ミドルシュート

 私は彼が好きだ。

 だけれどこの想いは彼に届かなくていい。むしろ届かなくていいのだ。誰にも知られなくていいとまではいかない。でもこの想いを知るのは私と親しい友人数人で十分だ。それ以上でもそれ以下でもない。これでいいのだ。

 私はカメラを持って彼がサッカーを楽しむ様子をシャッターに撮る。それだけで幸せなのだ。彼はレフティーだ。彼の左足から放たれるフリーキックは本当によく映える。彼には水色と白色の縦縞が似合うかもしれない。シャッターを押すことを忘れて見入ってしまうくらいカッコいい。連射しないといけない場面なのに関わらずだ。

 放課後になると部活になる。そこで私は「風景を撮ってきます」といった風に何かと理由をつけてグラウンドに向かう。といっても隅の電柱に隠れているが。彼はいつも1番に来る。全体練習が始まるまでの間彼は黙々と自主練をする。基礎連中心なのに見とれてしまう。今日も隠れて写真を撮ってしまった。

 写真を撮ってから後悔してしまう。「見られてたらどうしよう」とかさ。さっきも言ったけど彼にこの想いは知られたくない。いや知られてはいけない。彼に知られても無駄なだけだ。告白してもどうせ思いっきりフラれるだけ。どこに望みがあるというんだい。

 だから彼とは距離を置いている。近づくことはない。おそらくこれからも。ましてや彼の方から近づいてくるなんて。

 そんなことを考えていたら彼が私の方を見てきた。そして近づいてきた。「もしかしてばれた?」一気に顔が赤くなる。ついにそばまで来てしまった。「何言われるだろう…」もうこの場で死んでしまいたいくらいだ。

 「相澤さんっていつもここで写真撮ってるよね?」ああやっぱり…ていうか前からづいてたのか…恥ずかしくて仕方がない。

 「よければこれからずっと撮った写真見せてくれないかな」

 「え?」

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