エピローグ
「どうして。どうしてだよ。十六夜!」
俺は夜の公園で悲しみに暮れていた。
今までの思い出を噛み締めながら俺は情けなく泣き叫んでいた。
それでも十六夜との思い出は消えることない。
一番分からないのは振られた理由だ。
好きなのに別れる。その意味が分からなかった。
好きだったら別れることはない。別れるという発想すらおかしいのではないだろうか。
「くそ。くそ。くそ!」
木に額を叩きつけている時である。
背後に人の気配がした。
やばい。不審者に見られただろうか。
「優雅?」
俺は振り向いた。
するとそこには栗見葵の姿があったのだ。
「葵?」
体型は五年前とは変わらず、栗毛のパーマは健在である。
変化があるとすれば少し髪が伸びた程度だろうか。
「こんなところでどうしたの?」
「いや、ちょっとな」
「私に言ってみて。誰かに言うことで気分が晴れるかもしれないよ?」
「葵……」
俺は十六夜に振られた経緯を話していた。
「好きなのに別れるか」
「葵。その意図は何だと思う?」
「それは私にも分からないけど、優雅を嫌いにさせる要素を持ってしまったとかじゃないかな?」
「嫌いにさせる要素?」
「分からないけど、重い病気に掛かったとか、多額の借金を背負ってしまったとか。付き合っていくのに負担の掛かる要素を背負ってしまった。そんな感じがする」
「そんな。じゃ、十六夜は」
「おそらく優雅に心配を掛けないようにあえてそう言い方をした。私の予想だから絶対とは限らないけど」
「なら、連れ戻さなきゃ」
「待って」
「何で止めるんだ」
「夜桜さんが何のために別れを告げたか考えてあげて。きっと本人も辛かったと思うよ」
「じゃ、俺はどうすれば」
「今は何もしない方がいい。時間を置いてその時が来るまで待つ方がいい」
「待って万が一のことがあればどうするんだ」
「私がいるよ」
「え?」
「夜桜さんが居なくなっても私が絶対に優雅から離れることはないって宣言する。どんなに辛いことがあっても苦しいことがあっても私は優雅と共にと乗り越える自信がある。夜桜さんはその重荷に耐えられなかったかもしれないけど、私は違う。ずっと一緒にいるから。ね?」
ギュッと葵は俺の腕を強く握り締めた。
「葵。お前、まさか記憶が……」
葵は五年前に記憶を無くしてから今に至るまで戻っていない。
あるのは五年間の記憶だけ。
俺が好きだったことなんて五年前に忘れているはずだった。
「私、この五年間で五年前から優雅のことが好きだって気付けた。勿論、記憶は戻らないけど、私の身体が優雅を好きって言っている。私は自分の本能を信じたいと思う。だから私はずっと高嶺優雅を好きであることを宣言します」
葵は俺を抱きしめた。
記憶を無くしても俺のことが好きであると言う本能は変わっていない。
ここまで俺を想ってくれる人は葵を置いているだろうか。
いや、おそらくこの先もずっと現れることはないだろう。
「葵。ありがとう。俺はお前しか居ないかもしれない。好きだ。葵。大好きだ」
「私もだよ。優雅。ずっとずっとこれからも好き。愛しています」
そして、俺と葵は口づけを交わす。
友だちなんてもういらない。
俺にとって大切な存在はずっとそばに居たじゃないか。
それなのに俺は今の今まで気付けなかった。
なんて情けないんだ。
葵はニヤリと微笑んだ。
そして俺の耳元でこう囁いたのだ。
「計画通り」と。
ーーーーー完結ーーーーー
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
完結まで出来たのは皆様のおかげです。
別作品も連載中ですのでそちらもどうぞ応援お願いします。
それではまた!
勝確の幼馴染がラブコメ展開を全力で阻止する件〜その一方で負けヒロインと仲良くなってしまう〜 タキテル @takiteru
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