(5)
メーリは、タケルがカップを落としたことに気づいていないようだった。タケルは、努めて平静を装い、メーリに礼を言った。
「メーリさん、息子のことを気遣っていただき、ありがとうございます。忙しくしていたので、息子の不調に気づいておりませんでした。私は、父親失格かもしれません」
「タケルもアイラナも忙しいから仕方ないよ。気にしてるんだったら、ちゃんと休みをとって、トムをお医者さんに見せてあげるんだよ」
「ありがとうございます。そうさせていただきます。それでは、息子を迎えに行ってきます。メーリさん、情報ありがとうございました」
「ハーイ、あ、そうそうタケル。何かあったら、『シェフェリ・シェ、シェフェリ・シャ』って叫ぶといいよ。それじゃまたねー。タケル」
タケルが通話を切ると、端末に未読の通知が表示されていた。通知には、「最後の交信について」と書かれている。タケルは、端末に通知の再生を指示した。
『最後の、交信は、こちらの、場所、で、行われ、ました。この場所、で、詳細な、情報を、得られる、可能性が、あります』
端末には、本土の一角が示されていた。
場所を確認したタケルは、ビデオカメラとボイスレコーダーが内蔵された取材用のスマートグラスをかけ、強化繊維が編み込まれたジャケットを羽織った。
そしてタケルは、ぬめぬめした端末がねじ込まれた取材かばんを手に取って階段を駆け下り、戸口を開け放つと、自宅から一番近いポータルへと駆け出した。
(息子は、絶対に大丈夫だ。俺が息子を守る。)
「シェフェリ・シェ、シェフェリ・シャ。シェフェリ・シェ、シェフェリ・シャ」
タケルは、メーリに教わったフトゴース人の言葉を、意味もわからないまま繰り返しながら、街灯の青白い光の下で走った。
そのまじないが、息子の身を守ってくれると信じながら。
空では、「弟の月」が「姉の月」を完全に覆い隠し、フトグーイでは珍しい宵闇が訪れていた。
出島のフトゴース人たちは、数年に一度の天体ショーに見入っていた。だから、彼らの多くは、血相を変えた地球人が本土行きのポータルに飛び込んでいくのを、気にしなかった。
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