第6話「玩具と本心」
かみこが三つ目のお願いを考え始めてから十分が経過したが、未だにお願いをしてくるような気配はない。
かみこの信頼を勝ち取るためにどんなお願いであっても聞くつもりではあるが、ここまで悩まれると最後のお願いの内容がどんなものなのか不安になる。
それにしてもかみこが俺にしてきた二つのお願いの内容はあまりにも意外なものだった。
連絡先を教えてくれと言ってきたり、写真を撮ってほしいと言ってきたり、あたかも俺に気があるのではないかと勘違いしてしまうようなお願いばかりしてくる。
いや、まあ連絡先だってかみこの言う通り俺を監視するためだと考えれば納得がいくし、一緒に写真を撮りたいというお願いにもきっと何かしら意味があるのだろう。
わけの分からないお願いではあったが、そんな簡単なことでかみこからの信頼が回復するのであればラッキー極まりない。
「定明くん、あなたは私がお願いしたことを絶対聞き入れなければならない立場にいるわよね?」
「ん? まあそうだな。かみこに疑われたままなのは嫌だし」
「それなら……」
「……?」
「私と、付き……」
「付き?」
かみこは何か言葉を発っしようとしたが、壊れた音声ナレーションのように急に喋るのをやめてしまった。
◆◇
なんでもいうことを聞いてくれるとはいっても限度があることは理解している。
しかし、私の頭の中には一つだけ、その限度を超えてしまうであろうお願いが思い浮かんでいた。
それは、私と付き合ってほしいというお願いだ。
今私が定明くんに付き合ってくださいとお願いすれば、バイブを学校に持ってきているという弱みを握られた定明くんに断る権利はない。
それに、彼女もセフレもいないのであればこのお願いを聞けないはずがないのだ。
「私と付き……」
「付き?」
頭の中に思い浮かんだお願いを考える前に言葉にしそうになってしまったが、ギリギリのところで踏みとどまった。
今私がここで定明くんに付き合ってくださいとお願いして付き合えたとして、それが正解なのだろうか。
仮に付き合えたとして、契約じみたその関係に果たして意味はあるのだろうか。
私が今からしようとしていたお願いが正解か不正解かは、少し考えれば容易に答えが出た。
今まで私が定明くんに抱いてきた想いをそんな形で終わらせてはならない。
今はまだ定明くんとの関係がただのクラスメイトであったとしても、この先私が頑張ればこんなところでお願いをしなくても定明くんと付き合えるかもしれない。
定明くんが私のお願いを聞かなければならないという状況を利用して、無理矢理突き合わせるなんて絶対に間違っている。
そう気付いた私は言葉を止めることができた。
それに、今こうして定明くんに鞄の中に入っていたバイブについて問い詰めるのは無意味なことなのだろう。
こんなことをしているくらいなら、早く自分の気持ちを伝えてしまった方がいいのかもしれない。
「定明くん」
「どした?」
「あと一つ、お願いを聞いてもらう権利が残っているけど私はその権利を行使しないことにするわ」
「え? それでいいのか? 俺としてはかみこに信頼してもらうためにあと一つお願いを聞きたいところんなんだが」
「それなら大丈夫。私は定明くんがまだ高校生なのにあんな物を女の子に使う人じゃないって理解してるもの」
「そうなのか? それなら今までのお願いって……」
「今から私が言うことは、冗談でもなんでもなくて、私の本心だってことを理解したうえで聞いてほしいの」
「え? どゆことだ?」
「私、定明くんのことが……」
私が定明くんに自分の想いを伝えようとした次の瞬間、定明くんの鞄の中から教卓まで届くかどうかギリギリの音量でバイブ音が鳴り響いた。
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