最終話「玩具と伝える大切さ」
「私、定明くんのことが……」
え、待ってくれなんですかこの今から告白しますみたいな雰囲気?
この後に続く言葉で、好きです、以外の言葉なんてないだろ。
いや、まさかそんなことがあり得るはずがない。
だってかみこだぞ? 男子人気ナンバーワンのかみこが、別段運動ができるわけでも特技があるわけでもない俺に告白してくるなんてあり得るはずがない。
とはいえ、かみこが俺のことを好きになる可能性だってゼロではないはずだ。
そう淡い希望を抱いた次の瞬間、俺の鞄の中からブーっという音が鳴り響いた。
そして教室中の視線が俺の方へと向く。
「あ、えーっとあの、こ、これはその……」
どうやらかみこが俺に何かを言おうとして近づいてきた弾みでバイブの電源が付いてしまったらしい。
まずバイブを停止させればいいものの、慌ててしまっていた俺はバイブを止めることもできず言い訳も思い浮かばず焦っていた。
クラスメイトからの視線が痛い。俺はかみこから変態扱いされただけではなく、教室中の生徒、いや、学校中の生徒から変態扱いされることになるんだ。
高校生活完全に終わった……。
「定明くん。学校にスマホを持ってきてはいけないというルールはないけれど、授業中はせめて電源を切っておきなさい」
「……え?」
そう言いながらかみこは俺の鞄の中に手を突っ込み、ボタンを押してバイブの電源を切った。
「あ、ああ……ごめん」
「ありがと加中さん。私が言いたいことを代わりに言ってくれて。流石学級委員長ね。定明くんはこれから注意すること」
「は、はい……すいません」
先生は鞄の中から音が鳴っていたのは完全にスマホだと思ったようで、加中に俺を注意したことに対するお礼をしてから俺の方へと向けていた視線を黒板の方へと向けなおした。
それに続いて生徒達も俺から視線を外し黒板の方へと視線を戻す。
かみこは俺の鞄の中に入っているものがバイブだと知りながら、嘘をついて俺を助けてくれた。
これは普段の行いが良くてクラスメイトから認められているかみこだからこそ成せる技だ。
「ありがとう。助かったよ」
「別にお礼を言われるようなことではないわ」
お礼を言われるようなことではないと言うが、かみこは俺の高校生活を救ってくれたのだからお礼を言わずにはいられない。
それにしても、かみこはなぜ嘘をついてまで俺を助けてくれたのだろうか。
「でもなんで助けてくれたんだ? かみこからしたら今の俺なんて助ける価値も無いただの変態なんじゃねぇのか?」
自分で言っていて悲しくなるが、鞄の中にバイブを入れている人間に価値なんてないし変態としか言いようがない。
「変態だなんて思ってないわ。だってそれ、友達とノリで買っただけで誰かに使ったり使う相手がいるわけではないのでしょう?」
「それはまあそうだけど……信じてくれるのか?」
「その代わり、一つだけお願いがあるんだけど」
「な、なんだ?」
そう言いながらかみこは俺の耳元へと顔を近づける。
「そのバイブ、いつか私に使ってくれない?」
耳元で囁かれたその言葉の意味が理解できず、俺は固まってしまった。
「……え? --は⁉︎ 何言ってるの⁉︎」
「そのままの意味で取られたら困るわ。要するに、付き合ってってお願いしてるの」
「つ、付き合ってって俺と⁉︎」
「わざわざあなたの耳元で言ってあげたんだからそれくらい理解してちょうだい。他の人なわけないでしょ」
「そ、そりゃそうだけど……」
「どうなの? 付き合ってくれるの?」
「お、俺だって前からかみこのことはずっと好きだったし、それが本心なら付き合ってほしいとは思うけど……」
「す、好きっ……。そっ。それじゃあそのバイブ、私以外の誰かに使ったりしないでよね」
「--っ⁉︎」
耳元で囁かれるかみこの言葉に何度も驚かされた俺は持久走が終わった後くらい疲弊していた。
そんな俺とは正反対に、かみこはその後上機嫌で授業を受けていた。
そして、大人になった俺がかみこにバイブを使ったのか使っていないのかは言うまでもないだろう。
間違えて学校に大人の玩具を持ってきてしまったのが隣の席の美少女にバレて横から脅されるんだが 穂村大樹(ほむら だいじゅ) @homhom_d
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