―第二幕―
(第一場)
(1)
その日、トムは、いつもと同じように学校に行って、いつもと同じように下校した。
いつも通りであれば、下校したトムは、クラスメートのパシュシュシェと一緒に彼女の家に行き、ひと通り遊んでから、日が暮れる前にタケルの家に戻っていた。帰宅時間は、トムが両親との間で交わした約束だった。
だが、日没後、取材を終えたタケルが家に戻ったとき、トムは、家にいなかった。
タケルは、慌てた。
「アイラナ、トムは、どこにいるんだい?」
「おかえりなさい、あなた。トムなら、まだ帰ってきていないわ。シュシュパシュさんのところで娘さんと遊んでいるか、他のお友達と一緒だと思う」
「しかし、もうこんな時間だぞ。トムに何かあったらどうする」
「ここの人たちはいい人たちばかりだし、トムは、みんなに好かれているから大丈夫よ。それに、メーリに、何かあったら連絡するよう頼んでいるしね。シュシュパシュさんも、トムのことだから必ず力になってくれるわ。うちの子は、シュシュパシュさんの娘のお気に入りだもの」
妻アイラナの言葉は、タケルをまったく安心させなかった。
順調すぎるフトゴース人たちとのファーストコンタクトの裏を探っていた彼にとって、妻と息子は、フトゴース人たちに対して無警戒に過ぎた。シュシュパシュもその娘も、フトゴース人だ。地球人ではない。
それでもタケルは、経験を積んだ記者だった。だから、彼は、慌てふためいて行動する前にまず、仕事部屋のデスクに腰かけ、取材を行った。さしあたって、彼は、手に取ったぬめぬめした端末に、画像か音声でメーリと通話したいと指示を出した。
タケルは、メーリが仕事やプライベートな用事の最中で出られないことがないよう祈りながら、指示の結果を待った。
幸いなことに、メーリは、すぐに通話に応じてくれた。
「ハーイ、タケル。あなたまで直接通話なんて珍しいわね。何かあった?」
メーリは、いつもの陽気なトーンと、ムスリム女性にしては少々開放的過ぎる格好で通話に出た。トルコは、もともと世俗的なムスリムが多い国で、公の場でコーランが引き合いに出されるような国ではなかった。それでも、メーリの服装は、タケルにかの国の変化を感じさせるに十分なものだった。
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