身体的や精神的な問題でそうしているのなら聞くのも悪いと思い直し、言葉を飲み込んだ。


「いや、あの、もうこんな時間なのでそろそろ失礼しますね。遅くまですみませんでした」


「とんでもない。私はとても楽しかったですよ。とても……」


「僕もです。でもこれから久々に飲む時は、ちょっと注意しないといけないですね。あ、あと高嶋さんにもよろしく言っておいて下さい。では……」


「分かりました。いい夢を。おやすみなさい、一之瀬さん」


「おやすみなさい。失礼します」


 離れを後にし、家に戻ると、遥翔はすぐ風呂場に向かった。


 かなり寝汗をかいたのだろうか。


 とにかく不快で、早くシャワーを浴びたかった。


 ズボンを脱ぐと、下着が少し濡れて染みになっているのに気が付いた。


 下着も脱いで確認してみると、独特の匂いがして、下着だけでなく性器まで何だかべとべとしている。


 不快の原因はこれだろうか。


 遥翔は思春期に夢精をしてしまった時の感覚を思い出していた。


 そう言えば、ハッキリとは思い出せないが、さっき何かいやらしい夢を見た様な気がしないでもない。


 最近溜まっていたのは事実だが、この歳で夢精をしてしまうとは。


 結衣ゆいに見られない様に、今日の内に洗ってしまおう。


 遥翔は洗濯機に下着を放り込むと、シャワーを浴び始めた。


※以降は「ムーンライトノベルズ(小説家になろう)」に掲載いたします。

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蝶は悪夢の華に棲む 安住 爽 @azumisou

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