第二十六楽章
「素晴らしい。その蛮勇ともいうべき勇気。しかし、勝負の女神は勇者を好むと言う。君も愛してもらえるかも知れないな。では、これで私と君とは対等の立場となった。先刻までの非礼を詫びよう。私はアラン=プリューヌ。以後お見知り置きを」
アランは恭しく胸に手を当ててそう名乗った。
「さて、勝負の内容は
ゲームの内容を提案されるが、生まれてこの方ギャンブルなどしたことがない。それがどんなゲームなのかも皆目見当がつかなかった。
「ルールは教えてくれるんだろう?」
アランは「ほう」と少し感心したように吐息を漏らした。
「もちろんだとも。アポロ君」
男が右手を上げると、手下の一人が何か小さな箱を持ってきた。アランはそれを受け取ると、その小さな箱を開けて中からカードの束を取り出す。そして、それをテーブルの上で滑らせて広げて見せた。カードには何やらマークと数字が書いてあるようだ。
「このカードには一から十二までの数字が書かれている。そして、それぞれの数字に対し、カードは四枚で、計四十八枚ある」
確かに、四枚ずつ順番に並んでいた。
「そして、カードには四種類のマークが付いている。見たまえ」
そう言って、アランは向かって左端の<1>と書かれたカードの四枚を俺の方にスライドさせ、よく見えるようにした。
確かに全て別のマークがついていた。
花、太陽、月、これは……風か?
「左から、<春>、<夏>、<秋>、<冬>だ」とアランが一つずつ指をさす。
なるほど、だから四季札なのか。
「つまり、数字は一月から十二月を、マークは四季を表している。」
「それで?」
「ルールは簡単だ。まずカードをシャッフルしてここに置く」
アランはテーブルの中心に描かれた四角い枠の中にカードの束を置いた。
「そして、山札から四枚引き、この周りに並べる」
そう説明しながらアランは山札を中心にテーブルに描かれた四つの枠の中にカードを表向きにして並べていった。
「そして手札を一枚ずつ配る……」
一枚のカードが裏向きのまま俺の前へと配られる。
アランは自分の手札を俺には見えないように掲げる。そして、俺も自分の手札を見るようにと目で指示してきた。
俺の手札は<夏の3>だった。
「これで準備は完了だ。プレーヤは最大三回まで手札と山札から引いた一枚と交換できる。そして、数字が一番大きかった者の勝ちだ」
「それだけか?」
「基本的なルールはそれだけだ。しかし、面白いのはここからでね。まず、プレーヤは交換のため、山札から一枚引いた後、どちらか一方を捨てる選択をするわけだが……」
アランは山札を引き、自分の手札に加える。
「捨て札はこの場に並べられている四つのカードのどれかひとつの上に置かなければならない」
そう言って自分の二枚の手札のうちから一枚選ぶと自分の前に置かれたカードの上へと表向きにして置く。
<春の5>だ。
「さあ、アポロ君も引きたまえ」
山札へと伸ばす手は緊張で震えていた。
引いたカードは<秋の12>だった。確か、数字が大きい方が勝つんだったな。だとすれば、<12>はこのゲームにおいて最強のカードだ。
俺は<夏の3>を自分の目の前の場に捨てた。
「さて、本来はこれを三巡するのだが、省略しよう。ああ、もちろん手札が強い場合は引かないという選択もできるがね。さあ、勝負だ。アポロ君」
そう言ってアランは自分の手札をオープンする。それは<春の10>だった。
自分の手札もオープンする。俺のは<秋の12>だ。
つまり、俺の勝ちである。
「この場合は君の負けだ」
「なんでだ! 数字が大きいのは俺の方だろ!」
「まあ、落ち着けたまえよ。このゲームはね、勝負の時に手札と同じマークが、四箇所ある捨て場のカードと少なくとも一枚は一致している必要があるんだよ」
捨て場のカードは<春>が二枚、<夏>が二枚だった。俺の手札と一致する<秋>のカードは一枚もない。
つまり、このゲームは自分の手札の数字を大きくするだけでなく、手札と同じマークをいかに場に残すか、そして、相手の手札のマークを予想し、それをいかに消すかを考える必要があるのだ。
「基本的なルールは分かった。しかし、出したカードの数字が被った場合はどうなるんだ?」
「その場合は、数字とマークの季節があっているカードが勝利するのだが、今回は簡単にするために引き分け、つまり配当金は等分することとしよう」
おそらく、7月を意味する<7>のカードは<夏>のマークが最も強いとかそんな感じなのだろう。ただ、ルールがややこしくなるのはこちらとしても避けたい。単純化してくれると言うのなら文句はない。
「分かった。それで、賭け金はどうやって決めるんだ?」
「手札が配られた時点で、親が掛け金を設定する。プレーヤは全員、この掛け金を払ってからスタートする。そして、全てのプレーヤは自分が山札を引く前に、掛け金を釣り上げることができる。他のプレーヤは提示された追加の掛け金を払って勝負するか、勝負から降りるかを選択する。ただし、降りる場合は親が最初に設定した掛け金の半分を払う必要がある」
「なるほど……で、勝ったものがその場にプールされた金を総取りできるってことか」
アランは、人差し指を立てると左右に振る。
「ちょっと違う」
正直、これ以上ルールが複雑になるとついていけない。
「まだルールがあるのか!?」
「そうだ。しかし、この最後のルールこそ、このゲームの面白く、そして最も恐ろしいところだ」
アランは怪しく口角を歪める。
「もし、勝利したものの手札のマークと、四ヶ所ある捨て場のマークが全て一致していた場合、例えば……」
そう言いながら、アランは山札から二枚引くと、捨て場の<夏>のカードの上に置いていく。それらのカードは<春>だった。この瞬間、四ヶ所すべてが<春>のカードになった。
そして、先ほどオープンした自分の<春の10>のカードをとんとんと叩く。
「この場合、私の勝ち分は、場にある掛け金の四倍となる」
「なんだって!? それじゃあ、大損じゃあないか!」
「そのとおりだ。気をつけたまえよ。まあ、こんな奇跡はほとんど起こらないがね」
アランは邪悪に笑うのだった。
ルールは分かった。
勝てる自信はないが、マリオとここを無事に出るためには、なんとしても勝たねばならなかった。
「分かった。やろう」
アランは満足げに頷くと、手を叩く。
すると、どこからともなく二人の手下が現れ、空いている左右の席に座る。
「このゲームは人数が多い方が面白い。良いかね?」
アランはそう尋ねてくるが、手下の一人が俺の回答を待たずに四人に手札を配り始める。選択の余地はないようだ。
「ああ」
俺は腹を括って配られた手札をみる。
<冬の1>だった。
身を切るようなタリアータの冬を思い出す。
まるでこのカードが自分の行く末を暗示てしているようで、思わず身震いしてしまった。
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