フィルムに映る君がいい

@orangenius

フィルムに映る君

 私は彼が好きだ。

 でもそばにいるのでも,遠くから眺めるのでもなくて,フィルムに移った君がいい。彼の華麗な姿をフィルムに残しておきたい。

 人にはいつも聞かれる。「もっと近づけばいいじゃない」ってね。でも私は今のままでいい。私にはこれが似合ってる。彼は私のずっと向こう側にいるのだから。そうこのままでいいのだ。別にやせ我慢とかそういうわけじゃない。

 フィルムの中だと彼はずっとそこにいる。私は彼のことをずっと見られる。私はそれだけで幸せだ。付き合うとかイチャイチャするとか,ましてや結婚だなんておこがましい。

 私はいつもこんな調子だ。さっきも言ったが周りの友人たちには色々言われる。けどそのたびに「私じゃ彼には似合わない」と返してしまう。そうなのだ。私はお世辞にも可愛くないし,スタイルもよくない。成績や運動神経も至って普通だ。私は写真を撮ることしかできないのだ。

 それに比べ彼はイケメンであり,成績優秀,サッカー部のキャプテンで運動神経も抜群,明るく活発な性格でクラスの人気者。どこからどう見ても私とは絶対に釣り合わない。彼とのつながりは同じ中学校の同じクラス「1年B組」のクラスメートであるだけ。それ以外の接点なんて何もない。ここからどうやったらそういう関係になるんだか。

 そんなんだから私は彼に近づこうとしていない。いやむしろ私の方から遠ざけている気がするのだ。

 確かに私は彼が好きだ。本当に好きだ。だけど彼の姿はフィルムに移るものだけでいい。彼に近づこうだなんて夢のまた夢なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る