エピローグ

 終わりよければすべてよし、というけれど、それは正しいことなのだと思う。

 中学時代の締めくくりは最悪だった。だから、記憶を思い出すたびに苦しい思いをしていた。

 高校に入ってからもひねくれていたのは、友達がいなかったから。

 遊び呆けている友達にざまあみろと言いたい?

 違う、ざまあみろなんて思いたい対象が友達なわけがない。

 そして、その人が友達といるのが羨ましかっただけだった。


 自由なんてなくても、友達がいれば窮屈な枠の中にいても大丈夫。

 私は何も知らなかった。

 本当の自由を本気で求めている人なんていない。大人になって、使えるお金が増えて、行動範囲が広がるってことは、それだけ友達とできることが増えるってことで――それで満足している。


 私はまだまだ子供だ。

 遥香も、

 夏歩も、

 皐月も、

 唯も、

 周りの同級生だって、

 みんな子供だ。


「あっちの方空いてるっぽい?」

「だね、にしても今日は混んでるなー」

 学食、昼休み後半。無事に二年生になった私たち五人、クラスは三つに分かれた。

「飲み物買ってくるねー」

「了解!」

「任せた」

「ミルクティー頼む」

「あ、一緒に行くよ」

 遥香と一緒に、学食入口の自販機に行って、手分けして五本購入する。

「戻ろっか」

「早く行かないと女王さま方がお怒りになるもんね」

 中に戻ると、人でごった返していて、隙間隙間を通りながらなんとか進んでいった。

 どすっ。

「きゃっ」

「わっ」

 新入生か、制服が真新しい女の子とぶつかってしまった。

「ごめんね、大丈夫?」

「す、すみません」

 女の子は慌てて頭を下げると、あっという間に逃げていった。

「怖がらせたかな?」

「まあ、仕方ないよ」

 遥香は、私が落としてしまったペットボトルを拾う。

「……あ」

 スマホも落ちていた。

「あの子のかな?」

「……渡してくる」

 手持ちのペットボトル二本を遥香に頼んで、私はスマホの持ち主であろう、あの女の子を探した。幸い、購入待ちの列に並んでいるところをすぐに発見できた。

「ほんとにありがとうございます!」

 急いで席に戻ると、拍手とともに迎えられた。

「よっ、はるるんから聞いたよ。大人な対応したなー」

「さすがちーたんだよ」

「そんな、すごいことしたわけじゃ……」

「誇っとけ、な。お主は立派じゃよ」

 笑いが起こって、私も釣られて笑う。

「早く大人になりたいー!」

 私は叫んだ。そう叫びたかった。

「急にどうした。もうちーたんは精神的には大人……じゃないか?」

 と、皐月。

「なんだその疑問形。ちな私は幼稚園児に戻りたい。この圧倒的な頭脳を持ったまま」

「夏歩がそんなことしたらしょうもないことになるな」

「ねー。私はちーたんの大人になりてぇよ論に賛成だぁ」

 唯がこぶしを効かせた調子で言った。無駄にテクニカルで器用なことをする。

「そんな言い回ししてないよ」

 私は苦笑しながらツッコんだ。

 ざわめく食堂の角の席で、学食で買えるスイーツを食べながらだべるこの時間。

 窓に見えるのは、私たちの進級を祝う桜――。

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ただ、変わった ちょうわ @awano_u_awawa

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