(第二場)
(1)
ポータルは、またたく間にタケルを「本土」へと移動させた。
タケルは、ポータルでついた粘液のしずくを払い、荒れた息を整えた。
タケルは、自宅近くのポータルで指示した行き先に着いたか確かめようと、あたりを見回した。
ポータルの外には、「出島」よりいっそうぬめぬめした「本土」が広がっているはずだったが、タケルは、取材で見慣れているはずの「本土」の景色を、どこにも見いだすことができなかった。「弟の月」は、タケルたちが住む「出島」の月明かりだけでなく、「本土」の月明かりをも遮り、あたりを宵闇で包んでいた。
この宵闇には、別の理由もあった。
夜の「出島」では、あちこちに設けられた街灯が、青みを帯びた柔らかい光で辺りを照らしていた。しかし、宵闇の「本土」には、その光がなく、街灯があると思しき位置には、青紫の薄明かりが点々とするのみだった。
タケルは、フトグーイへの出国前に読み込んだ、生物学者の報告書を思い出した。ファーストコンタクトを行ったチームに帯同したその生物学者は、フトゴース人の視覚について、次のように報告していた。
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(2) フトゴース人の視覚
フトゴース人は、可視光帯域が地球人のそれと異なると思われる。フトゴース人が頭部に備える一対の視覚器は、波長が300から600ナノメートルの電磁波を好適に受容するよう構成されているものと推定される。すなわち、フトゴース人は、近紫外線のうちUV‐Aから可視光線のうち黄色の光までに対応する範囲の光を「視る」生物であると考えられる。
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「本土」の街灯は、「出島」の街灯と異なり、フトゴース人たちの視界を照らし、タケルの足元を照らさない、紫外線ライトであるに違いなかった。
(「本土」では、俺たちに気を遣う必要がない、ということか。)
タケルは、手探りで宵闇の中を進もうとして、足を滑らせた。
慌てた彼の手は、支えになるものを探して動き回った。そして、彼の手は、フトグーイにしては珍しい、固くとがったものに引っ掛かった。タケルの手は、ひどく傷つき、温かい血を滴らせた。
手を押さえてうめくタケルの背後で、ポータルが人物の到着を告げた。
タケルは、傷口を押さえながら振り返り、身構えた。
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