(2)

 ポータルから出てきたのは、快活で自信に溢れた実業家女性、つまり、タケルの妻アイラナだった。タケルは、安堵した。


「靴箱の上に非常灯を置いたって、前に言ったでしょ」

「すまない、忘れていた。使わないものだから」

「あなたが忘れていてくれたお陰で、私は、明りに困らなかった。結果オーライよ」


 タケルの妻は、頼もしい笑顔を浮かべながら、手にした非常灯でタケルを照らした。赤く濡れたタケルの手が、照らし出された。


「怪我しているじゃない。どうしたの?」

「暗闇と戦っていた」

「前照灯を内蔵した鹿撃ち帽の輸入を検討するわ。帽子についている灯りなら、忘れないよう気を回さなくていいでしょ」

「ホームズ風か。売れ筋商品になるかな?」

「最初のお客様の宣伝っぷり次第ね」

「得意分野だ」

「OK。じゃ、怪我したところを出して」


 タケルが手を出して傷口を見せると、彼の妻は、耐水袋から取り出したスライム状の物体を、その傷口に当てた。流れ出していた血は、またたく間に止まった。それだけでなく、タケルの身体に新たな活力がやってきた。


「すごいな、これは」

「彼らの絆創膏。売れ筋なのよ」

「フトゴース人の技術に対する評価を改めるしかないね」

「でしょ。原理はさっぱりわからないけど、私たちにもよく効くのよ」


 正体不明のフトゴース人のテクノロジーが自分の身体に使われたことは、タケルを落ち着かなくさせた。しかし、傷も痛みも、それらによる疲労もまたたく間に癒したそのスライムは、悪いものではなさそうに思えた。

 傷の件がひと段落して余裕ができたタケルは、彼の疑問を妻にぶつけた。


「しかし、どうしてここが?」

「玄関に鍵もかけずに飛び出した慌てん坊がいたから、端末の位置情報の履歴を呼び出したの。本土行きのポータルから先は、履歴が届いてなかったからしらみつぶし。あなたが飛んだポータルを7回目で引けたのは、主の導きか招き猫の力ね」

「その調子で、トムの行き先もすぐ見つかるといいんだが」

「わかってる。彼らの相手は、任せて」

「頼む。俺たちの子だ」

「そうよ。私たちの子よ」


 タケルは、頼もしい妻が一緒にいることがうれしかった。

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